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螢煌

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自作の短歌を投稿します。
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追憶

愛されていたという過去だけあって君の気持ちはここにはいない

分け合ったその温もりや時間さえ今はもう過ぎ去った残骸

君がよく聴かせてくれたあのメロディ ふと街中でまた耳元に

脳内に1台だけのハードディスク まだ手が震え押せない削除

君はもう僕のそばにいないけれどいつになっても離れないまま

何度目の季節を投げ捨てただろう 今年も過去を抱きしめたまま
#短歌 #連作

Melancholy

繰り返す生活リズムに憂鬱のフィルタリングが外れないまま

リスタートできるものなら今いっそゲームオーバーになればいいのに

9時過ぎのピークを過ぎた小田急線 一人で向かう片瀬江ノ島

タイムライン いつも他人に嫉妬して自分だってともどかしくなる

人のこと気にしてばかりいるくせに一人になれないと嫌がるんだ

何事も好きのまんまでいたいのに何故にどうして世界は回る

イヤホンの音に集中したいのに関連

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推敲栽培

認めて見返し我に返るとき破り捨てたくなるその気持ち

たくさんの紙切れ達が山になりされど新たな紙を取り出す

何度でも恥辱を通り過ぎていきそこに新たな嬉々を見出す

喝采かはたまたそれは嘲笑かどちらにしても開かされた目

人の目に止まったまさに瞬間に独房の中に光が挿す

書き切ったそのひとしおの感動が次の筆へと僕を動かす

推敲を繰り返して続けている僕なりの作品の栽培
#短歌 #螢煌

Notification

君とあの人の会話が道すがら聞こえてしまい憂う心情

ああ僕も話したいのに君の前になるとなんだか話せないの

夜の海に潜り込むと君の声が聴こえるから印をつける

君のことを探し続け波に乗る 暗い視界はまた渦を巻く

夢の中でだけはせめて逢いたいと願い溺れる深い紺碧

夜更け過ぎになるとさえずり始めるブルーライトの蒼い鳥たち
#短歌 #螢煌

理科室

ホルムアルデヒドの芳るあの部屋で君の横顔に見惚れていた

薀蓄を含む白衣の声掛けに煮えたぎった狭い教室

喧騒に撹拌された個の声も君のものだけ残さず掬う

気づかれてしまったらどうしようなんて焦りもとうに消え失せていた

机越しだけど近付くその距離が交わった時、爆ぜた脈動

広い部屋の中で僕らだけになる その瞬間に繋がる心
#短歌 #螢煌