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渋谷のとある怪文書を追って (2023年1月から9月にかけて)/比嘉光太郎

渋谷を駆けめぐる奇想…!?




 これは、とある人物によって、渋谷のセンター街付近に継続的に張り続けられている貼り紙である。内容を以下に文字起こししてみよう。
 
「まあ、せいぜいA氏の様にならない様に、選挙前に金をばらまいて下さい。まじで心配してる! (イラストで暗殺のやり口と、その対策方法を描き)、だって、最大の被害者が加害者になっちゃうじゃん!」(2023年1月22日の夜、渋谷の西武百貨店前にて確認)
 
 ここでいうA氏とは、2022年に銃撃され死亡した安倍晋三氏のことだろう。この文章では、政治家に向けた警告のような内容ながら、皮肉めいた語り口で非難を投げかけている。「せいぜいA氏のようにならないように」という箇所からは、少なくとも筆者の方は自民党などに反対の姿勢なのだろうことが分かる。レイアウトや文字として、多用される星のマーク。そして、SNSやメールの一般的となる以前の世代の方が、文字を修正する際に使っていたことも多い虫のマーク(誤字虫、書き損じミノムなどとも呼ばれる)などの特徴があり、この点からは、筆者の方の年齢は40〜50代ほどではないかという大まかな予想を立てることができる。
 
 私が最初にこの方による張り紙を発見したのは、2023年の1月22日、渋谷の西武百貨店前の通りでのことだった。周囲の街路樹の柵や街灯には、同じ方の書かれたと思われる張り紙が続いていた。人の多く行き交う渋谷の街に、一列にズラーっと並んでいる手書きの張り紙の数々。これを見た時、何かこう胸を打たれるものがあった。この張り紙の内容と客観的事実との間に大きな隔たりがあるであろうことは容易に想像がつく。一方、この文章を書いている作者の中で、それは紛れもない現実なのだ。この貼り紙の作者は、強い熱意と使命感をもって、私やあなたを含む多くの人々にメッセージを投げかけている。この貼り紙の主張自体に「賛成か・否定か」ということは一旦脇に置いておこう。ここで私が言いたいのは、この貼り紙を通し、この貼り紙の作者の世界の捉え方が分かる、ということである。
 
 本稿では、私の目撃した怪文書の数々を追って見ていきたい。貼り紙の内容は政治的主張も多く、人によっては気分を害されるかもしれないが、ぜひお付き合い願えないだろうか。早速、1月22日に見つけた貼り紙を見ていこう。
 


「貧富の差を拡大させるしか能のないアホのいうファジー! うんざり! 『正義、信念のない政治家』が一番怖いわあー! ※金持ってんだぞおー! うらやましいだろーって言う人間性欠如の人が言う!」
(発見日は先に同じ)
 
「!」を多めに、感情を強く押し出した文面からは、現状の政治体制そして政治家への強い怒りが伺える。また、大まかな主張を大きな文字で書いた後、空いた隙間に「※」で情報の補足をする傾向が伺える。
 


「政治家が間接的にしろ、人間の若者の命と未来を奪った事に対する怒りは、正義ではなく、人として、あたりまえに持つ『感情』です! だから、あなた達は人間性のない下等生物です! ※『もうしません』の一言ですむ問題でもないし、それに対する重大性が分からないなら政治家失格です! 国民の為に命をかけるのが政治家です。バカヤロー」(発見日は先に同じ)
 
 作者の怒りは強い。政治家を下等生物と呼び、「人としてあたりまえ」との一言は強烈だ。だが一番気になるのは、こういった強い主張の文章を読んでいった最後に目に入ってくる、付箋に書かれた言葉「元気ですか?」だ。



 一体、誰に向かって投げかけられた言葉なのか? 一連の貼り紙と同じ養生テープで貼られていることから、別の通行人が後から付け加えた可能性は薄い。貼り紙の作者と同一人物によるものだとして、貼り紙の主張のなかで糾弾されている政治家に対する気遣いの言葉とは違うだろう。では、誰に対する声掛けなのか? 通行人か? 答えは、作者本人に聞かないと判明することはなさそうだ。
 
 


「選挙の時、ロシアは銃で脅し、日本は金で脅す!!!!!」(発見日は先に同じ)
 
 選挙の際の不正を訴える内容。大きめの文字を補足する文章も無いことから、本当にこの一言が言いたかっただけのようだ。「!」の数の多さからも、その気持ちは充分に伝わってくる。


「バカな風見鶏女!!! 自分の株(キャリア)の為に赤発言を繰り返すゾンビ女! 今すぐ大口帰れ! 脳なし心なし! あなたにプライドはないのですか? あなたにちょうどいいグラウンドです」(発見日は先に同じ)
 
 ここでゾンビ女として非難されているのは、大口という名前で書かれている人物だ。おそらくは伏字で、「口」に何か文字が入るのだろう。

「たとえ、マイナスの感情があるにしろ、自分で感じる心が無ければ、知性(学校のお勉強ができるとかではなく、物事を知り、考えたり判断したりする能力)はないし、真の平和も無い! ※生きる意味も価値も無い!」(発見日は先に同じ)
 
 学校教育よりも人として大事なことがある、と訴える内容。先ほどまでと比べ、これには同意する人もいるのではないだろうか。


「アメリカと渡り合えるからって、日本で何してもいいというわけにはならない!」「あなた達は、反日で独裁国家とつながる宗教と関係を持って、海外ではG7リーダーやアジアの平和的リーダーを気どる! ※日本国民と世界の人々をダマしている! ※どこに行こうとして何を目指しているの! 線路のない列車にのっているようにみえる!」(発見日は先に同じ)
 
 この文章内で「反日で独裁国家とつながる宗教」と呼ばれているのは、昨今ニュースを賑わせている世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)のことだろう。文章中に遠回しな表現が多かったり、伏字が多いのは、その問題を大っぴらに訴えることで危害を加えられる危機感があるのだろうか。

「『友情か? 使命か?」? 『使命』だろ! 友情と一緒に死ぬわけにはいかないじゃん!』(発見日は先に同じ)
 
 友情より使命を大事にせよ、という事らしい。その使命が作者にとってどれほど重大なものなのかは伝わってくるが、一体どのような使命なのか、その一連の文章のなかからは具体的な全体像を読み取ることはできなかった。
 
 ここまでの8枚は、全て1月22日に確認された。貼ってある街灯の凹凸などが字の筆跡に影響していないことから、それぞれの紙はおそらくは自宅などで書いたものを持ってきて貼ったものだろう。こういった貼り紙によって道ゆく人々に啓発しようという試みは続いていった。
 

「歴史問題、男女差問題(気をつけろ)、金と権力の差問題、性的少数者の問題等々、独裁主義の人々は、それらの全てを利用して、人々を分断させて、その割れ目に『社会主義=独裁主義』の社会形態を取り入れていく! よく考えてみてください。これらの問題は、何十年過っても解決する糸口さえ(ここから下は切り取られている)」(2023年2月7日に確認)
 
 貼り紙の最後が切り取られているのが気に掛かる。こうした貼り紙は通行人から剥がされたり、落書きを加えられたりすることも多い。

「※リユウなくコウゲキしてるワケではないのよお。DO? なの? 新しい世界 国境なき新真民主世界にいこうとするのに皇族とか天皇ってさまたげにならね? っていってるのお」(2023年4月24日に確認)
 
 前回貼り紙を見つけてから、今回まで2ヶ月の間が開いている。私自身、数日おきなど、一定の間隔で渋谷に来ている訳ではないため、私が見にくる以前に剥がされている貼り紙も多いだろう。ただ、文字の色がほぼ全て同じで、情報が今まで以上に整理されていない様子からは、何らかの変化が読み取れるのではないだろうか。
 

「戦争をおこすかおこさないかは、中やロ、北が決める事ですうー! ※外交で戦争とめられましたかあ(ロシアの)。 ※日本より中国が大事な自民党の保守じじいがいるからな…… 中国に金与えて戦争のリスク高めただけじゃーん!」(2023年5月8日に確認)
 
 略して「中」「ロ」「北」などと書かれているが、明確に中国やロシアなどを指している。また、明確に自民党の名前を出して(一部が伏字だが)批判しているのも変化なのかもしれない。今回の貼り紙においても、やはりマジックペンの色のバリエーションは乏しかった。使用している養生テープは緑色のものになっている。
 
「5月4日(木)プラNEW Uvs R 岩口戦闘作戦解説。ウワー日本の戦国時代みたあーい! フーム、フーム、フーム! 軍艦にも戦術と戦略があるんだあー『レッドオクトーバーを追え』という映画思い出すなあーヒゲジイサンのお。かっこいいフンイキが戦にあってて」(2023年5月8日に確認)
 
 明確にこれまでとは異なり、生々しい生活感が伺えてくる。「5月4日(木)プラNEW UvsR」という言葉の意味が判然としないが、この意味は次のように考えることができないだろうか。この貼り紙の作者がニュース番組を見ていると、ロシアのウクライナ侵攻に関する報道が流れてきた。そこでは、ウクライナ(U=Ukraine)とロシア(R=Russia)双方の詳細な軍事作戦なども解説された。その様子に盛り上がった作者は、かつての日本の戦国時代に思いを馳せる。そして「戦争・戦略」などの要素から思考が発展し、ジョン・マクティアナン監督による映画『レッド・オクトーバーを追え!』(1990年公開)を思い出し、「あのときのショーン・コネリーは良かったたなあ」と感慨に浸った……という事なのではないだろうか。
 また、映画『レッドオクトーバーを追え!』が好きなのは私も同じなので、貼り紙の作者との会話のきっかけが見つかった点でも、この貼り紙を見つけた時の収穫は大きかった。作者とばったり会うことがあれば、「僕も『レッドオクトーバーを追え!』は大好きなんですよ! あの緊急浮上のシーンは盛り上がりますよね」などと会話してみたい。

(映画『レッドオクトーバーを追え!』より、緊急浮上するシーン)
 
 この時、私と貼り紙の作者との距離感は縮まったように思われた(少なくとも、心の距離感という点では)。だが、ここから貼り紙を見かけることが全く無くなる。次に一連の作者によるものと思われる痕跡を見つけるまで、4ヶ月を待たなければならなかった。


「ウジ虫を死体から解放し、死体をヨミがえらせる」(2023年9月8日に確認)
 
 この語尾、星マークを見ていただきたい。これまでの文章で登場していたものと完全に一致しているではないか。筆跡なども似ており、インクの色も、これまでの貼り紙で見られたものだ。何より、この文字の隣にある次の落書きが、貼り紙と同一人物によるものであることを明らかにしていた。


「人を殺しても横領しても 裁かれないのが政治家である! んなわけあるかあああ 庶民法=極刑!」(2023年9月8日に確認)
 
 この政治家に対する怒りの姿勢は、紛れもなく、これまでの貼り紙と共通するではないか。そう、あの貼り紙の筆者が帰ってきたのだ! 貼り紙という形式を捨て、落書きという更にイリーガルさの増した手法をとって! 私はこれを見つけた時、興奮を隠せなかった。

「いちばん世襲してはいけない職業が政治家である!」(2023年9月8日に確認)
 
 これもまた、同じ時に渋谷のスクランブル交差点に面した喫煙所の壁に書かれてあったものだ。2023年10月7日夜に、改造車が突っ込んだ喫煙所……と言えば、伝わる人も多いのではないだろうか。この落書きは、あの喫煙所の壁に書かれていた。


 紛れもない、あの貼り紙の筆者によるものだ。政治家に対する怒りは、筆者に一線を越えさせ、落書きという手段に出た。周囲には多くのグラフィティ的な落書きはあれど、これほど明確なメッセージ性のあるものは他に無いだろう。
 
 この一連の、9月8日に確認された落書きは、これまで以上に衝動性の強い内容だった。最初に取り上げた「ウジ虫を死体から解放し、死体をヨミがえらせる」。これは一体、どのような意味だろうか? 何らかの比喩なのではないかと思うが、何を指しているのか分からない。これまでの政治的な文脈で考えると、「ウジ虫=政治家」で、それが蝕んでいる「死体=日本」という構図を示したいのだろうか。日本は悪しき政治家のせいで死体のようになっており、そのウジ虫のような政治家を取り除きたい……。このように考えると、何か筋が通るのでは無いだろうか。
 次に私が見つけた痕跡も、やはり、こうした政治家に関連したものだった。


「カルトⅡ世と若ケイサツカンと とにかく若者を死に追いやるアホ政治家党! しかもカルトで政教混同!」(2023年9月14日に確認)
 
 


「カルト大臣達! ニシムラ、モテギ、カトウ、テラダ、アサウ、ヤマギワ、ハヤシ、タカイチ、ハナシ、オカダ、ヤマ=ナントカ」(2023年9月14日に確認)
 
 これは、渋谷のセンター街にて、工事中と思しき居酒屋「大衆スタンド カンダヤ」の壁面を覆った板に落書きされていたものだ。麻生大臣のことを指すのに「アサウ」と書くのも、おそらくは伏せ字のような意図のあるものだろう。明確に自民党を批判する内容ながら、ところどころ内容が曖昧なのは何故だろう。この落書きの筆者も、怒りのあまりディティールがあやふやになってしまっているのだろうか?
 
 最後に紹介するのは、9月末に見かけたものだ。今度は落書きのかたちではなく、貼り紙に戻っていた。
 


「To America共和党の若いアホ! ケイザイで成巧した人たちが政治家になる不信感! 質より量=量により、大勢の人間から労働力をバイタイに尊ゲンと人権をうばい自分の金もうけによって人間に上下にこうてい差をつけた成巧者が」「政治家になった時、独裁するカクリツが高いのは目に見えるようだ。共和党のアホザル インド系せいじ家! (インドがアホではない)。洗のうされている場合はのぞき…… 人種や宗教はカンケイない、本来は……」(2023年9月26日に確認)
 
 渋谷のセンター街の内部にある、カラオケ館の壁に貼られていたものだ。以前の落書きよりも、文章としての体裁も整ったものになっている。やはり、自宅などで時間をかけて文章を書き、それを貼ったというところだろうか。落書きとなると周囲の目を気にしながら短時間で書かないといけないのを考えると、やはり、このような主張を訴えるには貼り紙の形式がふさわしい。

 この貼り紙の内容に関して、これまでとは異なり、海外の政治的な問題についても訴えるようになっている。「To America」というふうに、明確にアメリカ人に向けて書いている様子も伺えるが、だったら全ての文を英語で書いた方が効果的なのではないか? とも思われるが、それは作者にとって大事なところではないのだろう。
 
 同じ日に付近で見かけた貼り紙も、やはり国際規模の内容だった。


「To America ガバメント! 最先端技術と医療。宇宙開発について。FBIに政(?)に関わらずにそういう会社に介入する研究者ブ所をつくるベキ!」
 
「American イーロンマスク。※頭ガイ骨にドリルで穴をあけて、AIとつなげて行動をうながせるなら」
 
「※社主のマイクロチップを埋め込んで脳みそ(=シコウ)を直接ジャックする事も可能!」
 
「※自由と無チツジョとは大きくカイリしている! ※政治はきちんとハアクし、正しい(民主的な)使用方法をミサすべきだ!」
 
「To ウクライナの(勇かんな)軍の人々! ※武器を提供する、製造するという事は、その武器の使用についても1番熟知しているという事です! 使用場面、コウカ的方法、環境」
 
「役割を、ある程度分担すべきです! ※土地かん、テキザイテキシヨな人材ハイチ。米欧が知らない情報をゲンチの人々から集める等」
 
「ウクライナの人々だからこそできる事は、数えきれぬ程あります! 勝利を祈ります!」

 
 これらの貼り紙は、同じく9月26日に、渋谷のドンキホーテの右横にて確認したものだ。マイクロチップやイーロン・マスクの名が出ると、どうしてもコロナワクチンに関する陰謀論者を連想してしまうが、この貼り紙の作者はそうではないらしい。それだけではない。ウクライナ戦争について言及し、ウクライナ側を応援するコメントも寄せている。こういったところからは、作者の正義感が必ずしも世相と大きくズレたものでは無いことが分かる。あくまで、この貼り紙の作者としては、世界がより良くなってほしいという善意で活動しているのだ。あくまで手段が違うだけで、世間一般の多くとそう違わない願いを持っていることが見てとれる。

おわりに


 ここまで、私の見かけた渋谷の怪文書を順に紹介してきたが、この貼り紙の作者は今後も活動を続けていくだろう。貼り紙であれ落書きであれ、多くのメッセージが発信され、人の目に触れていくに違いない。そこで、この文章を読んでいるあなたにも協力をお願いしたい。どうしても一人のみでは情報収集に限界があるのだ……。今回取り上げた貼り紙に類似したもの、もしくは何らかの関連性の感じられるものを目撃された際、次のアドレスまでご連絡いただけないだろうか。
 
 また、今回取り上げたもの以外でも、不可解な張り紙などを目撃された際
はご教示いただきたい。

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