そのとき、エルサンドラが上げた最後の絶叫に呼応するかのように、目の前の空間を引き裂いて、巨大な「何か」が現れた。

「それ」は、様々な形と彩りに乱れ舞い明滅する光と音が集まり、響きあう、数多(かずあまた)の光と音の結合体のようなものだった。

その何かが放つテレパシーから、グラファーンたちには、それが「メガロサイモス」という超存在であることが分かった。

それはメディアスの究極。
エルサンドラは、彼の一部である。

メガロサイモスは、話しかけようとする冒険者たちに構うことなく、強力な振動波を発してターミナル・ジェネレーター(動力炉)を揺るがし始めた。

振動波により、動力炉だけでなく、この巨大な部屋の時空全体が少しずつ歪んでいった。
この「時の城」ゼーレスを破壊しようとしているようだ。

それを阻止するためユニオン・シップの者たちはメガロサイモスに魔法を撃ったが、それらはことごとく反射されたり吸収されたりしてしまった。

メガロサイモスは膨大な量の力積(魔法)を用いてグラファーンを攻撃しようとする。

「危ない！」
床に伏していた団員の皆が叫ぶ。

そのときグラファーンの目前に、一人の男が現れ、超存在からの攻撃を阻止した。
彼はグラファーンの父、アルビアスの霊だった。

アルビアスは息子グラファーンにテレパシーで伝える。

彼は、マイオープで族長から授けられた使命を果たすため、旅をし、このゼーレスに乗り込むまで至っていた。
だが、エルサンドラに倒されてしまっていたのだ。

父はフォロス族を裏切ったのではなかったのだ、とグラファーンは感じた。彼はずっと、父を信じていた。

アルビアスは、グラファーンに、超存在メガロサイモスの前で、彼の持つ古の文書(ファイル)「時の法典」 を掲げるよう指示した。
グラファーンがすぐ、その通りに「時の法典」を掲げる。

書はひとりでに開き、文書綴の内のある頁をメガロサイモスに呈した。
そこには、詩篇のような文が記されていた。
原文は文学的な格調を帯びたコーク語で記されており、
少し意訳すると次のような内容のものだった。

……

神なる民の住まう天国の在り処を求めて、
一人の男が仲間たちと共に、
世界の最果てから船で、
その国を目指して旅をして参りました。
彼は地上における人々の、
第一人者とされていたため、
地上の人類を代表して、
天国に、
全人類の積もり積もった罪を、
全てお赦し下さる様、
お願いに参ったのです。
彼は若い時に天啓を受け、
全ての生きとし生けるものの命を、
尊び守るようにとの、
神の法を、
世界に伝える役を与えられていたのですが、
地上の人間であるためにその無力と怠慢により、
天からのその使命に関して、
十分な貢献を果たせず、
また啓されるべき地上の人々の多くも、
彼の預かった御言葉を信じず、
受け入れませんでした。
そのため地上には今まで、
数多くの堕落と悪行がはびこりました。
天はお怒りになり、
多くの人々に、
死と恐怖と苦難をもたらされました。
そこで彼は責任を感じ、
世界中の人々に、
神の御言葉を知らせるようにさせ、
そして地上の人々が犯した、
すべての罪障の咎めを、
自ら一身に引き受け、
罰として自らに天与の制裁が降る様、
神々に申し込みました。
彼は自らの命をもって、
全世界の人類の命を贖おうとしました。
神様はかつて、
同じような事情で天国へ向かった者に、
お赦しを与え、
その罪を清めて下さいました。
その者もまた、
今回船でやって来た男たちのために、
天のお赦しが出るようお願いしています。
神様、
どうか船旅のこの人の罪を、
そして地上の人々を、
お赦し頂けませんでしょうか。
このように船で来た者たちは、
神の域である天国に、
大きな災いをもたらしていますが、
その災いは、
地上の全世界の人が冒した過ちの現れです。
大変恐れ多い事ですが、
どうか彼ら皆人の、
そのすべての罪を、
水に流すように赦免して下さいますよう、
謹んで、天の宥恕を請い、
ここにお願い申し上げます

……

その言葉が、なぜ効いたのか、理由は分からなかった。
だがメガロサイモスは、その詩篇の字句をなぞって響く何かによる魔法の詠唱の調和音により、自身を中和され、それを嫌ってこの場を退き、宇宙の彼方に去っていった。

グラファーンは、超存在に対処することに成功した。

グラファーンは、父アルビアスの霊に感謝をした。
アルビアスは、グラファーンに微笑みかけると、光の中に消えていった。

あとは、動力炉を止め、魔の雲を消滅するだけだ！