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パーソンズ美術大学留学記シーズン4 Week7 #287

今週は中間発表でした。火曜日と木曜日の二日間に分けて開催され、私は木曜日に発表。一人当たりの持ち時間は30分で、前半の約15分でプレゼンテーション、残りの時間で質疑応答を行うという形式でした。

15分も英語で説明したのはこれが初めてだったかもしれません。A4用紙2ページ分の原稿を事前に用意しておいて、それをチラ見しながら発表しました。いつもは発表する時に原稿を読まないようにしているのですが、英語かつ長時間ということで久々の解禁。

発表内容の概要

以前の記事で「Zen-Inspired Ethical Guidelines for designers(デザイナー向けの禅にインスパイアされた倫理ガイドライン)」を提案しようとしていると書きました。以下でそこから追加した内容を書いておきます。

では、具体的に禅の教えから何をデザイナーに伝えればいいのでしょうか? ここでの一番の問題は、仏教の教えを伝えるのは難しいということ。New York Zen Centerで禅の修行をする人たちにインタビューをする中で学んだのは、禅を正しく教えられるのは長年の修行を積んだ僧侶だけだということです。

なので、私のように本を読んだり数か月坐禅をした程度で人様に禅の教えを説くというのは無理な話です。専門家でもないのに生半可な知識をひけらかすのは良くない。では、僧侶以外の人がどのように禅を伝えているのかというと、戒律を伝える場合があるようです。そのため、禅の教えを全て説明する代わりに、デザインにも通用しそうな戒律をピックアップして、禅に詳しくなくても伝わるように翻訳することにしました。

そこで、私が着目したのは在家向けの戒律である五戒です。「これらを破ると他人に迷惑をかけるだろうな」というのは仏教に詳しくなくても納得できるはず。

1. 不殺生戒(ふせっしょうかい)- 生き物を故意に殺してはならない。
2. 不偸盗戒(ふちゅうとうかい)- 他人のものを盗んではいけない。
3. 不邪婬戒(ふじゃいんかい)- 不道徳な性行為を行ってはならない。
4. 不妄語戒(ふもうごかい)- 嘘をついてはいけない。
5. 不飲酒戒(ふおんじゅかい)- 酒類を飲んではならない。

私がこの五戒の中で特に注目したのが不飲酒戒です。なぜなら、戒律の中で唯一他人との関係性ではないという違いがあるからです。もちろん、お酒を飲めば理性的な判断がしづらくなって他の戒律を破りやすくなるからという説明もできるでしょう。ただ、こうした他者に迷惑をかけること以上に、何か深い意味があるように感じるのです。

その一つに依存性の問題があると思っています。渇望することが苦しみの原因であると唱えた仏教や禅は科学がなかった時代にすでに、ドーパミンに踊らされる生き方は避けた方が良いと勧めていたのだと解釈できると思っています。

さて、仏教における不飲酒戒をデザインにおける指針とするならば、「中毒性のある商品をデザインしない(ドーパミンハックをしない)」ということになるでしょうか。仏教の始まった時代では依存性のあるものと言えばお酒だったかもしれませんが、今ではお酒以外にも様々あります。中毒性のある商品の方がビジネス的には儲かる商品と言えるでしょう。消費者も「欲しい」と言うので、一見するとwin-winの関係です。

一方で、仏教は「小欲知足」であることの大切さを説きます。生きていく上で必要最低限のものがあれば十分であり、それ以上の欲を追い求めても永遠に満たされることはないからです。退屈さを感じて刺激が欲しくなった時(ドーパミンが欲しくなった時)に、その退屈さを受け入れることを坐禅は教えてくれているとも解釈できます。


というわけで、私の卒業制作での学びはこちらです。

Be a devil's advocate in order not to design devil's products.
悪魔的な商品をデザインしないために悪魔の代弁者であれ。

悪魔の代弁者とは、議論を活性化させるためにあえて反対意見を述べる人を指す言葉。デザインプロセスにも「たしかにこれは売上が上がるかもしれないけれど、消費者のドーパミンをハックして中毒にしているだけなのでは?」と自己批判をする悪魔の代弁者が必要なのではないかという提案です。

ただ、私の提案は「全てのデザイナーがこうあるべきだ」と法律などで規制したいわけではありません。あくまでも自主的に賛同してくれる人がいればいいなというもの。これは禅でも同じスタンスで、戒律は他人を非難するために使うのではなく、自分を顧みるために使うものだからです。

「中毒性のある商品をデザインしない」とか「悪魔的な商品をデザインしないために悪魔の代弁者になる」という誓いを立てることがデザインが禅から学べることであり、こうした誓いを持ったデザイナーによる商品やサービスは、仏教が提唱する渇愛に囚われない生き方を助けてくれるはずです。


フィードバック

さて、こうした発表に対するフィードバックから、いくつかメモがてら書いてみます。

  • プロセスをステップに分けるなどの工夫のおかげで論理展開が分かりやすい。

  • 現役のデザイナーがどれくらい倫理を重要視しているのかを調べてもよいかも?

  • デザインプロセスのどの段階で使うことになりそうかを考えれば、既存のフレームワーク(ダブルダイヤモンドなど)に導入できる?

  • 倫理ガイドラインを遵守している商品であることを示す認証マークをつくる?

  • 坐禅などの実践を取り入れてもよいかも?

こうしたフィードバックを得られました。方向性は大丈夫そうなので、あとは具体化を進めていけばなんとかなりそうです。 


まとめ

今学期の上半期を無事乗り越えたのでまずは一安心。来週は一週間の春休みなので、この「留学記」の更新はおそらくお休みします。少し休んで、また下半期も頑張ります。

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