2/20

須川修作サマの竹林の物語

「僕、その時はえらいぐうたらやったんや。ほんま。全うに働いてもいなかったんや。何でかって、僕もそらぁ働いてた事は働いてたんやが、何か嫌になってしもうて。働きたくない働きたくない、思てネットとかでそんな僕でも楽に暮らせるなんぼあらへんかなぁって探してたんや。そしたら、変な募集広告見つけてな。まあ、それがこの竹林なんやけど。要するにこの竹林を管理する人間を募集してたんや。何かえろう胡散臭いなぁ、思たよ、僕も最初は。けどな、元々ぐうたらやから、これがほんまん話やったらおいしいなぁ思て。そんで受けてみたんや。何日の何時に、って話つけて。先ずは元の方との面接やった。面接官、言うんかなぁ。まあ、会うたのは六十ぐらいやったかなぁ？けったいなおっさんで。まるで水木しげるや白土三平の漫画に出てきそうなおっさんやった。それで色々聞いてみたんねん。給料はなんぼかって、何や、生活に困らんぐらい、いや寧ろ家庭持って子供養って行くのに充分なもんなんや。おかしいなぁ？なんぼなんぼでも話がうま過ぎや。何か罠、いうか騙されてガッカリするもんが後に待ってんやろ？て疑おうて。ただなぁ。おっさんはおっさんでえろう口が下手なんねん。下手言うか、口が重たいねん。ああ、僕と同じやなぁ思て。不思議や。そん時、僕、何かおっさんとシンクロしてしもうて。それに僕、世間的な責任みたいなもん、何も背負ってなかったんねんで、そん時な。せやから、ああ、ええか？こんな僕やもん。今から表出てって全うな社会生活送り直す気もさらさらあらへんし。自分の将来なんて、もう考えるのも嫌やったんや。年柄年中ボヤッとしてたかった、せやさかい、何や、おっさんの話、今の僕にぴったりや！て最終的に思て。しかしけったいなおっさん、いうか話やった。建前的な、業務的な話が一切ないねん。ほんで最後にな、決めるか決めないかは最後、僕が竹林を見てその時に決める言うんや。ほんまけったいなおっさんやな、思て。けど、僕は僕でけったいな生き方選んでもうてたから、ああ、同じや、思て。それで、後日に、そう、この竹林に来たんや。そしたらな。

布施、その時、ビリビリってしてました…

何かスピリチュアルやな。でもほんまそうやったんや。感じたんや。この綺麗な竹林を、そう、今布施さん達が入って来た所から見て、直感言うか…強いもん感じたんや。とても不思議な感覚やった。僕、これはほんまやけど、あんま幽霊とかそういうん好きじゃないねん。信じてもあらへんで。ウソクサ思て。でも不思議や。そんな僕やのに。まるで竹林の方から"ようこそ！"みたいな声ぇ、みたいなもんが…布施さん、こういう話、どんなやろ？嫌やったら言うてな。

布施、首横に振りました。マジ、真剣に聞き入って。

全くのスピリチュアルや！信じられへん。ただ僕はもうここに呼ばれてたんや、て直感したんや。それで、不思議、ほんま不思議、ああ、僕はもうここをこれから管理して行くんやって自然に思たんや。訳が判らんねん。運命いうのこういうこっちゃねんか？おっさんに付いて竹林の林間をそぞろ歩き、そう、今日の布施さん達と同じ様に、あの庵に入っておっさんと改めて話したんや。しかし、またけったいなんや、これが。

…

おっさんが言うには、合格や、と。合格？合格ってなんやねん？って思た、けどすぐに僕は僕に嘘吐いてん事自覚したねん。もう全く不思議や！おっさんが合格言うた、つまり僕がこの竹林に感銘した、そして竹林の方から何事か受け取った事をおっさんはもう悟っとんねん。このおっさん、仙人はんかなんかかなぁ思たわ。あんまり不思議やもん。僕、合格言われて何したと思います？布施さん達がさっき僕にした様に深く、おっさんに対して頭下げましてん。不思議やった。まるで操り人形みたいやった。竹林のここに入ってから、まるで僕が僕であらへんみたいやった。僕はこの竹林に捕もうてしもた。いや…それも嘘や。僕はどうやらこの竹林の管理をする様にこの世に生まれて来たんやって。だから僕、スピリチュアルやろ？えろう申し訳ないな。嫌やったらほんま言うてな？

やっぱり布施は首を横に振りました。もっと聞きたい。

2/23

…けったいなおっさんの話が後少しあるんや。まあ、つまりは僕を竹林の後継者ぁ見込んだ。そして僕は僕でお願いします、言うて。おっさん、にっこり笑うたは。僕、何回も言うてますさかい、しつこくて堪忍な。滅多に笑わへんねん。僕、渋ーい顔しておっさん見とったわ。何か、おっさんに疑念言うか、心にへばりついて取れへんねん。でも流石に僕も、おっさんに、おっさんの心に歩み寄らねばならん思て。渋ーい顔ォ無理してな、は、微笑んでみたんや。おっさん、次にな、言うたねん。

あんさん、笑はらなかったら
殺しとる所やった

…何や、物騒な。僕、ドッキリしたよ、ほんま。ホラー映画みたいや。でも、僕も若かったんやろな、返し言葉に言うたんや。

お宅に簡単に殺される程、ヤワやない」

布施、もう背筋冷たーい。でもスリルが…た、たまんない。

「したらな、おっさん今度はニヤーッ笑うんねん。しょうみけったいやなぁ、て。骨もあんねんな、て。まあ僕、こんななりやからよく弱っちく思われんねん。ほんまんとこそうやけどな。けど、プライドぐらいあるで。何や、よう乱暴に殺すだのなんだの、口からポロポロ出ますねんな。軽蔑するで、ほんま。そう思て黙っとったんねん。せや、実の所、こんなよう言われたら竹林も楽な仕事もどうでもよくなりましてん。何や、僕かてそこまで黒い世界は真っ平や。次当たりますわ、言おうと思て。すると、おっさん今度は頭下げんねん。何や、次から次へと。もう嫌や。殺す、の次は何宣うんねん？

君こそ相応しい

何がや？アホ。もう僕は嫌だで。

わしも君ん時ぐらいはそうやった。

だから何がやねん。回りっくどい言い方するから腹立つねん。

わしもここ、不思議な縁で受け継いだんや

不思議？そう、そらぁ不思議や。僕も。考えたら考える程、奇妙なんや。そして、ほんまは満更嫌でもないねん。おっさん、あんたが乱暴な事言うからおかしくなったんや。

わしの、前の管理人もな、えろうけったいな爺さんやった

おう、そうか。あんたもな。そんで、僕も。

君とは経歴の方はややちゃったけどな。わしはようけ働いとった。大工やってたんや。

そらそうか。ご苦労さん。

ある日、プッツンキてしもうたんやな。でもそれは今思うと、不思議なタイミングやった。竹林の方から呼んだんやな。ここには魂があるさかい。

魂？またけったいな事を。けど僕、何か薄々感じてたんや。

あ、僕と同じや

布施さん、ここ！ここなんや。信じられるかて、信じて貰わなくてもええ。おっさん、僕が心に今の言葉、思たと同時に喋りおったんねん！全く同じ言葉を！」

シ、シシシ、シャイニングじゃないかしら？それは。
し、知ってる？この映画？

2/25

「読心術、言うやつや。けったいもほんまけったいなおっさんだったで。もうおっさんおらんようなって十年は経つかな？」

ご主人、いえ須川さん、奈良の空を見上げて思い馳せ、けったいなおっさんの事を。

「びっくりしたわ、ほんま。僕があんぐりしとるとな、おっさんニャーッ笑うんねん。でも僕、もう何も言う気もおきんかったわ。何やこう、えろう不気味に感じてな、おっさんの事。こら、逆らわん方がええわ思て」

布施でもそこにいたら、そうだったと思います

「まるで昔読んだ、芥川龍之介のあの物語やったよ、ほんま。それでおっさん、言うんや。

わしは旅に出る、て。

旅でっか、そら、ご勝手に。しかしその歳で旅でっか？結構な御身分でらっしゃいまんな。いや、そんな事ぁ言いまへんでしたで。でもそう思てたわ。でも、旅でっか？とは聞きましてん。

ああ、一言言う。

何処へ？て尋ねましてん。

何処？そう…

わし、何か出来そうなんや

出来そう？何のこっちゃ？

わしにしかでけん事あるさかい

ほう

僕、もう、ほんま何か言うの止めましたわ。もうこの人の中、入ってってはあかん。それに、少し羨ましかったんねん。何や、羨ましいな、自分のやる事めっけたんでっか、僕には何もあらへんさかい。

何もあらへん？

またや。おっさんの読心術や。頼むさかい、それ不気味だからやめて欲しいわ、言うて。したらおっさん、また笑いけつかる。失礼やなぁ、このおっさん、ほんま。

わしも何もあらへんかった
けどな、やっと見つけたねん
それが先ず、あんさんをめっける事と

この竹林を出る事と

世の中に星屑と散らばるわしと同じ人間と会いたいんや

そらぁ結構、結構ですわ。止めまへんで。いや寧ろ、羨ましい。僕もあんさんと同じぐらいんなったら

なったら

僕にもそんな心持ち、持てますかいなぁ

何か夕焼けが魚焼く炭火みたいやった
脂落ちんねん、それで
脂が炭に焼け煙立てんねん
ええ香りや
腹減ってしまいましたわ

何やか、そんな気になりましたわ

それから一月の後、おっさんからこの竹林

この竹林…」

須川さんの顔。何、えーがみたいや

2/27

「この竹林、譲り受けたんねん。おっさんとはそれっきり。そっから僕のこの一人っきりの生活、始まりましたんですわ」
「あら…」
フセ、聞き入ってましたよ。けど、話半分、何か殆どお前の作り話なんじゃね？ってショージキ、思っちゃっててん。ごめんな、須川はん。
「全部話してしもた。ハハハ、聞いてくれて、ありがとう。ほんま嬉しいわ」
ハハハ、と朗らかに、須川はん。わたしも良かったわ、あんさんのお話聞けて。あれ？ミケ達は？いないですやん。まあえっかー。そこで、ふと。
「不思議でしたわね。何だか、映画みたい」
ホホホ、ほんまそう思いましてん。
「映画…せやな」
須川はん、またハハハ。
「そう、須川さんは映画、お好き？」
わたし、尋ねる。
「映画なぁ。そこまででもあらへん。『スター・ウォーズ』のナンボ目かのんが最後やったかなぁ」
あら、本当に興味がないのね。何かすぐ判りました。
「図々しいんですけど、是非わたし達の作った映画、観て下りません？」
わたし…何言ってんだろ？でも自然と言いました。
「布施さん達の映画？そらぁ、せやな。観んとあかんなぁ」
また朗らかな。結構人の羨む時間大満喫のフセ。エシシシ。
「はい。是非！」
わたし、必殺の首カタン横に。エシシシ、罠に掛かれー！
「おススメは？何でっしゃろ？」
「そうですわねぇ…

やっぱ、あれや

あれがよろし」

「あれ？」
やばばば、今人と話してんだった！戻れ！布施理恵子！
「そう、『フルートと私』って映画が、一番ヒットしましたの」
ウフフのフセ、宣伝宣伝。でも本当の所、宣伝宣伝って気持ちより、あ、何だかこの人に観て貰いたーいって、本当ですよ！そう思いましたんです。
「へぇ、フルートでっか。何か、そらぁ、ええですやん」
まだ観てねー内から良いって言うなー！でも観てねー！
「今日ここに来た皆んなで作ったんですよー。主演の女優さんは松浪久美さん！」
判るかなぁ、久美ちゃんの事。今をトキメク女優さんだぞー！

2/29

「松浪久美やて⁈そら、僕でも知ってますわ！」
ほーら、やったぜ、シシシ。久美ちゃんパワー、恐れ入ったか？ねー、もー、ミケー。
「ならば是非是非です。観て下さい」
しかし、ここまで孤高に暮らしている人にも久美ちゃんの可愛さ、届いているんだ。すごーい。何なんだろ？人間って。可愛いさって、何だかとっても特別な事なのねー。人の心を明るくするのねー。不思議ー。
「はいな、是非是非観ます」
朗らかMAX。これもヤバ。弱いわー。
「えー？ほんまー？じゃー、是非是非ウチからも、はいー！DVD、お送りしますわー！」
嬉しいやん。んで、カワイーやん、彼氏。
「いえいえ！そらぁ何だか悪いなぁ。ええですよ！僕、自分で買いますわ。気を使わせてしもて堪忍な」
「堪忍なんてそんな！オーッホッホッホー！」
布施、チョーチョーシこいてるー！エシッシッシ、普段ミケに怒られてばっかだきゃら、何かえーなー、この優越感！えろうすんまへんなー。
「そや、しもた。しつこいかもしれへんけど、オチまでまだ言ってないねん。話させてもらってよろしいか？」
頭ポリポリ。うーむ、イケメンってズルめじゃありません？何やってもさー。もー。
「それ、ウチも聞きたい。話して！」
「では…

ほんまもほんま、最後の別れ際、おっさんの言葉、忘れられまへん。

ボンさん

何や、馴れ馴れしい。僕の事、藪から棒に“ボンさん”呼びねんねんで。厚かまし。

何やねん

ほんまウザった。何言いたいねん。また殺す、言うんか。アホらし

ボンさん、わしもな、そして、わしにここ託した男もな、その男が教えてくれたんやが、皆んな同じ様にしてここを受け継いでいるらしいんや

それ…ほんまでっか？

僕、思わず王蟲返しに聞きましてん。何や、信じられるかって。でも、反発心よかほんま、素直な疑問ので方が口伝わって出てしもうたんや。素直な…素直な心で聞いたら、おばあちゃんから語り聞かされる御伽話みたいやから」

人の話は素直に聞く。うーん、そうですよー、ね？ミケ。ねー！

3/3

「ほんまや。ボンさん。不思議、不思議の鎖や。わしかて不思議思てな、そこがボンさんとは違うな、わしは聞いてみたんや

何を？でっか？

おっさん、腕組みましてん。んで、何か感慨深げにゆっくり言い出しましてん。何や、偉そうに。

この時間の鎖がいつの時から始まったんか、わしの先代も知りよらへんかったねん

ああ、そらぁ、まぁ、って、えっ？えっ？僕、頭ん中でコケましたわ。えっ？えっ？んで、僕が次、これ繋いで行くんか？そ、そらぁ。

この庵もな

おっさん、僕の後ろにある庵見て続けんねん。

頼みもしないのに、改修工が来んねん。ほんま最初はわしも不気味やった。まぁ、慣れたけどな。初めに言うてしまうが、庵ん中に記録らしい物は全くあらへん。やから、ただ住むだけや。ただ、竹な。これも不思議なんやが、誰に習うでもなく自然に竹の面倒みとる自分を見つけんねん。そらぁ、のんびり宜しくやってて宜し。まあ、よくよく考えればそれも不思議なんやけど。自然、竹育とんねん。自分で。手探りで。それで宜し、いう事ねぁやけんが、不安は不安。けど、束縛いう束縛があらへんねん。不思議やわ。それで、僕、ようこんな生温い生活続けんねんなって自分を自分で疑いますねん。アハハハ、アホやさかい、続くんかもしれへんけどな」

アホ、やなんて。結構、わたしと種類が…ヤベー！傾いてる傾いてるー！

「ほんま、おっさんの最後の捨て台詞、な。

わしにもほんま実の所何も判らへん。ここでの生活が現実だったのか何だったのか、皆目判らへん。そして…

…

この竹、何や、遥か遠い昔から生えてんねゃ。誰が植えたとも知れず。でも、そうやぁ、こっから見える山もわしら子供ん時から近くに生えとった木々も、誰が植えたとも知れず、まあ中には誰がいつこういう理由で植えましたってのはあるけど、人が弄らんとも生えて、ずっと、わしら、それからわしらの次の世代までずっと在り続けんにゃな。わし、おさらばすんねんけど、何か色んな事、教えて貰ったわ。遥か古代から、この人知れず、な癖に由緒のある竹林、さいなら。そんでボン、あんたが次のランナーや

…僕でっか？

そう。“僕”や

おっさんとはそれでほんまのさいなら。
僕は、そっからこの竹林の主、というか管理人か？そんなもんになりましたわ」

不思議ですわ

「そうそう、布施はんな」
何や、えろう神妙に。何でっしゃろ？

3/5

「実はな、これ、秘密やで。耳…」
なになになにー⁈キャッ！須川サマ、右手で筒作りました！んで、なになになにー⁈わたしに何かこっそり言いたげたげたげなんですけどー！ヒーッ！ドキドキ！けど、なーに？おせーてー！わたしも耳の横に手ぇ付けて広げましたんです、はいー！
「この竹林の管理の964（きゅーりょー）の出元なんやが、くな…」

ゲッ！

そこまで聞いて判ったー！って同時に、いつの間にか戻って来てた二階堂恭子軍団布施抜きの面々が！ヤッバ！ヤッバ！マジでヤッバ！恭子さんは、うーん、ニコニコしてて。何かわたしの事からかう感じの笑顔。げどぉ…ミケC二人の殺意に満ちた目が！ヤバいよぉ！帰ったら殺される、間違いあらへんで、ほんま。エライやっちゃ！でも何でー？いっつも二つ極端な事がどーじに起こんのよー！もう！

皆んなシーン…

須川サマも話すのやめちゃった。・・・なこの空気！恐ろしいわ！次、誰が何言い出すのかしら？
「ハ…ハハハ」
須川サマ、頭掻き掻き笑う、と。よーし、わたしもー！
「ホホホ」
首横に倒してベロちょっと出す。ヤベ、こーいうんの嫌われんねん、ぶりっ子やぁ言うて。でも、えっか。もうダメなんやもん。エヘヘ。もう一回、笑う、と。
「何？何の話？わたし達にナイショの話？」
ここは豪快、二階堂恭子。ワッ！と突風の様に、そして爽やかに。けど多分、沈黙が嫌なんです、この姉様。
「そ、そらぁ…内緒やねん！なぁ？布施さん！」
イケメン、これをまた爽やかに切り返す、と。上手いなぁ、ってでも布施に話振るのズルくありません？ヤベ、どーしよどーしよ！あ、よーし思い付いた！
「ええ！オホホ」
さっき耳に添えた手を今度は口に持って来まして、笑ってゴマかす、と。もう煮るなり焼くなり好きにどーぞ。
「へぇーえ！」
二階堂恭子、奈良の青空に高く呆れた声！何かそのまんま鷹にでも変化して飛び立って行きそう。何せ、出立がトップガンですからね、トップガン！
「それはご馳走様。ねえ、フセリエ。あなたは竹、見なくてもいいの？」
ヤベ、ぞーだっだ！わずれでだ！
「あなたの作る映画でしょう？胡麻擦ってたら駄目じゃない」
「は、はいです！」
「今度はあなたの番。ほら、見てきな」
「は、はいー！行ってきまーす！」
わたし、バタフタ！竹林に行くのよー！でもそん時のミケCの顔！ザマーミロって、もう！そう言ってたの！顔が！もー！

3/8

ヤベ、今度は勉強勉強！ここから何か探し出すのよー！えーがに役に立たそーな何か探さなきゃ！

かぐちゃーん
かぐちゃんやーい

あれ？何か似たような経験。

ゲッ！ぞーだ！
こないだ夢に見たシチュエーション、ゾッグリなんでずげど！正夢？これ？でもほんま同じやねん、14+94（ジョーキョー）が！そう…あの時も、何か目的が判んないまま、竹林ウロウロしてて。え？目的？

かぐちゃん…

そう、かぐちゃんを探してた。かぐちゃん、かぐちゃん。今は？うん、今も探してる。あの時、夢では少女のかぐちゃんに出会った。そうそう、Cサマの弾くピアノの流れる夜中の竹林で。あれ？もっとヤバい何か、忘れてる…

そういえば、ブルトン様に撮影されてた

布施、辺りを見回しました。勿論、ブルトン様率いる撮影隊はいません。いませんでしたよ。けど。

『ほんま、けったいなおっさんだったで』

さっきの須川サマのやや『シャイニング』めで監督はキューブリック様々よりはどっちかっつーとデ・パルマ大大先輩めなお話に出て来た、

けったいなおっさん…

そう、そうですよー。シーッ！不思議な妖気を感じますねー、はい！布施の髪、一本だけビュンって立ちましたよ（ウソ）、今のわたし、はい、鬼太郎状態なんです、はい。でも、ジョークはあっち！えーい！投げてっと、けったいなおっさんの手も、ええ、これは嘘ではありませんよー、けったいなおっさんも手を入れた竹なんですからねー！はい！須川サマのお話が本当ならば、ですけど。ですけどー…

竹取翁

何か、けったいなおっさん、ちょーど良くありません？何かええな、ねぇ、布施はん。エシシシ、冴えてまんな、ほんま。でも、どんなおっさんだったんだろ？

それにしても、素敵な林。何かセーケツですよー。ねぇ、ミケ？あ、ミケいねーんだった。前進、前進。

ああ、ここなんか良くありません？ねぇ？不思議。何かここがいーぞー。直感、はい、直感でしたです。

あ、そうだ、ピンクの竹

ヤバいなぁ。一本だけー、竹をピンクで塗りためなんですけどー。須川サマに聞かなきゃ、後で。でもさ。

『くな…』

ってヤバめじゃありません⁈んなトコの竹、ピンクで塗っていーのかよー⁈後でミケとそーだんだ、そーだん！ヤバいって！別にピンクじゃなくてもいーよー。

空想のお友達や不思議現象とお話しながら進む布施でありましたが、ほら！いた！

やっと見つけた

かぐちゃん、待ったー？

ここの竹林でオッケーめ？

かぐちゃん、オッケー、指で輪っか

かぐちゃん、じゃあいよいよ、撮影に入るからね

かぐちゃん、首を横に振る

ゲッ！だんで？もう全部決まりめなんでずけど、何かイヤなの？

うんうん、首縦、ポックンポックン

　”マダム”

あら！ブルトン様ー！いやーだー！オーッホッホッホ！布施は浮気してません事よー！オーッホッホッホ！かなり際どかったげど。

”いいから進めなさい。映画を進めなさい。そうすれば判りますから”

何が？何が判るの？

”結局、人生とは自動筆記なのだ”

何ですの？それは？

”例えば…”

あ、嘘。わたしの頭に一匹、蜻蛉が止まった。

3/12

スモークが。これは嘘？なんかわたし、自分でもこれ、嘘書いてんだか本当書いてんだか判んなくなって来ましたよー！いよいよ、末期症状⁈頑張れー！フセリエ！まだ1秒分の絵も撮ってないぞー！

さよなら、ブルトン様
お昼3時
やや西日めな角度
ブルトン様率いる撮影隊は
引き上げ始め

何かこれー、ミレーの絵みたい
ミレーと竹林かー
ねー、ミケー
ミレーめな絵でかぐや姫って
どー？

そうだ
夢の中では
ミケはブルトン様のスタッフだった
皆んなで一緒に宿に帰って
きっとお夕食食べるんだわ

でも、そこに布施理恵子はいないのだ

ミレーの夕暮れ
素敵でしょ？
皆んなでお祈りするの
今日も一日ご苦労様
お疲れ様、有難う御座います
ね？
仕事が一日終わったの

”わしに出来る事、みっけたねん”

あー？この方がけったいなおっさん？
ねー？須川サマー？
呼びに行きてーんだけど、まだ戻っちゃダミだ

あのう、ウチもウチに出来る事、みっけたいねん

”この竹林はな、あんさんに撮られる為に代々受け継がれて来たんや、思いなはれ”

ぞ、ぞんなごど！思えませんよー、絶対！布施的に究極無理めでずぅー！

”そう思え、いうだけの話や
それにな、かぐちゃん達が何や、えろうイライラしてんのはな、もう出来上がってんもん、いつまでいつまでもな、弄って見返してな、イライラしてんねん。早よ、作れや”

は、ははは、はいですー！

”まあ、わしらみたいなもんは何でも判ってしまうねんで、ヤキモキすんねや、結果がわことるさかい”

ゲ、ゲッガがでずが？それってヤバくありません？てか布施達の『かぐや姫』、どーなるこっちゃかおせーてぇな！

”少なくともな…あ、ほらな。今、命が宿ったわ”

え？何のこっちゃ？

”もう、もどたら宜し。何や、もう命が宿ったさかい、あんさん方がどうのこうの、もうあらへん。14+94が勝手にそっちに向かうがな”

そうでっか？

”そうや。もう逃げるも何もあらへん。14+94が19+94や”

そうなんでっか？ほな、ウチ、これで

”はい。さいなら”

さいなら

かぐちゃん…そーなの？おっさんが今言った事、本当なの？

すると、かぐちゃん！わたしんとこに駆けて来て、耳元で言いました！

”みーつけたっ‼︎”

なになになにー⁈パニック起こしましたよ、んーとにもー！

かぐちゃん、走って行っちゃった！笑いながら。んーとにもー！

一人、竹林ん中に突っ立つ布施理恵子。そうだ、持って来た小さな覗き包。不思議発見、不思議発見。風の音、聞こえますよー。はい。何だろ？匂い。この匂いは…

「理恵子」
「あ…」
慶子。ん？どしたの？
「もういい？」
「えっ？」
…あれ⁈これ本物の慶子⁈ニコニコしてる。
「入っちゃってた？」
慶子、ンゲー穏やかな笑顔で。何々ー？
「流石にさ、もういいんじゃない？」
「も、ももも、もう？えっ！ヤバッ！わたし…」
ミケ、ニマニマ。
「うん。入っちゃってた。そろそろ皆んな、大分待っちゃってるから」
「うんうんうん！ごめーん！」
わたし手ぇ合わせて仏様に拝むよーに謝った。
「いーよ、あん。それが理恵子のシゴトだから！行こ！」
は、はいー！戻るのよー！恭子お姉様、Cサマ、ごめんねー！布施、今戻りますから！

3/14

皆んなの所にダーッシュ！ハーハー、ですぅ、ハーハー。でも戻って来たぜい。
「理恵子、何か掴んだ？」
お姉様。
「えっ？そ、そそそ、それはもう！オーッホッホッホ」
ハーハー、ヤベ、結構疲れた。
「何や、皆さん、今夜良かったらうちで御馳走するで」
須川サマ。えー、そらぁえろうすんまへんなぁ。
「須川さん、お気になさらず」
断るトップガン。えー？何でー⁈
「お気になさらず、はお姉さん方やろ。えろう気にせんと。飛鳥鍋と煮麺ぐらい、僕でも出来ますがな」
飛鳥鍋とニューメーン⁈何や、ものごっつう美味そーや！お姉様、何で断らはりはるの？もー！
「いえ、それは」
お姉様、断固拒否。何でー？ブゥッ！
「まあ、あんま無理には。残念やな。けど、せやな。うん」
須川サマ、納得。
「本日はどうも、本当に有り難う御座いました。また連絡をお差し上げしますので、件の方、お願い致します」
お姉様、体を折る、と。あ、椎サマも。あ、ミケも。あ、ヤベヤベ、わたしもー。
「またや！やめてーな！ほんま！堪らんな！大丈夫やさかい！ええ映画作って下さい！早よ、頭上げてーな！」
何かトドメって感じ。恐るべし、二階堂恭子。仕事は仕事、キチッと刺して〆る、と。カッコイイなぁ。鍋とニューメンに涎湧いてお腹の空白ハンノーしてたわたしと大違いです。クーッ！
「ハイ！では！」
そして恭子お姉様、皆んなに目で。

”ほら、挨拶しな”

「ありがとーございましたー」
フセミケC、同時に御挨拶。
「ハイハイハイ！また来てや。布施さんの映画も観とくさかい」
「えー！本当ですかー？」
これはマジで嬉しかったなほんま。観とってねー！バイバイ！

恐怖の帰り道

「フセリエ、意外とやるじゃん」
何がですぅ？お姉様…
「え…」
「ねー？」

ねーっ‼︎

ミケC、と。もう勘弁してーな…
「しかしあの人も、あんな感じで中々やるわね」
フフン、とお姉様。
「ねー？」

ねーっ‼︎

あの、中々やるって何の話なんですか？
「女にも世間体にも、何も興味あらへんって感じで、さー！ねー？」

ねーっ‼︎

「ね、ねー！」
付いてこ、わたしも。って付いて行こーとしたら、ミケCに冷たい目で見られた。寒いよぅ、辛いよぅ。
「ああいう男の方が返ってギトギトしてるのかもね？手強いわー！アハハハ！ねー！」

ねーっ‼︎

頑張れ、わたし！よーし！
「で、でもー、恭子さん的に須川サマ、タイプじゃなかっためなんですかー？」
「えっ！ああ、悪くもなかったけど、わたし、あんまり細いのは好きじゃないかな？うん」
恭子さん、マジ考えめ。やった、少し苦しみから逃れられそう。
「ま、フセリエ、かなりくっついてたからねー。良かったねー！ねー？」

ねーっ‼︎

ミケCの“ねーっ‼︎”のトーンが低いよ。やっぱ、墓穴掘っちゃった。