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【感想】読書感想文「ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0019

石川宗生 先生「うたう蜘蛛」
宮内悠介 先生「パニック ―一九六五年のSNS―」
斜線堂有紀 先生「一一六二年のlovin' life」
小川一水 先生「大江戸石廓突破仕留」
伴名練 先生「二〇〇〇一周目のジャンヌ」

以上、5名の先生による、改変歴史アンソロジー

今の歴史とは異なる歴史「ifの世界線」の体験としては、私は真っ先に「Fate/Grand Order」を思い浮かべた。
もちろん本書はFGOとは異なり、主人公たちはifの世界を正そうとはしない。
メインで描かれているのは「もしもそういう世界だったらどういうことが起きるか」「人々はその世界をどう生きているか」ということだ。
(「大江戸石廓突破仕留」では、別時代から歴史修正主義者が登場するが、それはあくまで脇役だ)

歴史に「もしも」は無いからこそ、こういう話は面白い。
特に本書のように短編で、同じテーマで、それでいて切り口の異なるアンソロジーは貴重な気がする。
ネットで感想を見ていても、好きな話がかなりバラけていた。
それだけ幅広い作品が集まっているということなのだろう。

以下、個別で短く感想を書いていく。

石川宗生 先生「うたう蜘蛛」

16世紀の錬金術師、パラケルススが登場する物語。
舞台はイタリアのナポリとその周辺で、主人公はナポリの統治を任されていた総督。
死ぬまで踊り狂う奇病「タランティズム」が発生し、それを防ぐために試行錯誤を重ねていく。

奇病を楽しんいる総督が、ラストでああなってしまうのがさもありなん。
パラケルススは聡明でかっこ良く描かれている。

宮内悠介 先生「パニック ―一九六五年のSNS―」

もしも1965年の日本にSNSがあったら、という舞台設定。
開高健について詳しくないので、イマイチのめりこめなかったが、本当にその時代にSNSがあったらそうなっていただろうというリアリティがあった。

伴名練 先生の別作品「なめらかな世界と、その敵」に収録されている「ゼロ年代の臨界点」と同じ雰囲気を感じた。

斜線堂有紀 先生「一一六二年のlovin' life」

和歌を詠む式子内親王と、それを英訳する帥がメインのお話。
アンソロジーの中で一番私の好みに合ったのが、この作品だ。
和歌を英訳する必要があったら、という設定で平安時代の歌会を描いている。
(ちなみに本文では英訳を「詠訳」と表記している。)

実際の英訳がお見事。
五七五七七のリズムではないものの、情緒がしっかりと英語でも表現されている。

式子内親王と帥、二人の関係性が歌で描写されているのも奥ゆかしくてお洒落。
「歴史のもしも」で、こんなにキュンとくるお話が読めるなんて。

和歌の英訳という意外性と、女性二人の純粋な恋愛模様が綺麗に混ざり合った素敵な一作。

小川一水 先生「大江戸石廓突破仕留」

日本が地震大国ではなかったら、という設定。
主人公の側近が、実は昔の日本の地盤に手を加えていて、日本の行く末を見守っているというお話でもある。
このアンソロジーの中ではFGOっぽさが強めに感じられるので、もしそういう作品が好きなら、まずはこのお話から読むのも良いかも。

伴名練 先生「二〇〇〇一周目のジャンヌ」

もしジャンヌ・ダルクが火刑を逃れていたら。
そんな思考実験を、シミュレータの中で本人に具現化させることができているお話。
ジャンヌ本人に何百、何千と歴史を繰り返させた果てに人類が得たものとは。
そしてジャンヌ自身の最期の決断とは。

好奇心と罪深さは表裏一体だなと思わされる作品。


是非、あなたもお気に入りを探してみてほしい。

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