見出し画像

♡今日のひと言♡谷川俊太郎


「郷愁」~二十憶光年の孤独(1952)

谷川俊太郎(1931~東京・詩人、翻訳家、絵本作家、脚本家)
1952年に「二十億光年の孤独」でデビュー。以降、詩作にとどまらず、さまざまな分野で活躍を続けている。受賞作品多数。代表作に詩集「六十二のソネット」(1953)、「落首九十九」(1972)、訳詩集「マザーグースのうた」(1975)など。

「郷愁」

その花弁は
海岸のビルの八階あたりの窓から
ピアニシモのアルペジオで僕に散りかかってきた

すべり出す明るい色の新型車
J・P・サルトルの実存主義
そして泡立つ一杯のアイスクリーム・ソオダなど――
それらのすべては沈んでゆき
ただそれこそ澄明な秋の高原だけが
ひそかに僕を抒情した

雲に近い街――
午後の海は
たちまち一枚の絵葉書である

2023.11.14
Planet Earth