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【舞台・ライブ】来た、見た、書いた3

3月半ばからいくつか舞台とライブを見た。それについて書き記しておく記事です。
ネタバレかもしれないようなことも気にせず書いています。





ミュージカル「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」


東京公演、東京建物ブリリアホールにて。
初回の衝撃を大切にしたくて、意図的に前情報をシャットダウンして臨んだ。結果的にそれで正解だったと思う。

前半、じわじわとホラーの雰囲気が忍び寄ってくるのをこちらも体を固くして身構えていたのが、ラストあたりで倫理観が突き抜けてしまってからは冗談みたいに明るい雰囲気に。休憩をはさんだ2部ではあまりにも作業的に殺人が進んでいって、印象は完全に喜劇。椅子から落ちていく仕掛けはあまりにもコミカルだし、トッドの最期なんてもう笑うしかない。
オープニングの迫力に涙が出たりはしたが、誰かに感情移入して泣くみたいなことはいっさいなかった。誰かに感情移入させようという意志を作劇からそもそもあまり感じない。
いわゆる悪役であるターピンとビードルはもとより、復讐心にかられているはずのトッドは本来の目的からはずれた雑な殺人ばかりするし、ラヴェット夫人は目先の幸せで頭がいっぱい。
アンソニーはあまりにも愚かで後先考えず間もことごとく悪く、ここぞという時に役に立たない。ジョアンナの置かれた状況にはさすがに同情したくなるけど、キスミーのシーン、危機感皆無で浮かれすぎてて笑っちゃった。狭い世界しか教えられていないからこその愚かしさだし、その愚かしさがかわいいんだけど、でもやっぱり、あーあ……という感じの心の距離感から縮まりはしない。
誰もが目の前のごく狭い範囲にしか関心がないし、ぱっと見の印象や先入観でしか物事をとらえない。良心的人物っぽく見えるアンソニーの台詞や歌詞も、よく聞いてるとジョアンナのこと美しいとか歌声のこととかしか言わない。トッドもルーシーのことを美しい妻としか言わない。それって本質的にはターピンと何が違うんだろうな。

難解なメロディや話の展開に、人間の滑稽さを笑って突き放したような、俯瞰のまなざしを感じる。人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ。こういう印象をもつのは、自分が 3月頭に「天才バカボンのパパなのだ」を見ていたことも影響しているかもなあ。

大竹しのぶが本当に愛らしくて、市村正親が絶妙に情けなくてよかった。ふたりが演じるからこそあの不思議にカラッとした明るさがあるんだろう。本当に今更ながら、大竹しのぶの魅力に心を奪われてしまっている。

目の前にオーケストラがいるわりに音の圧をあまり感じなかったのはちょっと残念だった点だ。劇場の問題か。二階のL席からも一度見られたのだが、その時の方が音が届く感じがあった。オーケストラを見下ろせたのもよかったな。座る場所でだいぶ印象が変わる。4月の宮城公演でもきっとまた違った景色が見られるだろう。

何公演か見るうちに春が来ていた


舞台「PSYCHO-PASS Virtue and Vice 3」



西武新宿駅を降りると、行手にちょっと異様なほどの高層タワーが見える。SNSで色々話題になっていた歌舞伎町タワーだ。
ブレードランナーを思い起こさせるような猥雑なネオンにまみれた歌舞伎横丁を横目にエスカレーターを上がっていくと、途中から唐突に管理された区画に突入する。あのフロアごとの整合性のとれていない感じ、サイコパスを上演するのにこれ以上ない場所だと思える。

ということで、THEATER MILANO-Zaの二階席から鑑賞した。前2作がおもしろいとの評判は知りながらも未視聴で、それでもせっかくならと席をとった。舞台上では同時並行でカメラから映像が映し出され、予備知識なしの自分としては全体を把握できる二階席に座れて大正解だったなと思う。

すごく面白かった。ストーリーにも、近未来的な演出にもぐっと引き込まれたし、あの内容があの時間内に収まっているのは凄い。みんなスーツ姿なので、遠目から人物の見分けがつくだろうか…? みたいな心配も無用だった。それぞれの体にぴったり合った黒いスーツ、あまりにも格好いい。

アニメと同じ世界観の中で別のストーリーを描く手法はとても好みだ。たまにアニメに登場する人物や物事の名称が登場することで、ああ、あの話と繋がっているんだ、と世界にぐっと奥行きを感じられる。「2.5次元」という括りの舞台で最も好きなタイプかもしれない。
アニメや漫画をそのまま再現するより、舞台に最適化して世界観に没入できるほうが個人的には価値を感じる。

ラスト、海堂が舞台から飛び降りる演出が心に残っている。海堂が用意された人工監視官としての舞台からはずれ、我々観客と同じ高さまで降り、振り返らずに去っていく。彼が誰でもない自分として生きる道を選んだという象徴的なシーンだ。
海堂はその足であの猥雑なネオン街の中を進み、このタワーから外へ出るのだ、と、実際にそこを通ってきたからこそ具体的に想像ができる。

観客の層の幅広さや鳴り止まない拍手から、この舞台のシリーズそのものに根強い人気があることが強く感じられた。ラストの1作だけではあるが、立ち会うことができて幸運だった。

前2作見てたらもっと楽しめただろうな


饗宴「エイリアンハンド・シンドローム」


前回noteにも書いたDisGOONieSの最後の饗宴。あのお店にあんなにお客さんがぎっちり入っているのを見たのは初めてで、それにもなんだか胸が熱くなってしまった。

今回は再演で、このレストランの最初の演目が締めくくりとして選ばれたのだと思われる。オープンしたのは2020年、コロナ禍で外食すらままならなかった時期だ。当時は役者さんたちと観客の座る席はところどころアクリルパネルで仕切られていた。
今、2024年になって、我々を隔てる物理的な壁はなくなったけれど、"分断された時代"という台詞が出るたび、じゃあ、あの頃よりも分断はなくなったのか……? と考えてしまう。たぶんそんなことはない。むしろ精神や意識の部分では分断が進んでしまっている。いろんな人がいなくなってしまった。世界情勢は明らかに悪い方向へ向かっている。持つ人持たない人の二極化は加速度的に進んでいる。
そんな世界でわたしは何ができたか? 必要なタイミングで手を差し伸べることができたか? 演劇を見ている時、役者さんとの距離が近ければ近いほど、自分自身の置かれている現実と完全に切り離して見ることは難しくなる。自分もその作品の出来事の当事者になるからだ。閉店が決まる前に、もっと繰り返しこの店に来ることってできなかったんだろうか。あの役者さんが見られなくなってしまう前に、もっとたくさん劇場に足を運べたんじゃないだろうか。
舞台に限ったことだけじゃない。実家の犬が亡くなる前に、わたしはなぜもうすこし会いに行ってやれなかっただろう。辞めてしまった部下に、上司として仲間としてもっとできることがなかっただろうか。

生きていくためにそういう後悔を少しずつ忘れてもいい、忘れても心は覚えている。そういうふうに、わたし自身にも手をさしのべてくれた気がした。

ありがとう、見られてよかった


新ネタピュートライブ


神保町よしもと漫才劇場にて。そもそもお笑い芸人さんのライブが初めて。こういうときは郷に入っては郷に従えをとにかく愚直にやるしかない。少し早めに行って遠巻きにお客さんの様子をうかがいながら、劇場に置いてあるざぶとんを敷いたりして。しっかり傾斜があるしステージが高いのか、見やすいしすごく近い。

建物の外観がかっこいい


板橋ハウスが2021年くらいからずっと好きで、いつかライブに行きたいなあと思いながらも、舞台のスケジュールを優先にしていたら先延ばしになってしまった。
最近演劇で芸人さんのお芝居を見る機会も増えていたので、やっぱり一回くらいちゃんとライブを見に行こう! と直近のライブスケジュールを調べたら、運良くピュートのこのライブのチケットが数枚だけ残っていて、即購入した。結果として一回では終わらなかったのだけれど、それは次の項で。

ピュートと3組のゲスト(オダウエダ、ガシヒ、タレンチ)で計6本のネタ、そして最後にコーナーという構成。これが一般的なフォーマットなのかどうかはまだちょっとわからない。ネタ全部面白かったなあ。楽しかった。
YouTubeでピュートのネタをいくつか見たことがあり、演技力が高いことや、ストーリーに攻撃性が全くない感じが好みだった。なので、初めてライブを見るなら、とピュートを選んだのだけれど、彼らが主催ということもあるのか4組とも全体的にがんばらない大らかさとかやわらかさがあって、楽しく見られた。タレンチさん面白かったなー。

演技力がとにかくものすごい


めぞん×ゼロカランツーマンライブ「めぞカラン」


もともとピュートのライブだけ見て帰るつもりだったのが、劇場で奇跡的なご縁があり、急遽同日のこちらのライブも見られることになった。めぞんのことはYouTubeで知っていたし、ラッキーとしか言いようがない。
めぞんは前述の板橋ハウスきっかけで知っていたのだけれど、ゼロカランはこのライブが初めて。どちらのコンビも面白かった。冒頭で提示された食レポという謎コンセプトもなんだかんだでライブの全体的な盛り上がりにつながっていた気がする。
それぞれのコンビが漫才を2本、その合間に1人ずつ食レポがあって、後半はコーナー。やっぱり前半にネタ、後半に全員参加のコーナーという構成が基本フォーマットらしい、と、連続2公演見たおかげで理解できた。

めぞんの漫才は2本とも不適応気味な1人と比較的普通に近い1人との相互理解がベースにあって、それは本人たちのそもそもの関係性がそうなのかもしれない。意味不明な吉野の繰り広げる世界観に原の波長が合ったタイミングにはえもいわれぬ感動があった。ゼロカランも面白かったなあ。笑った。

原さん面白かったな

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