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マラソンをしてイケメンからネックレスをもらい自信がついた話


駅の階段


「まもなく3番線に電車がまいります」

駅の改札を通ってすぐこのアナウンスが流れてきた。

もうすぐ電車がくる!いそがないと乗り遅れちゃう!

仕事終わりのサラリーマンやOLとともに一気に階段をかけあがった。頭のなかではすでに電車に乗り込んでる。実際はまだ階段の途中。体がついていかない。

あと、もう少しだ!

はぁはぁと肩で息をしながら、通り過ぎていく電車を見送る。同志たちは扉のむこうで一息ついて新橋にむかっていった。

体力落ちたなぁ……。体力はあるつもりだったのに。運動とかしなきゃな。でも……なにをすればいいんだ?ウォーキング?ヨガ?う〜ん、無理だな。

思っているだけで、何もしない日がすぎていった。何しても続かないし、続ける自信がなかった。自分にも自信がない。どうせ私なんか何やってもダメだし、やるだけ無駄かな?卑屈でねじれまくった性格になってしまっていた。

同窓会


久しぶりの同窓会。みんな小ジワが気になる世代だが表情がイキイキしていた。

「りこはなにか運動とかしてるの?」
「するわけないじゃん。無理だし。疲れることしたくない」

周りにいる友達はなにかしら運動をしていた。走っていたり、山登りをしていたり。スポーツジムに通ってる人もいた。私だけだ、なにもしてないの。

「一緒に走ろうよ〜」
「う〜ん、考えておくわ……」

適当に返す。みんなはランニングや登山の話に夢中になっていて、気が付くと取り残されていた。

「走ってなにが楽しいの?ツラいだけじゃない?」

子供の頃、校庭で郷ひろみの「2億4千万の瞳」に合わせてグルグルと走らされ、大嫌いになった事を思い出す。

「ツラいよ。でも、走った後の達成感がいいんだよ!一回やってみ!」

やろう!やろう!の波におされ、その気になって赤くなった顔でやってみると言っていた。


やっぱりツラかった


スニーカーをはいて運動しやすい格好をして走ればいいんでしょ?そんな感じで家の周りを走ってみる。ダメだ!50mも走れない。息があがってしまう。やっぱりね。ほら言ったこっちゃない。私には無理な話だったんだ。すぐに引き返してきた。

なんだか悔しい。

家に着くなりネットで色々調べてみる。初心者がいきなり走っちゃダメなのね。やっぱりストレッチしてウォーキングからのスタートだった。そして歩いてるのと同じくらいのスローペースで走る。そしてまた歩く。その繰り返しで慣れていく。なるほど!いきなりダッシュで走ってたから息があがっていたんだ。

そして一番こだわるべきなのは、シューズだった!衝撃からまもるために初めは厚底で。調べていくとだんだんおもしろくなってきている。

ランニングシューズとウェアを揃えた。走ることに慣れてきたが、止まらずに走り続けたいのにできない。歩いては走りのペースから抜け出せなかった。

なんか、つまらない。
誰かに教わってみよう。なにか変わるかも。

即座にランニング教室の超初心者コースに申し込んだ。そこには20代から70代くらいの人がいた。自分より年上に負けるわけにはいかない!

「腕をふって!上体を起こして!自分のペース!」

ネットで調べるだけとは全然ちがう!

ここで人との競争ではないことに気が付く。人に流されずに走ることも学んだ。そうだよ、体力をつけたいから走りはじめたのにね。レースじゃなかった。走れもしないのに勝手に競争していた。そういう時はだいたいがむしゃらになっていて、長く走れない。自分のペースを決めて走ることを練習した。

ゆっくりだが止まらずに3km走れるようになった。


ランニング仲間


「あれ?今日は走らないの?」

「寒いしやめておく」
「今日は遅いしやめておく」

つまらない、やる気がでないの第2波がやってきた。楽しくない。モチベーションがあがらない。忙しい、時間がないなどを言い訳に気持ちがフェードアウトしていった。いつものことだ。家族もわかっている。

ランニングウェアも着ることがなくなったころ、

「一緒に走りませんか?」

ランニングクラブのお誘いがあった。そこは同年代のランナーがたくさんいるところだった。きっと、初心者もいればベテランもいるだろう。やる気がダダ下がりの人の気持ちもわかってくれるかも。スイッチが入るといいけど。一回試しに行ってみるか。

「そんなにタイムを気にしなくていいんだよ」
「ゆっくり長く走ると走力がつくよ」

長く走るコツや続けるコツを教えてくれた。雑談しながらのランニング。私に合わせてくれてゆっくりペース。気がつけば皇居を1周走っていた。仲間がいるって心強い。


初めてのマラソン大会


「マラソン大会があるけど出てみない?」
「え〜!私が?無理〜!」

練習会に参加したときに誘われた。5キロマラソンか……。皇居1周は約5キロ。頑張れば走れるかも。

初めての大会。スタートラインにはたくさんの人!みんな、速そう。大丈夫かな……。足がすくんでる。しまった!キョロキョロしてばっかりでストレッチするのを忘れていた!スタートの号令が聞こえる。集団が一斉に動き出した!

周りの人に流されいつもより早いペースで走り出してしまいすぐに携帯の充電が切れたようにペースダウンしてしまった。

ヘロヘロになりながらも完走することができた。走れた!こんな私がマラソン大会で走り切れた!やったー!

「5キロが走れたんだから次は10キロだね!」

10キロもいけるかも!調子づいていた私はすぐに次の大会に申し込もうとした。

「10キロとハーフマラソンの値段ってそんなに変わらないじゃん」

もったいない!何がもったいないかわからないが、そんな理由で走れもしないハーフマラソンにエントリー。私は、いきなり茨の道を選んでしまったようだ。

大会がはじまり完全に実力不足、練習不足を痛感した。苦しくてたまらない。どうしてハーフマラソンにしたんだろうと激しく後悔。重い足枷を何日もひきずることになったが、走り終わったあとの疲れが妙に心地よかった。もっと練習して走れるようになりたい!走るのが楽しくなってきたかも。


ネックレスがほしい!


「フルマラソンに挑戦してみたら?りこさんの地元で素敵な大会あるよ!」
「女性だけの大会で、ネックレスがもらえるよ!」

「なんだって!?」

きっと、私の目はキラッと輝いていたんじゃないかと思う。

ハーフマラソンを走ったということはもうこれしかない。フルマラソン!なんと、完走すると自称?イケメンからティファニーのネックレスを手渡ししてくれるという。夢のようなマラソン大会。これは挑戦するしかないでしょ。動機が不純?だがフルマラソンを走ることができたら自分に自信がつきそうだ。ご褒美があるほうが頑張れるよね。

「やっと一緒に走れるね!」
「りこが本当に走るとは思わなかったよ!しかもフルマラソンまで!」
「途中のエイド(おやつや食事)も楽しみだしね!ティファニーもらいたい〜」

やろう!やろう!の同級生とスタートを待つ。一緒に走れるなんて嬉しすぎる。

遠くでスタートのピストルが聞こえたがまだ走りだせない。

一歩、二歩と動き出してきた。みんなのテンションが一気に上がった!何万人も参加者がいるのですぐに同級生を見失った。たった一人になってしまった。寂しい。ここから何時間も自分との戦いだ。すぐに出場したことを激しく後悔することになる。

見知らぬ人の「あと35キロ」のプラカードでしょっぱな心が折れた。なんだそれ!ツラい!シンドい!もうやめたい!波が何回も何回もやってくる。何度心が折れたかわからない。足が痛すぎてまともに走れない。あともう少し、あともう少しを繰り返す。

エイドでは、タイムが遅すぎてほとんど残ってない……。お腹すいた。もうやだ。

「りこさーん!頑張れ〜!」

40キロ地点が近づいてきた頃、ランニング仲間の男性陣が応援にきていた!沿道の声援、仲間の声援って本当に力になるんだ!もうすぐゴールだ!不思議と足の痛みやしんどさが吹き飛んでいる!もうすぐだ!

ゴールした瞬間、号泣した。涙がとまらない。走り切れた。こんな私でもできた。私って無敵かも!きっと私、イキイキしてるよね!

歩くのもままならないほど疲れ切っているのに、私は一番イケメンの長い列に並んでいる。





※本当は自称イケメンからもらうのではなく、おもてなしタキシード隊という方達がネックレスを配ってくれるのです。
私が勝手に言っております。その中のイケメンめがけて並びました。


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