小説『ヴァルキーザ』第31章(1)

31. 時の城

ユニオン・シップはついに悪魔の居る本拠で、冒険の最終目的地「時の城」(ゼーレス)にたどり着いた。
そびえ立つ巨大な城の暗黒のシルエットが、見る者を威圧する。
血のように赤い空に、魔の雲がおどろおどろしく浮かび、流れ飛んでいたが、勇者たちはしっかりした顔で、ただ前をにらみながら進む。

誰もいない城門は、星の印に囲まれた竜のレリーフで飾られている。
城門の手前まで歩いてゆくと、グラファーンは「時の鍵」を城門の扉の錠に差し込んだ。
門扉が開く。
一団は城内に入っていった。

場内には様々な通路や部屋があったが、そのどこもかもが薄く氷に覆われていて、とても冷たかった。
そして所々にモンスターが配置されており、侵入した冒険者たちに襲いかかってくる。

通路に沿ってのびる、魔法の伝声管から、放送のように音声が響く。

「管制室より、第30区画にクリーチャーを配備」
「第15区画にメディアスを配備」
「第26区画にインモータルを配備」
「第4区画にドラゴンを配備」

応戦に現れたモンスターたちは、デスストーカー、デスナイト、スペクター、ドラゴンたちだった。
激しい戦闘の末に、冒険者たちは、それらを斥けてゆく。

シグオーという名の機械人形に途中で出会った後、グラファーンたちはさらに先へ進んだ。

やがてグラファーンたちは、2階に通じる階段と、さらにその前に立ちはだかる、ひとりの鎧を纏(まと)った戦士に遭遇した。

その戦士は名乗った。
「 わが名はナイトデュモン! ここが貴様たちの墓場だ」

ナイトデュモンは高度な魔法を使ってきたが、たちまち、実力あるユニオン・シップの前に敗れた。

ナイトデュモンの声に聞き覚えのあったイオリィが、
「セルティース?」
と声をかけると、戦士は観念した様子で自分がセルティースであることを認め、エスタス(天空人)の仲間であったイオリィに次のようなことを語った。

エスタスの一員であった自分は、かつてガイエン卿らと共に悪魔エルサンドラ退治のため、ここゼーレスに乗り込んだ。しかし仲間とはぐれた後、エルサンドラからの誘惑に負けて彼の配下となり、ナイトデュモンと名を変えてエルサンドラに仕えていた。あるときエルサンドラの命令で、ゼーレスから時空を超えてイリスタリアに現れ、「自由の宝冠」を盗み出した。

しかしイリスタリア東部の上空で警戒巡回中のエスタスのイアリース(イオリィ)に発見され、追跡された。

そこで彼は追跡者に逆襲し、イアリースを返り討ちにした。

イアリースは気を失い、近くの森に落下していった。

逃げ切った自分(セルティース)は、ゼーレスに帰り、エルサンドラに、自由の宝冠を渡した…

彼は話し終えると、どこかへ逃げ去っていった。

イオリィはすべてを思い出し、頷いた。
グラファーンは、イオリィとの出会いのとき、なぜ彼女が、あのカルマンタの町の近くの森のなかに倒れていたのかが分かった。

ユニオン・シップの一団は、階段を昇って、2階へ行った。

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