小説『ヴァルキーザ』第31章(4)
グラファーンは、時の法典を受け取った。
そして、アンに告白した。
「アン、あなたを愛しています」
「グラファーン、私も貴方を愛しています」
アンは答えた。
二人は見つめ合い、そして口づけを交わした。
グラファーンはアンに勧めた。
「城から脱出して下さい」
アンはうなずいた。
そして彼女は、自分の懐から、持っていた短刀を取り出してグラファーンに渡す。
「貴方にお願いがあります。エルサンドラを追いつめても、決して殺さないで下さい」
アンは勇者を見つめる。
「深い理由(わけ)があるのです」
グラファーンはうなずいた。
二人の後よりゼーレスに進入してきた天空人(エスタス)の大隊にアンを託した後、アンに代わって城に残ったグラファーンは、胸に手を当て、アンの無事を祈った。
グラファーンは、ユニオン・シップの他の仲間に追いつくため、ゼーレスの中枢に向かい、道を進んでいった。
しばらく走った後、仲間たちに追いつくと、彼らは目の前にある、3階へ向かう階段を指差して、グラファーンに微笑んだ。
「どうやら、ここで最後の仕事のようです」
アム=ガルンが囁く。
「僕ら、よく頑張ってきたね」
ラフィアが胸を張る。
「みんなで団結したおかげよ」
イオリィが微笑む。
「団員(クルー)たち誰一人脱落しませんでした」
ゼラが目を細める。
「誇るべき7人です」
スターリスが表情を和らげる。
「あとは、エルサンドラを何とかするだけだ」
エルハンストが声を張り上げる。
「みんな…」
グラファーンは、息をつまらせた。
「必ず、生きて帰ろう。決して死ぬなよ!」
「もちろん!」
ユニオン・シップの団員たちは一斉に叫んだ。
そして、皆で円陣を組んで、それぞれ手を差し出し、結束を誓った。
「われらは、常に誠実に…」
「互いに結束し…」
「共に闘う…」
高揚する感覚のなかで皆は一体となり、最後の使命(ミッション)を必ず達成する覚悟を決めた。
さあ、残る相手は、エルサンドラただ一人だ!
ユニオン・シップは心を固め、最上階の3階に通じる階段を昇っていった。
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