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最後の涼飇

「こう、夏が終わるなっていう風ってあるよね。ほら、今みたいなの」

 唐突に美月が言った。今日の気温は36度。

「何言ってんの。暑いんだけど」
「いや、暑いんだけど、そうじゃなくて。風だよ、風。風だけ秋」
「意味わかんないよ」

 美月は不服そうな顔をして、ガリガリ君をしゃくしゃくと食べる。夏の情景真っ盛りなんだけど。

「空気にさ、こう、秋の匂いが混ざるんだよ。それが風にのって、ふわっと香る。わかんないかなあ」
「抽象的すぎてわかんない」
「あとさ、虫の声とか」
「それはわかる」

 ふわっと風が吹く。あたしは一瞬目を閉じる。なんだか切ない気持ちになった。

「きっと、来年はこの風を一緒に感じられないんだね」

 美月の言葉に、ああ、と思う。来年は大学だ。幼稚園から一緒だったあたしたちは、初めてバラバラになる。大きな分岐点が目の前に見えた気がした。

「ずっと友達でいよーね!」

 そうわざとらしく言う美月に、はいはいと返す。風が吹いた。

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