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『カメ止め』のミラクルヒットに思うこと。

映画部の宮嶋です。

先日U-NEXTで『カメラを止めるな!』の配信が始まりました。

人気炸裂を予想はしてたけれど、おかげさまで、実際改めてびっくりしちゃうくらいの人気なんです(このくらい人気です)。

U-NEXTのなかだけでなく、2018年のエンタメ界を振り返るとき、『カメ止め』のヒット抜きには語れないですよね。

実はわたし、公開前に試写で拝見していたんです。実は特に強い意志があって観に行ったわけではなくて。「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で話題だった作品ね」くらいの情報しか持っていなかったのですが、ちょっと時間が空いたのと、メインビジュアルの画ぢからに興味をもって、ふらりと観に行ったマスコミ試写だったんです。

そうしたら、試写会場が満員で、熱気がすごくて。私が行ったのはマスコミ試写の最終回だったので、業界関係者から関係者へと、噂が伝わってたんだと思います。

そしてそして。なんと上映が終わった後、拍手が起きたんです。みんなとっても晴れやかな、心底楽しんだ表情で。

マスコミ試写って業界のひとが仕事で観に来るものだから、こんなことってめったにないんですね。だいたいみんな、映画を観ながらも没頭せずに、メディアのかたはどんな記事を書こうかと考えてるし、評論家のかたは頭の中で監督の他の作品のデータと照らし合わせていたり、私たち流通の人間だったらどんな切り口でアピールしようかなって考えながら観ているものなので。マスコミ試写でこんな風にみんなが一体感を持って無邪気に映画を楽しんだ感覚を持てるのって、珍しいんです。

まだ、公開予定館数は東京の2館、新宿のK'sシネマと池袋のシネマ・ロサだけの予定だったと思います。「プレス」と呼ばれるマスコミ用の資料も、カラーコピーをホチキス留めしたものでした(メジャーな大作映画とかだと、ブックレットみたいな豪華な資料だったりします)。

でも、そういうのも含めた製作・制作サイドの手作り感と熱量と、観る側が仕事を忘れて純粋に楽しんでる感覚。すごく印象的でした。

その後の大ヒット街道ばく進ヒストリーはご存知のとおり。その大ヒットにクチコミが大きな役割を果たしたのも、ご存知のとおりです。

『カメ止め』を心から楽しんだ人は、「面白かった!」って誰かに言いたくなったと思います。もちろん私もめちゃくちゃ楽しんで、周りにも「面白いよ!内容は何にもいえないけど!」と宣伝しまくりました。

本当に面白かったから、仕事としてプロデューサさんに「ぜひ配信したい」とご挨拶に行きましたし、権利元さんとの交渉もしていましたけれど、一方で、単純に『カメ止め』がすごい勢いで広がっていくのが嬉しかった。自分が作品を楽しんで、クチコミに参加して、それが広く愛されることが単純に嬉しかったんです。

これ、『カメ止め』を観てSNSでつぶやいたり、友だちに勧めたりした人は、そういう気持ちで大ヒットを見守ってたんじゃないかなぁって思うのです。

それは、クチコミマーケティングとか、SNS社会とかいう言葉で語られがちですが、それとも少し違うような気がしていて。

それよりも、みんな、作品の中身には参加していないけれど、作品が広がっていくストーリーに、自分も参加しているような気持ちだったんじゃないかなぁ、と思うのです。

この作品は、若くてまだ認知度の低い、でも才気あふれる監督と、ほとんど無名の俳優たちが、300万円の低予算のなかで泥臭く作り上げたという、作品そのものが持つストーリーを、強く打ち出していました。

そういう作品を気に入って、そして人に勧めることで、「ちいさな映画が並みいる大作映画を押しのけて興収30億円越えの大ヒットを記録する」という、まるで300人が1万人と戦った『300 〈スリーハンドレッド〉』のような(笑)熱いストーリーの一員になったような痛快さを、観客に感じさせてくれていたんじゃないかなぁ、と。

そして、『カメ止め』というコンテンツのヒットの支えが、自分の目で観て人に勧めた人たちの「参加意識」にあるのなら、これはまた今後のコンテンツの新しい地平になるんじゃないかなぁ、などと思ったりします。

SNSでいろいろな物事に、いろいろな形で繋がれるようになった時代。誰もがクリエイターになることができる時代だけれど、多くの人は案外、自分が心底「すげー!」「シビれる!」「誰かに伝えたい!」って思えるものが紡ぐストーリーに、自分も1パートとして参加する喜びを求めてるのかもしれないなぁ、なんて。

そこに対して、私たち配信事業者には何ができるんだろうか、と思ったりしています。

とはいえ、劇場でも配信でもこれだけ人気が高いというのは、参加意識だけが要因ではありません。巧みな構成や計算されたテンポ感、キャラクター設定、そして「そうは言っても止めながら観たい、細かいネタ仕込み」など、上田慎一郎監督の手腕なくしてすべては起こり得なかった、ってことは間違いありません。

『カメ止め』と同時に配信された『お米とおっぱい。』を拝見したり、別の場所で『正装戦士スーツレンジャー』を拝見したりして、上田監督さすがやなー、次回作はどんなかなー、楽しみだなー、とニヤニヤしている今日この頃です。


公開前の、ホチキス留めのプレス資料。今となってはお宝ですね!


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