4/8

「おじゃるって、あなた、誰なのー？」
おじゃるに聞いてみました。
「もうお目覚めにならなければのう、ホホホ」
「ホホホ」
わたしも一緒にホホホ。てかほっといてーな。今、エーガ作りで忙しいんや。
「お作りにならねばのう、ホホホ」
そう言うと、おじゃるは袖から何か出しました。何だろ？ぼんたん飴？黄色のまん丸。箱揺すって手に転がして食べましたね。何だろ、それ、わたしにも頂けないでおじゃるか？
「そうです事。ホホホ。ところでわらわも何か食べたいでぞなもし」
こんな喋り方だったっけ？忘れた。でもまあいーや。相手はワケわかんないおじゃるだし。

ホホホ…

言ってみるもんですねー！おじゃるが箱を前に差し出してくれました。わたし、両手でお椀作りましたー！やった！

コロコロ…

やった、わたしセーカイ！こりはぼんたん飴！やったー！頂きまーす。
「かぐやは待ち遠しくて待ち遠しくていっらいっらしてるでおじゃぁる」
ほっぺゴロゴロさせる、おじゃる。ゲッ。判ってます、はい、判ってますよー、布施も。でもそのあの、奈良に行きたかったのー。ごめんねー、かぐちゃん。
「そ、そりはそのう…儚い事で」
何を言ってるんでおじゃるか？わたし。でもほぼ外国の人と喋ってるみたいなの。ねぇ！もしタイムマシンがあって昔の人とお話したら、きっと今の布施と同じになると思いますよー！同じ日本語なのに違和感ハンパないのー！もー！ミケー！助けに来てー！
「はよ目覚めなさいな。理恵君」
りえぎみ？初めて呼ばれた。何でおじゃるかのう、いと儚し。
「まぁろはかぐやをはよ、連れて行きたいでおじゃある」
これを聞いて、トロいわたしにも直感電撃！判った！このおじゃる、月からのお使いの方めでーす！きっとー！ヤベ、シツレーのないよーにしねーと！
「それは、ホホ、しばしのときを」
ここで扇があったら顔半分隠すの。あ、演出で使おっと。
「はよお目覚め、理恵君」
そんなはよはよ急かされても困りますわ。だってわたし…

うさぎはね
おなかはまるよ
こがねもち
ひめみこのめの
せんりょうまんりょう

また…おじゃるもかなり謎めな短歌。やめてーな、布施のノーミソには無理めなんですからぁ。でも…やっぱこの時代のお姫様やおじゃるって会話するみたいに歌を歌って、自然にー、んでコミュニケ取ってたんですかねー…何か、ベンキョーになりはりますわ、ありがとさん。
てかー…歌詠まれたら、それ解釈して返さなきゃいけなめでしたっけ？もー！疲れる！考えなきゃ！

えっとー…えっとー…

ん？何きゃ聞こえるな。でも返歌考えなきゃ。えっとー…えっとー…

何きゃ聞こえるなー！ウルサイ、もー！こっちは今それどころじゃないんでおじゃるよー！もー！ん？でもやけに迫って来る音だにゃ。何でおじゃるか？ん？ん⁈

電話だ！電話！しもた！寝てしもーてた！
「は！ははは、はいー！布施理恵子、ただいま戻りましたよー！」
誰から？何も表示見てなかったけど、ミケかにゃ？
「布施ー！やっと出たよ！もしもし？俺俺！」
俺俺？これはもしかしてサギめの奴ですかねー…声は高間さんに似てるけどー。
「俺ってー、誰めなんですかー」
サギには強く出ますぞ！はいー！許さないぞ！オレオレ詐欺！
「何を…高間だよー！タ・カ・マ！寝ぼけてんじゃないよー！タッハッハ！」
またやっちまった。シュン。
「し、シツレーしました！ごめんなさーい！こちら布施理恵子でーす！どーぞ！」
ややパニックめ。ごめんなさい、高間さん。
「どーぞ、って無線やってんじゃないよ！全く頭ん中遊園地なんだからよう！あ！トロトロやってる場合じゃねぇんだ！もう知ってるか？」
ん？何かヤバめ。
「し、ししし、知ってる？」
「だよなぁ。お前じゃあそうだよなぁ！ケヘヘ、まだニュース知らねぇか」
「に、ににに、ニュースですかー？」
何のニュースだ？何かヤバそう！
「ああ！ネットでもテレビでも大変だよー！お前！松浪久美が結婚だ！」
「ケ、ケケケ、けっこーん⁈」
「そうなんだよぅ！できちゃった婚だ！とにかく三田君がそっち迎えに行ってっから！これから大変だよー！全くよー！じゃあな！ケヘヘ！」

ガチャ

ってケヘヘとガチャで終わらせないでくれる⁈ヤバい、ヤバいよー！布施組、最大のピンチの予感ですよー！

4/9

「理恵子ー！理恵子ー！」
ピンポンピンポーン！ミケ登場！
「は、は、はいー！ただいま！」
ドア開けにダッシュ！はい！開けましたー！
「ヤッバイよ！理恵子ー！」
ミケ×パニック×叫び。
「ウンウンウンウン」
ワンちゃんみたいに首縦に振る。
「もう聞いた？」
「ウンウンウンウン」
どこのワンちゃんなんじゃ？てかボケてるバヤイじゃない！
「誰から？」
「ウンウンウンウン」
「ウンウンじゃなくって！」
「キャーッ！高間さん！高間さんですよー！」
「じゃ、聞いてる？」
「えっ？何を？」
「あん！これから久美ちゃんと会社で会うの！あん！」
「フェーッ」
「ちょっと理恵子！しっかりして！ヤッバイんだから！どーしよう⁈これから！」
するとわたし、あら不思議。お腹にキュッと力が入りましたのでおじゃる。
「慶子、じゃあちょっと支度するから待ってて」
「し、支度だー？」
あ、またミケのお目々がお星様になった。ホホホ、そうでおじゃる。落ち着いてたもれ。
「ホホホ、久美ちゃん、結婚？ホホホ」
わたし、着替えに行く。ミケ、ボー然で突っ立って。久美ちゃん、結婚？そう。

はーい、着替え済みましたー。
「お待たせ」
着替えっつってもフツーにカーキのパンツと苺ジャム色のベスト着ただけですけど。
「あ…あん」
ミケ、わたしの人格マジ疑ってる。けど、気にしなーい！
「ミケ、何で来たの？」
「えっ？そ、それは…」
「タクシーで行こ、タクシーで」
わたしVサインする。
「そ、それは、任せるけどー」
ミケ、頭ん中洗濯機だぞー。グルグル。落ち着きなさいでおじゃる。
わたし、ケータイでピッポッパ、タクシー呼ぶ。タクシー、すぐ来る。フセミケ、それに乗る。タクシー、動く。行き先？会社。高間さんがいる所ー。颯爽と走る車。イェイ、久美ちゃん、どんな顔して来るかにゃ？車、すぐ会社に着く。道、スキスキ。だからあっという間。イェイ、楽チン楽チン。車降りるフセミケ。会社の入り口、受付のオネーサン、いつもの子。イェーイ、ピースピース。あー！お土産忘れたー！ごめーん！
「理恵子！んな事話してるバヤイじゃない！」
ミケのヒゲがビリビリしてまーす。あ、ホントは無いよ、ヒゲなんて。だってミケ、人間の女の子だもん。受付の広川さん、宮本さん、さいならーでおじゃる。またねー。あー、とうとう着いたー。ここにボスがいるの。また何やらかんやら言われるの。でもいいの。はいー。だって愛情感じるもん。あ、アイジョーって恋愛めなやつではありませんからねー！ネンタメ。ノックノック。ポンポンポン！
「おーい」
おじさんの声だ。
「布施、只今到着しましたー！」
って言ってドア開けた。
「来たよ、この人間遊園地！」
「に、人間遊園地ー？何ですかー？それー！」
「頭ん中が遊園地なんだよ！ケヘヘ、いいや！遅いよー！全くよう！」
「ご、ごめんなさーい」
フフン、知ぃらないっと。
「三田君から聞いたか？」
「はいー」
わたし、ミケの方向いて首傾ける。ありがと、ミケ！
「って…わたし、あんま詳しくは…」
ミケ、パニパニパニック。やーい、ザマー！でもさ、後でパニーニ食べに行こっか？ね？食べたくない？パニーニ！

4/11

「聞いたんだろう？もう少ししたら来るからよう、松浪達が」
腕組んで貧乏ゆすりする高間不二雄。でもこのおじさんも何かヨユーめじゃありません？侮れんヤツじゃ。
「はーい」
わたし、高間さんの横に座る。その反対隣にミケも座る。
「しかしなぁ！こんな事になるんだったら、やっぱ遠藤藤子で行くべきだったんだよー。ったくよー。ケヘヘ」
するとミケ。
「ゲッ！もしかして高間さん、もう一度遠藤藤子とお話しでも、した？」

ゲッ！

出ました、出ましたよー！ゲッ！の連鎖が。つーかわたしのゲッ！が本家、イヤイヤイヤ、違うの！遠藤藤子さんだと困りめフルスロットルなゲッ！なの！それは、はいー！困りますよー！
「えー？んなのしてる訳ねぇじゃねーか！へへへ！」
高間不二雄、ヨユー。
「で、でもー、高間さん、滅茶苦茶余裕じゃありません？」
ミケ、ヨユーのセー反対。余裕のセー反対って何て言うんでおじゃるか？
「えー！だってよ！だってよ！もうおしまいじゃねーか！へへへ、おしまいだよー、バカヤロ」
こ、これは正に開き直りの余裕だったんですね？アッハッハ！おっかしー！でもミケ、全っ然おかしくなさそー！
「おしまいってー、じゃあウチらの『かぐや姫』は…」
ミケの目に涙が…ちょっとー！おじさん！ウチのミケ、虐めないでくれるー！
「おしまいってー、どっちめのー、おしまいなんですかー？」
布施理恵子、遂に口を開く。タカミケ、こっちを見る。
「どっちもこっちもねぇよう。だってこれ、もう無理だもんよ」
あれ、結構高間さんマジ。このおじん〜！あったま来た！
「おしまいになんかさせませんから」

・・・・・

タカミケ、黙っちゃった。
「あんま、人の事バカにしないで。てか、高間さん、諦めんの何でそんな早いの？」
高間不二雄、ちょっと俯く。
「わたし、これでも、エーガずっと作って来てんだから！挫けそうになった事なんかいっくらでもあるんだから！でも、そん度に頑張って…」

『フルートと私』

何だろ？やっぱ、あれ、わたしの映画だったんだ…
あの映画そのもののシーン、やっちゃいました。
すると、高間さん。
「…するってぇと、秘策アリか？」
こん時の高間さんのズルそうな顔！ケーベツもんでしたね、ケーベツもん！はいー！でも憎めない。そうよ、そうそう。エシシシ。わたし、自信満々、指で輪っか作りました。
タカミケ、二人同時に“おっ⁈”と言ったのでした…

4/14

「おいおいおい！聞きたいねぇ！打開策あるんですか？教えて頂けませんかね？布施監督！」
乗り出す高間不二雄。エシシシ、聞きたい？ふーん、そう。聞きたいの？フフフーン、あ、そう？おじんを見下し余裕の布施理恵子。
「この…随分じゃねぇの？これだから女はよう！こういう時、ほんっと焦らしてくるよなぁ！」
また！おじん！その言葉遣い、気ぃつけな！
「ねぇ！その、女って、随分な言い草じゃありません？ねぇ？ミケ！」
ポッポッポー！怒りのヤカン、沸騰しましたよー！ねぇ？ミケ。ってミケ見たら目が点だった。何よう！ミケ、応援してよー！女が馬鹿にされてんのよー！女が！これだから女はよう？軽はずみな口の利き方、ええ！絶対許しません！
「わ、判った！謝る！ごめんよ！俺は軽はずみでした！面目次第もありません！この通り！」
へへえっ！と平謝り。まあ、イケシャアシャアと。でも憎めないな。何だろ。さっぱりした人。許そっかなぁ。許さないかなぁ。どうしようかにゃあ？と嬲りモンにしてたら

トントントン！

３人ギクッ！こ、こりはもしかして…てかそり以外何もないのでおじゃる。とうとう…

「はいー」
低い声の高間不二雄。何？もっと爽やかな声で言えない？もー。

「失礼します…」

「久美ちゃん」

わたし、何だろ？そう言ってすぐ立ってた。何でだろう？松浪久美ちゃんとそのマネージャーが入って来たのと同時でした。わたしがそう呼び掛けると、久美ちゃん、固まっちゃいました。やだ…やめてよ。そんな久美ちゃんの顔、見たくない。

「この度は誠に申し訳ありません！」

久美ちゃんの会社の人が開口一番、部屋中に響く大きな声で謝りました。えっ？えっ？やだ。何で謝るの？ってか、やだ。こんなのすっごいイヤ！
「申し訳も何もよう」
と高間さん、意地悪に言った時。

「久美ちゃん！お嫁さんになるのねー‼︎」
わたし、速攻で久美ちゃんの側に行って、久美ちゃんの肩、撫ぜた。
「やった！やった！おめでとう！ね？ミケ！わたし達の久美ちゃんがお嫁さんになるのー！ね？ね？」
ミケ、そうでしょう？ね？エーガなんてどーでもいーよね？ミケの顔、強張った表情から溶ける様に笑顔になりました。でも苦しい？苦しそう。けどやっぱり…でも、ね？ミケ！判ってくれるよね？
「ほら！高間さん！わたし達の久美ちゃんが、『フルート〜』の女子高生だった久美ちゃんが！お嫁さんになるのー！ね？良かったね！どんな人なの？相手の人！」
ねぇ？とっても素敵だと思わない？

「布施監督！ごめんなさい！」

その時、久美ちゃんがわたしの胸にしがみついて、そして、泣きじゃくりました。イヤ、こんなの絶対イヤ。久美ちゃんの体、嗚咽で震えていました。堰を切った様に、久美ちゃん、泣きました。何で何で何でー！久美ちゃん、何で泣くのー！もー！
「謝らないで！謝らない、謝らない！もー！久美ちゃん、何で泣くのー⁈ワケわかんない！泣くなー！久美ちゃん！お嫁さんになるんだから、笑顔笑顔！ほら！」
久美ちゃんの頭優しく撫でて肩撫ぜて、ほらほら、泣かない泣かない！あれ？でも、これって…何だかお母さんみたい…ウッソ！アハハハ！何これー⁈ミケー、わたし、久美ちゃんのお母さんみたいよー！もう！
「か、監督の…『かぐや姫』、絶対やりたかったの！またね、監督とお仕事出来るってね…とってもね…」
ヒックヒックしながら頑張って言う、可愛い可愛いお嫁さん。
「えー？んーなの、また次次！次も絶対久美ちゃんにオファーするから！仕事なんて、いつでも出来るのよ。ね？だから泣かない泣かない！ね？」

アーン、アーン、アーン…

しばらく久美ちゃん、泣き続けました。もういいんだよう。久美ちゃん、おめでとう。素敵じゃない。お嫁さんになるんだもん。映画なんかに出る事よりも、それは素敵な事。わたししばらく久美ちゃんを抱きしめてた。ちょっと周り見ると、皆んなハーフ困り顔、ハーフ笑顔。いいじゃない。それは映画よりも素敵な事。この時だけは、わたしの頭の中に、かぐちゃんもブルトン様もどっか行っちゃってました。そうですよ、はい！久美ちゃんの心は久美ちゃんのものです。そこにエーガも何も、入り込めません！

そんな中、久美ちゃんを抱きしめながら、かぐちゃんもブルトン様もいなくなったわたしの頭の中に炎がボッ！

“ここからだわ！これ、乗り越えなきゃ！”

4/17

久美ちゃん、少し落ち着く。皆んな、何だか優しい目。高間さん、ミケ、判ってくれたみたい。けど、不満もあるよーな、んな顔。しょーがない、しょーがない。こっちもエーガに本気組なんである。え？布施？わたしは？はっきり言って、どーでもいーんじゃないでしよーか？いえいえ！久美ちゃんの降板に関して。それはそれ。ケッコンは結婚。そりはそり。しかし今、布施のノーリには稲妻みたいなん、バリバリ走ってます！

“久美ちゃんじゃない”

謎掛け呪文の謎解けた！直感冴え冴えだったのよー！布施理恵子！でも直感つーより予知能力じゃね？エシシシ、占い師に転職しよかな。

“久美ちゃんじゃない”

そりは何でずっとわたしのノーリにグルグルしてたの？そりはそりは不思議。でも不思議ちゃんってよく言われっから、ま、いっか。

“久美ちゃんじゃない”

ふとまた布施理恵ワンダーランド。何と今度はベートーヴェンだぞ、ベートーヴェン！あの肖像画がバンッ！と布施のノーリに！

『運命』？

あの、わたし、怖い方苦手なんです。勘弁して貰えません？

“それは松浪久美ではない！”

では、誰がよくって？

“友よ！それは決して松浪久美ではなかったのだ！”

は、はい。ゲンジツ今、そーなってますけど。

“扉を開けるのだ、友よ！躊躇わずに！そう…この様に！”

タ・タ・タ・ターン！

「久美ちゃん！はい！もう泣くのはおしまい！ね？さあ、お行きなさい！んで、振り返っちゃダメ！絶対にね！あなたはあなたの道を行くのよー！ね？わたしも皆んなも、応援してるの、あなたの事！ね？ミケ！高間さん！だってあなたはわたし達の松浪久美なんだもん！ね？振り返っちゃダメ！後に残ってるわたし達の事とあなたの人生とはカンケーないの！んで、考える必要ないのよー！」
何でこんな過激なんだ、布施理恵子？でもよいじゃないですか。ねえ？振り返るな！真っ直ぐそのドアから、出てけー！

久美ちゃん、さっきまでの涙は何処へやら。飛んでっちゃった。んでお目々まん丸。

「突っ立ってないで！行けー！」

わたし、おかしくなってない？指差して、ドアを、んで、叫んでた。すると、あら不思議。久美ちゃん、ニコッ！笑顔になりましたよー！

「やだ！何かこれ、布施映画の演技指導めですかー⁈」

涙に濡れた笑顔。最高ですね、松浪久美さん！

「そーよー！指導指導！久美ちゃん！バージンロードを勢いつけて走って行くの！ねー⁈ミケ！」

ミケに話振ると、ワナワナ震えてますな。判ったど！映画！映画の撮影してるよな瞬間にハイッたなも？きっとそう！イェイ、布施をナメるなよ！

「判りました！本日はシツレー致しました！」

久美ちゃん、クルッ背を向けてドアを開ける。

「そそそ！それでは！」

久美マネ付き従う。

いなくなった…
いなくなっちゃった…

久美ちゃん、シアワセになるんだぞー

残ったわたし達、少しもぬけの殻。でももう後がない、ないのよー、布施理恵子！どーする？布施理恵子？秘策？あー、忘れてた、忘れてた。あるある、ありますよー！聞きたい？エッシッシッシ！

でも走ってった久美ちゃん、笑顔最高に素敵だったー。やっぱ久美ちゃんの方が良かったんじゃね？

4/21

「ケヘヘ、どうすんだよ、布施監督」
下品なよな、悪い事考えてるよな、高間不二雄。
「どう？そーねー」
わたし、あっち向いて言いました。まるで枝に止まった春のメジロのよーに。
「り、理恵子ー！マジ、久美ちゃん、降板出しちゃって…久美ちゃんのケッコンはわたしもオッケーめだけど、んでも、え、エーガがぁ！」
ミケ、半泣き！珍し。何、オタオタしてんのー？ミケ。
「えー？エーガ？そう。そーねー」
わたしの春はのどかどかどか。ピチュチュチュのちゅ。いとおかし。ねえ？お天気は気持ちよかよ、ねえ？久美ちゃん！結婚式呼んでくれるかな？エシシシ、スピーチ頼まれたりして。
「理恵子ー！マジヤバいってー！」
おっとっと、ヤベ、いつもと立場逆転しとるとよ。気分いーけど、何かンゲーミケかわいそ。んー。
「布施ー、ホントは何にも考えてねぇんだろう？」
カチン！なーに、このオジン！何にも考えてない？ちょっとー！メジロだって怒ったら闘うのよー！このー！
「ミケ！」
わたし、ミケの名を叫ぶ！
「は、はいー！」
ミケ、固まる。
「軽尾さんに電話！」
ミケ、口開けてパクパク！
「すぐにでも会いたいって布施が言ってるめだって伝えて！」
「は！はいー！」
ミケ、電話を探す探す。でもすぐ出せねーの。もー！オタオタすんなー！
「高間さん、何にも考えてない？随分言ってくれるじゃない！わたしをナメんなよー！もう！このエーガセーサク、誰が一番真剣に考えてるってワタシですからね！ワタシ！原案から企画からセット構想、脚本、確かに高間さん達にンゲー頼りまくりめですけど、『かぐや姫』の全体を再現するデザインはあなたの言う、ゆーえんちみたいなこの頭に全部入ってんですから！もう！久美ちゃん降板？高間さん、あなた何年エーガセーサク携わってんのー！信じらんない&頼りね！そんなのすぐ代役立てればいーめでしょ？」
吠えるフセリエ！
「ととと、ちょっと待ったちょっと待った！映画についてはそのよう、後だ、しかしよう、代役？んなのすぐはそりゃあすぐ当てられるわな！けどよう、松浪久美だぜ？松浪久美！天下の松浪の代わりなんてよう、おいそれ、はいお願いします、てな訳にはいか…」
ちょっとパニッた高間不二雄、けど、何か察しついた？んな顔しました。
「布施、お前まず軽尾さんって…謝罪の連絡か？撮影中止の」
ん？中々良い勘してるでおじゃるぞよ、オジン。何か考えてるよな感じ。
「んな訳ないじゃん」
わたし、流し目でミケ見る。
「あ！軽尾さんですか？はい！はい！三田です。はい！はい！あ！やはりご存知で…」
ミケ、アワアワ。縋るよにわたし見る。
「まずいよなぁ、布施。なんたって軽尾さんは松浪の大ファンだもんなぁ。松浪降板なら、気ぃ失くすかもな。んで、エーガおじゃんだ、おじゃん。ケヘヘ」
皆さん、このオジンは意地悪で言ってないめにちゅーもく！こいつはわたしを挑発してるのだ。揺さぶられてはなりませんのでおじゃる！

4/23

「ミケ、アポ取って！わたし、代わる？」
わたし、オジンを睨みながら言う。ミケ、バタバタ手ぇ振る。
「あ、あああ、あのう、布施が、お話をしたがっておりまして」
頑張れ！ミケ！今のわたし、ちっと頭がファイヤーなんで。レーセーに話せない！
「布施、つまりおじゃんにしないって事はよ、代役誰考えてんの？遠藤藤子はもう無理だからな」
オジン…
「遠藤藤子？はじめっから遠藤さんでは考えてませんもん。ショージキ、久美ちゃんでもなかったもん」
オジン、ハテナ顔。
「布施、お前大丈夫か？本当の所はよう、松浪結婚でとうとう頭が…」
言い掛けたオジンに、このう‼︎
「ホントの『かぐや姫』探しで毎日毎夜頭いっぱいだったんだー！何言ってんのー！高間さん！日本をダイヒョーするお姫様だよー⁈ゼッタイ外せねーの！もう！イメージと演じる人を！頭が？何？その続きは！スッゴイ聞きためなんですけど、もういいわ」
「り、り、理恵子ぅ。お話中悪いんですけどぅ」
「何⁈もー！今取り込み中！」
「軽尾さんがぁ」
「えっ？軽尾さん⁈ミケ！代わりに答えてて！」
「で、ででで、でもぅ」
「でもも何もないの！今からでも直接お話ししたいわ！って言って！」
「は、ははは、はいー！もしもし？軽尾さん、ウチの布施は…」
「松浪や遠藤以上に、『かぐや姫』できんのがよう、いるんか？」
オジン、薄ら笑って。クキーッ！締め殺してやりたいでおじゃる！
「お生憎様！わたし、もうめっけてんの！」

…

高間さん、んで電話中のミケ、止まった。
「まさか！」
ミケ、お目々からお星様飛び出した！
「そーよ！ミケ！」
わたし、ミケにウィンク。
「だ、だだだ、だって留学がどーのこーの…あ！すみません！こちらの事で、ででで、でして、なるべく早く…」
ミケ、いつものミケみたいに行けー！ゴー！
「今すぐって言うの！」
あー、イライラするぅ！もう！
「い、今すぐ？」

“アーッハッハッハ”

すると電子音の笑い声、聞こえました。軽尾さん、受話器の向こうで笑ってますよー。

“りえちゃーん、待ってるよー”

あら…軽尾さんのお声。しもた、わたしとオジンの口喧嘩、聞こえめでした？あら嫌だ、オホホ。でも、安心するー。やっぱ軽尾さん。あったかいなぁ。このオジンとは大違い！このオジンとは！
「あ、高間さん？そーいう訳だから、わたしとミケ、すぐ軽尾さんとこ行くから。御免遊ばせ」
このオジンの顔、見てたくないー！クキーッ！
「俺は行かなくていいのか？」
「いいです！てか来ないで！」
「だってよう、会社としても…」
「そんなの後！後で！もう行くよ！ミケ！」
「はいー！」
ミケ、バタバタ。
「そうかい。判った。しかし何だよう、布施。何でもっとその本気、早く見せてくれなかったよ」

えっ…

フセミケ、停止。
「もういいよ。行け。行きな。んで結果、教えろよ。早くな。早く！おう、行ってきな！」
高間さん、イスに座る、ドッカと。余裕見せ見せ。カッコいいじゃん。
「…ミケ、行こ」
フセミケコンビ、部屋を出ましたのです。

4/26

「理恵子！」
バタバタするミケがブザマでおじゃる。
「何？」
わたし、ヨユー。なーんか、へえ、そう？みたいな。ヘッチャラヘッチャラ。
「もしかして、軽尾さんのお嬢さん？かぐや姫演らせるの？」
ミケのお目々がグルグルパー！あ、クルクルパーじゃありませんからね。ミケはお友達だからんな事言いませんよー。
「そう」
フフン、そーよ。
「だ、だだだ、だって無理じゃね？ちゃんとした女優さん、探そーよー！」
何を泣き言を。もー、今日のミケ、何かウザい。いつものミケに戻って！
「あ、大丈夫。わたしにまっかせといてー」
答えんのもーめんどくせ。
「まっかせといてーって、理恵子ぅ」
またグジュグジュ…このぅ…
「ミケ！わたしに任せて！もー！おんなじ事言わせないで！」
「は・はいー！」
やっと黙った。もー。はい、タクシー。うん、すぐ捕まった。ガチャ、ボトム、行く先は？そーねー、軽尾さんち。軽尾さんちまでお願い。え？何処のお宅？軽尾さんは軽尾さん！早く動かしてーな！
「〇〇番地の△×まで！お願いします！」
やった、ミケのツーヤク入りました、ツーヤク！助かるわー、ミケ。ありがと。あぶねー、間一髪でこのシトと喧嘩するトコだったでおじゃる。
「でも理恵子、お嬢さんの予定が合わなかったら？それとか乗り気になんなかったら…」
また不安の虫。
「あ、そん時はそん時」
もー…
「そん時はそん時ぃ？マジ、理恵子、今度ばかりはヨユーなしめなんだから！」
もー…
「大丈夫大丈夫。ミケ、心配しなくて大丈V」
Vサイン、キマッタ…任せて任せて、わたしに任せてー！でも“大丈V”ってもう死語だにゃ。
「Vぃ⁈だって久美ちゃん以上のタレント価値あるシトなんて、他考えらんねーよう！この『かぐや姫』、わたし、頭ん中でずっと久美ちゃんでシンコーしてたんだから！高間さん達会社の人もそーよー！んで、軽尾さんだって…久美ちゃんの『かぐや姫』を皆んな楽しみにしてくれて、んで、セーサクまで取り付けたんだから！」
もー…
「ミケ、何でんーなに弱気なの？何かミケらしくなーい。あ、ケーコー、何か食べるもん持ってる？チップスとか」
「チップスだあー⁈」
もう！ニャーニャー、ガミガミ、うるさい！もー…

「慶子！ちょっと静かめになって下さらない⁈」

タクシーん中、シーン…ヤベ、ミケに怒鳴っちゃった…ごめん。
「ごめん」
ミケのお耳、ショボンと垂れる。あ、これもわたしのモーソー。
「いいよ。わたしもね、ごめんね。でもね、ちょっとレーセーになって。わたしが大丈夫っつってんだからV」
もう一発。
「んな事言ったって、おめーが大丈夫っつーと益々こっちが不安めになるじゃんか」
「何⁈」
ミケ、お手手をバタバタバタフライ！
「んー？何にもー？」
口ドンガラがせてあっち向いた。このう…シタタカな奴でおじゃる。

4/30

ピロリロリーン

ミケのケータイ鳴った。ミケ、電話出る。
「あ！恭子さーん⁈」
え？お姉様？
「あん！あん！あん！今マジヤバめ…いやもうヤバヤバフルスロットルですー！」
ヤバくないってのにー、もー！

『ハッハッハッ、やっぱり？』

あれ？姉様もヨユー？

「笑えないですー！マジで！どーしよどーしよ⁈」

フーッ…ったくぅ。

『たーいへん！ねえ、まさかの久美ちゃん降板。ニュースもたーいへんよー。きっとフセリエもパクパクしてんじゃない？』

ピッキーン、キました。はい。何？パクパクって。

「恭子さーん。聞こえてるよー」

…

ミケの顔。凍りついてるを通り越してます。そしてゼツボー的に悲壮な顔して電話持ったまま。んで、恭子さん、黙った。でも今は恭子さんの事、気ぃ遣ってらんない。てか、慶子がわたしをイライラさせ過ぎ。

『フセリエと代われる？』

「えっ？はい！理恵子ー！恭子さん！話したいって！」
聞こえてるってのに！もー！んなおっきな声出さんでもう！電話受け取る。
「フセリエ、マジ、どうするの？」
このう…でもお姉様、したたか。サグリ入れ方上手過ぎ。
「てか、皆んな騒ぎ過ぎ。久美ちゃんは結婚するのよ。何でハピハピハピってあげらんない訳⁈信じらんない」
そうよねー？ね？
「ハピハピハピってあげたい気持ちは山々めなんですけど。フセリエ、わたし達の映画の事最優先で考えて当然でしょう？わたしだってベルリンの個展の話蹴って撮影に参加する訳だし。何？『かぐや姫』、止めるの？」
ケッコー、タカマーさんと同じ角度で投げて来ますコト！ムー！ベルコテの話はキツいですー！
「えー？止めるなんて、誰も言ってないよー。わたし止める気なんてサラサラなさめだし」
ミケ、わたし見る。ぶったまげ凝視！
「止めない？そう…」
ああ、恭子さんの表情が目に浮かぶ。仕事する人の顔してるんだろな。わたし、スマホ持ちながら姿勢正す。負けるもんですか！
「じゃあ何か考えてるって事ね」
恭子さん、丁寧に言う。
「そう。そうよ。そう」
ミケはジタバタし過ぎだけど、恭子さんには何かが伝わったみたい。
「それで今、移動してるの。少し目処が付いたら、恭子さん、わたし連絡するから」
わたしも言葉、気をつけて気をつけて、と。
「そう？判った。待ってるわ。理恵子、がんばれ」
「えっ？」
電話、切られちゃった…
「理恵子ー、大丈夫？恭子さん、怒らせなかった？」
ミケ、オドオド。でもわたし、知ってるー。ミケ、恭子さんが大好きだもんね！
「えー？大丈夫めじゃない？あの人、そんなに細かい人じゃないんだから」
フフフーン、V！
「りりり理恵子⁈あ、あ、あんたは一体⁈その自信は…はっ⁈もしかして…」
ん？どした？ミケ。

「キターッ！“映画の神様”！理恵子にコーリンだー！」

ギニャーと叫ぶ三田慶子！おヒゲもビリビリ！ところで…はあ？“映画の神様”？何言ってんのー、ミケ。とうとう限界め？

5/5

またピロリロリーン、と。もー。
「ワーッ！椎サマー⁈そう！そうなの！そうなの！そう！ヤバいのー！」

「ミケ！」

…

「もー、ヤバい言うなー！ヤバくない！ヤバくない！ぜーんぜんヤバくない！」
「でもー」
「でもも何もないのー！判ってるめでしょ？わたしが何狙ってっかって！」
「そりはそーなんだけどー」

『何？フセリエ、ブチ切れ？ハハハ』

ピアノの高い音のポロポロポロリーンな笑い声！ポロネーゼみたい。その能天気さが、このう…他人事めでおじゃる！あ？でもポロネーゼ…？スパゲッティ食べたくなってきたのでおじゃる！
「そう！そーなのー！理恵子、ブチ切れー」
ミケ、ズルいですー！椎サマに縋ろうとしておじゃる！
「ブチ切れなんて言わなでよー！一生懸命めなだけでおじゃる！」
やだ、とうとう“おじゃる”が出てしまったでおじゃる。

『代わってー』

もー…
「はーい、布施理恵子でーす」
もう…ウザった。
『何？大丈夫め？ニュース、ヤバいよー』
「えー⁈大丈夫なんじゃないですかー?」
早く軽尾さんち、着け。
『エーガ、撮影中止め、あり得る？』
もー…
「あり得りません！あー、もー！ミケがヤバいヤバいゆーから！大丈夫でーす！」
わたし、ミケ睨む。ミケ、ソッポ向く。このう…
『あ、そう？止めたら怒っからねー！』
「えっ？」
意外でおじゃる…
『わたしの代表作になるオペラを作るのよー！止めたら絶対許さない！もうンゲー、出来掛かってるめなんですからねー！止めたら、ンモー！絶対許さない！』

ケラケラケラと笑ってますもん。つおいよ、このお嬢様！
「大丈夫！椎サマ！絶対、椎サマ作のオペラまで漕ぎ着けるのよー！ンモー！」
ンモー！牝牛のコンビ、最強ですね！任せて！理恵子に任せてよ！あれ？でも待てよ？
「でもC子さん？やけに…」

ピコーン！気付いた！キッタネー根性、見えましたー！
「もしかして、そんなに拘りめなのは…」
“あの方”？ただ“あの方”とキッカケ作りたいが為に…
『“やる”って聞いたからもういいや。じゃあねー』

ブツっ！

このう…この！この！この！みんなみんな勝手ホーダイでおじゃる！わらわの事、何と心得る？名画『フルートと私』の監督であります事よ⁈もー！もー！ンモ〜！っんとにもー！…と、着きましたわね、やっと。ホホホ、整えなきゃ、軽尾さん、お久しぶりです事、と、ホホホ。