わたし眠れないの。

いつ遊んでも「わたし眠ってないんだよね」という友達がいる。

彼女とは中学時代からの付き合いで、随分と長い間 友達をしている。彼女は子煩悩な父のおかげで、何不自由なく育ったのだろう、のびのびと健やかにそして自由だった。他人の事しか言わない同級生とは違い、興味のあるモノにすぐ飛びついていたから、話題も豊富でとても楽しかった。わたしはそんな彼女が好きで、気付けば長い間友達をしている。

結婚をして子育ても終わり、2人で温泉旅行にも行けるようになり、今では兄弟や家族と同じくらい大切な人になった。
そんな彼女との初めての一泊旅行での出来事だった。会うと「今日も寝てないのよー」と言うので、いつも心配していた。2人でお出かけの時は必ずわたしの運転で行くことになっていた。わたしはいつでも眠れる体質だから、彼女を労る気持ちもあって自然にそうしていた。

散々観光して、ホテルに着いた時にはもう夕食の時間で、これでもかという程飲んで食べた。寝る前に2回、温泉に浸かり、「幸せだよね〜」なんて言いながら布団に入った。

案の定わたしは気持ちよくすぐ寝入ってしまい、夜中トイレに起きた時には、まだ彼女のベッドからは携帯の光が漏れていた。眠れないというのは本当なんだなぁと思っていたら、「ググググ〜」っという音が聞こえ出した。その音が時間を増すごとに「ガガガガガガ〜!」に変わっていった。爆睡しているではないか!良かった!良かった!温泉に入って今日は眠ることができたのね〜と、ひと事ながら喜んで朝を迎えた。

まだスースー寝息を立てながら寝ている彼女を起こさないように息を潜めていたが、朝食のラストオーダー近くなっても、まったく起きる気配が無い彼女に声をかけた。
「ご飯食べないの〜?起きたら〜?」と。
すると今まで あれ程寝ていた彼女が目覚めにわたしにこう言った。「随分気持ち良さげに寝ていたよね〜こんなに気持ちよさそうに寝る人は初めて見たー。羨ましいんですけどー。わたし一睡も出来なかったんだー。」と。

…。

…?

なんですと?

あれ程のイビキをかいてましたよね?長い間待ちましたけど?あれ?あれれ?
それを言っても彼女は、一睡も出来なくてわたしの昨夜の一挙一動を説明できるよと言うのだ。

摩訶不思議。

長年 眠れない体質という彼女を心から気の毒に思い本当に心配していたのだ。でも そんなに毎日眠れなきゃ死んじゃってるよと、はたと気付くマヌケけなわたしでありました。

でも、きっと嘘ではないのだろう。寝ているのに寝ていると感じられないのは事実で、それはそれでしんどいだろうなぁと思いはしたが、でも、実際は寝ているんだからもう大丈夫。心配はいらないな。と思うのでした。

「わたし眠れないの」と言っても 爆睡している彼女はどこかひょうきんで なんだかやっぱり好きだなと確信できたいい旅でした。



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