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相手とわたしの、五分の勝を、考える。

凡そ軍勝五分を以て上となし、七分を以て中となし、十分を以て下と為す。
その故は五分は励を生じ七分は怠を生じ十分は驕を生じるが故。
たとへ戦に十分の勝ちを得るとも、驕を生じれば次には必ず敗るるものなり。
すべて戦に限らず世の中の事この心掛け肝要なり

甲陽軍鑑

完全勝利を手にしたって、
そこで驕り、慢心しては次は必ず負けるぞ。
なんにでも当てはまる、これはキモだ。

戦国武将 甲斐の虎こと 武田信玄公のご遺訓です。

「伝え方に伸びしろがあるんじゃないですか?」

知り合いの会社に出向き、担当部長とプロジェクト事業の告知について意見を交わしていた時でした。
その会社は企業向けサービス業を営むBtoB企業。
懇意にさせていただいている部長さんは20年前自ら立ち上げた事業を大事に育ててきましたが、後進に道を譲り、今は中堅社員の担当者に任せていました。

わたしもその事業を良く知っており、かつては時々お手伝いの輪に入ったりして

「長い間、実績を上げ、よくやってらっしゃるな」

と感心していました、

しかし、告知する紙媒体やHPが、20年前の内容を上書きし続けたもので、今後も続けるのであれば、顧客目線を取り入れて、早めにリニューアルした方が良いと提案したのです。

部長は生みの親として愛着があり、現状でもそこそこうまく動いている事業なので、今一つ乗り気ではないようでしたが、

「そこまで言うのなら、パンフ表紙に記載するキャッチフレーズのリニューアル案を検討しても良い」

とOKをいただきましたので、さっそく制作にとりかかりました。

1週間後、顧客の視点、自社の視点、業界の視点から、その事業に対するキャッチフレーズを100点ほど書きました。
そして、それを部長、課長、担当者の前でプレゼンします。

「この中から、気になるものを2つ選んでください。作り直されても、新規に書き足されてもOKです」

最後にそう言うとわたしは作品を彼らに渡して席を後にしました。

変える必要がない

翌日、選ばれた作品を受け取りに伺いました。

  • 部長はあえて選ばずに、今までの想いとこだわりを込めて、新たな作品を自ら書き足してくれました。

  • 担当者はこちらでお願いした通り、二つ選んでくれています。

  • さて、課長は…
    「選べない」とポツリとこぼします。
    さらに彼女は「変える必要がない」とも。

「なるほど、あえて変えないという選択肢もあるよな」

と、返された作品をもとに、彼らの意向を汲みながら、さらに一週間かけてメインとサブのキャッチフレーズそれぞれ2点ずつとボディコピー2点を添えて制作しました。

プレゼンへ

翌週、満を持して、3人を前にしてプレゼンに臨みましたが、雰囲気はなんとも重いものでした。

  • 部長はとりあえず乗り気ですが、ネガティブさも残る口調です。

  • 担当者は、使えそうなものは採用して良いとの流れです。

  • 課長は…
    わたしが説明するスクリーン画面をほとんど見ていないようです。
    今使っているパンフをしきりに眺めたあと、部長のネガティブ意見に同調しながら「変える必要がない」と一言を残し、急な来客があったようで彼女は無言で席を立ってしまいました。

「ふうむ、これが課長の回答か」

残された時間、部長と担当者でプレゼンを続け

「わたしの仕事はここまでです。後はお三方で検討をお願いします。その上でやり直しがあればお引き受けします」

と申し上げて、プレゼンは終わりました。

ほっと一息ついた後

一貫して、言葉少なで不満げな課長の態度は引っ掛かりました。
案に不満があるのなら、彼女から対案を伺いたかったのですが、それもありませんでしたので、これではただのイチャモンです。

彼女は今年から課長に昇進したとのこと。この事業に直接たずさわることが少なかったようなのですが、新人管理職としての気負いや不安、彼女なりの矜持があったのかもしれません。

「今まで20年も、これでやれてきたんだから、社員でもないのに、かきまわさないで欲しい」

そこを念入りにバッサリやられたものだから、いきなり生存領域を侵されたように感じて拒絶反応がでたのでしょうか。
とすると、これは理屈ではありません、感情の問題です。
この点はわたしの反省点になりました。

信玄公のご遺訓

「宝貴の夜会」のように持ちかけられた案件と異なり、今回はこちらから持ちかけた案件です。

しかし、わたしの案が少しでも採用され、たとえわずかでも潜在顧客が発掘につながれば、無料支援ということもあり、クライアントにとって五分の勝ちと言えるかもしれません。

わたしはその当事者さえも得心させられていない中途半端な状態です。
まずは情報発信の当事者が心底納得できていなければ、顧客を振り向かせることは叶わないでしょう。
なので、今回の作品が一部でも採用されれば、わたしにとって五分の勝ちと見ています。
今後、どのような落とし所が待っているのかわかりませんが、お三方の判断次第です。

さて、「完全勝利におごらず励め、負けるぞ」と信玄公のご遺訓ですが、わたしなりの解釈があります。

なんでもかんでも力押しの戦に頼るな。
調略、懐柔、脅迫、融和、宣撫、諜報…
領国を窮地に追い込まぬよう、
あらゆる視点で、「負けぬ方策」を考えぬけ。

あるいは

いきなり気負うな。
まずは五分で良いから勝ち続けよ
次のチャンスを待て。

わたしも、コピーライターとしての経験なんてナシに等しいです。
ですが、引き出しを増やし、書き手の正論に頼ることなく、もう少しクレバーに成長したいと思います。
今さらながら、ちょっと遅いスタートですけどね。
生きる楽しみとして。

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