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小説『ヴァルキーザ』あらすじ

起源宇宙と呼ばれる遥かないにしえの宇宙に、権神けんしんセレンにより創造された『ヴァルキーザ』(「ヴァル・ク・フス」という古フォロス語(ヴァスナ語)に由来する共通語で「時の最果ての地」の意)と呼ばれる世界があった。そこでは、互いに異種族のフォノン(音子おんし。ここでは宇宙精霊の呼称)たちが、平和に共存していた。これは吟遊詩人ぎんゆうしじんのイプハーンが語る伝説である。

宇宙母神アプスと、その子神で「権神」と呼ばれるセレンと、その妻神アルナト(アルヌ)との下、ヴァルキーザの一部「間宇宙ミッド・ベルト」に一つの惑星「ドリームスター」と呼ばれるアルニダク星が存在した。

その星の大地・ユーンでは、ヴァルキーザの造世された「始成紀」後、プロトファイブズ(フォノンの原五種族)の間の盟約カベナントにより保たれた「イニシャル・オーダー」(最初の秩序、最初の世界)という時代を経て、その滅亡した「大天異時代」、そこから復興してユーンの一地方であるウルス・バーン大陸に古代アルナディア王国を生んだ「古世紀」、その後を継いだ新王国イリスタリア等が栄えた「中世紀」と、歴史が展開した。

中世紀に、ウルス・バーン北東部中央域にある「マイオープ」(イオニカース語(新フォロス語)で「黄金の森」の意)に住むフォロスという木の精霊フォノンの恵まれた家系に、主人公・グラファーンは生を受けた。グラファーンは、生後間もなく、その出生をねたんだ魔女キルカにより死の呪いをかけられてしまう。それは彼が大人に成長すると、世を去る運命をもたらすものだった。

グラファーンの父アルビアスは息子の仇討あだうちにキルカを打つが、そのため彼はフォロスの一族により拘禁される。そして彼は族長エリサイラーの命令により、罪を償うための旅にられる。アルビアスは、マイオープのあるウルス・バーン大陸の空を覆い、フォノンたちの心に影を差し始めていた忌まわしき不和と隷従の感覚をもたらす「魔の雲」デビルクラウドの謎を解くため、平原に住む土の精霊スーク族の住む西方世界へと向かわされたのだ。しかし彼は旅に出たきり再びマイオープに戻ってくることはなく、また何の便りも寄こさなかった。

フォロスの一族は、アルビアスが逃亡したものと見なし、その妻マックリュートと子のグラファーンは、森から追放されてしまう。マックリュートは子と共に、近くのスーク族の街トルダードに身を寄せ、二人暮らしのわびしい生活をする。

彼女の世話をしていたフォロス族の警吏長けいりちょうラダロックから、過酷な世の中を生き抜くために剣術を学んだグラファーンは、やがてメディアス(魔法術)も習得し、たくましい青年に成長する。彼は母マックリュートが病で死ぬ間際に占いで語った言葉に従い、自身にかけられた死の呪いを解くことのできる、スーク族の都に現れるという聖者に会いに、イリスタリア王国の都イリスタリアに行く旅に出ることを決意する。

トルダードを発ったグラファーンは道中、記憶を失った女戦士イオリィ、そしてスーク族の元傭兵の大男エルハンストとカルマンタの町で出会い、仲間となる。三人は、財宝探索者組合トレジャーハンターズユニオンを結成し、「ユニオン・シップ」と、団体を名付けた。

ユニオン・シップの一団は、最初の冒険として、「無法者の洞窟」に住みカルマンタの町を度々襲っていた山賊の首領ゴルクを退治する。
一団は、洞窟に秘匿ひとくされていたゴルクの財宝の一部と、おたずね者の彼にかけられていた懸賞金を獲得する。

イリスタリアに着く前にグラファーンは、探し求めていたスーク族の聖者の青年アム=ガルンと出会い、呪いを解いてもらう。その後グラファーンは、アムの仕えるイリスタリア教会の長でもあるイリスタリア国王、エルタンファレスⅦ世に拝謁はいえつする。そしてグラファーンたちは宮廷からの要請で国内に居る魔女スタンレーの退治を依頼され、スタンレーの館に向かい、魔女を討伐する。

王の信用を得たグラファーンたちは、イリスタリアの建国時代に妖精イムルシフから託され何者かにより隠された王国の至宝しほう「自由の宝冠」の探索と、隣国マーガスの国王、タイモス王への平和条約締結のための使者の役を引き受けることとなる。
イリスタリアとマーガスとの間に外交上の問題が起きかけていたからだった。

外交特使に任命されたアム=ガルンを長にして、ユニオン・シップの団員は彼を補佐・警護する外交使節団を構成する。イリスタリアの都では、石の精霊ミリヴォグ族の少年ラフィアもユニオン・シップの仲間に加わっていた。さらにグラファーンたちは、エルゴッド城でスークの上位種の精霊コーク族の女魔導士まどうしゼラをも仲間に加えた。エルゴッドでは、城の長である三人のこうと面会し、剣技の試験も受ける。

その後、高位の白魔法使いカイトハーパーの支配する「曠野こうやの地下迷宮」など、魔物たちが徘徊はいかいする危険な領域を通行する冒険を、ユニオン・シップの一団はそれぞれの剣と魔法の力を合わせて成し遂げてゆく。そして彼らは旅の中で成長していった。

彼らはザマビの村や、ウルス・バーン大陸の先住民族のフォノンであるルーア族の集落テミ・ドーラを経由して、氷の山の鍾乳洞しょうにゅうどう雪魔女ゆきまじょミュランを退治した。そのときに一団は、ウルス・バーンを覆う魔の雲の正体が、悪魔エルサンドラの魔力であると知った。

妖精渓谷で仲間内のいさかいを起こした後、流行病に侵された「時のぐ街」アルフェデに入った際に、一団は、イリスタリアの宝冠はエルサンドラにより隠されたということを、幻夢の中に現れた3つの人影から知らされる。それは、女神エイルと、古代アルナディア五賢聖ごけんせいの一人のイシュ・バートナムと、ロードマスターのイルザームだった。3人の助けにより、一団は流行病はやりやまいを克服し、結束をとり戻す。

それから一団は、霧の沼地を通り抜け、賢者ティムロトの住むパルマの森を経て、マーガス国に入った。その後、マーガスの都アルカンバーグに着く。そしてタイモス王に、イリスタリア王からの親書を渡す。グラファーンらは、タイモス王に手腕を試された後、王の信用を得て、悪魔エルサンドラの平定を依頼される。そのためには、北の果ての山の奥地へ行かなければならない。その場所が彼の本拠地とされていたからだった。

その後、ロータールの野で、一団はマーガスと盟友関係にあるライゼル騎士団のスーク族の新鋭の騎士スターリスを仲間に加えた。七人組となった一団は、ライゼル騎士団の拠点ライゼル市を経て北を目指し、なおも進む。

エルサンドラの前線基地「飛竜の洞窟」(ローレリア鉱山)で、彼の配下であるドラゴンのゲルグースたちと直接対決して勝利した後、一団は、グラーズ砂漠を渡る。そして次の「運命の砦」で、砦の守護聖獣キメラから、超空間にたゆたう、エルサンドラの拠点の名が「ゼーレス」(時の城)だと告げられる。一団は、魔の雲を生むエルサンドラの魔力を封じるために旅を続ける。

ビルバラの街で当地の領主ロード・ガイエンの裁判を受けた後、一団は氷雪海ひょうせつかいの、海沿いの道をさらに北方に進み、時の城を目指す。一団は地方の寒村ノープに立ち寄った後、空の種族のフォノンであるエスタス(天空人)の都、空飛ぶ島エスタルカームに辿たどり着く。

エスタルカームにおいて、ユニオン・シップの団員で記憶を失っていたイオリィが、じつはエスタスのフォノンだったことが判明する。エスタスたちは時間監察官クロノポールを組織しており、イオリィもその一員だった。エスタスたちから様々な援助を受けた後、一団は、エルサンドラによりゼーレスにとらわれた女性、古代アルナディアのコーク族の女神官アンの存在を知るに至る。アンを助け出すことを誓ったグラファーンたちは、試練の谷を通り抜け、剣の断崖を降り、そして超空間に浮遊するエルサンドラの居城ゼーレスに向かう。

一団はゼーレスに乗り込み、手下の魔物たちを倒して進み、アンを助け出し、悪魔の前にいで来る。ついに決戦のときが来た。エルサンドラの魔力は強大だったが、「時の城」ゼーレスと対をなす「夢の城」アスミラスの支援で一団はもちこたえた。

グラファーンは、じつは悪魔エルサンドラを征伐せいばつするためにゼーレスに立ち入り、亡き者となっていた父アルビアスの霊の助けを借り、悪魔と大対決した。その末、アンの救出時に彼女から渡された神宝「時の法典」による聖なる力によって、エルサンドラと、彼を操っていた超存在「メガロサイモス」を平定する。

ユニオン・シップの一団は、さらに魔の雲の発生源となっていた「ターミナル・ジェネレーター」(ゼーレスの動力炉)を恒久的に停止させて、世界を魔の雲による隷従から解放することに成功した。炉の制御盤の付近から「自由の宝冠」が見つかり、すべての生命は救われるに至る。

一団はイリスタリアに戻り、エルサンドラから奪回した「自由の宝冠」をイリスタリアに返還し、旅を終える。

ユニオン・シップは、元の正義の人格に返った古代アルナディア五賢聖エルサンドラとの間に、彼の「時の城」の城主としての権限によって、魔の雲により深刻化した災い…金銭を得るために自身の時間を犠牲にして賃労働し貧困化した世界…から、全てのフォノンを救うための「時間協約」を結ぶ。
これにより全てのフォノンに、生活補助給付が保障される。
また、イリスタリアとマーガスとの間に会議が開かれ、両国間に平和条約が結ばれた。
イリスタリア王は、イリスタリア国の古来の法と良き慣習の下にあることを自ら民衆の前で再び確認する。祝福の歌が国中にあふれる。

そしてグラファーンたち七人の勇者は、団を解散した。

後にグラファーンは、時空を超えて「シャイニングロード」(光の道)を守護するロードマスターの職に任じられる。彼は、ゼーレスから救出したアンと結婚し、アンとの間に四人の子どもたちをもうけた。そして彼は、メガロサイモスに浸透しんとうされ、その拠点となっていた外宇宙の「アルス」(地球)の観測に従事した。その後グラファーンはアプシス(内宇宙)という領域に移り住み、退職して十数年後、その自由で波乱に満ちた、幸福な人生を閉じた。

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