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【物語】読み切り短編集

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読み切りの自作物語を保管しております。記事は降順でアップしております。適宜編集もしますのでご理解くだされば幸いです。
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〈数え歌〉

〈数え歌〉

  

ひとつ 昼間から

ふたつ ふたりきりで

みっつ 見つからないように

よっつ よいことを する

いつつ 偽りなき

むっつ 睦みあいは

ななつ 情けを要せぬ

やっつ 柔らかき いきもの

ここのつ 

これを読む者は

遠くにありて

己が証を問う事を禁ず

【読み切り】『街月記 B面』

【読み切り】『街月記 B面』

 

 星空が好き。

 夜。バスから降り、家路を進む私へオリオンがついてくる。

 私は星座をよく知らない。いろんな事をまだ知らない。そんな私にもオリオン座はよく分かる。残業で疲れていても、この様にふと目に飛び込むギフトが起こる。残業したからこそ眺めることができたのだ。私は、私の人生もまんざらではないのかなと励ます。

 街の灯りがぼんやりとしか星々を示さない。それでも私には嬉しい世界。月も、き

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【読み切り】『街月記 A面』

【読み切り】『街月記 A面』

 夜空が嫌いだ。

 眺めても腹は満たされやしない。月?今夜はきれいな満月?それがどうした。

 流れ星も信じない。願い事?くだらない。馬鹿じゃないのか。望みは自分で叶えるものだ。

 

 俺は夜路を駆ける。暗い住宅街は寝静まる頃。猟犬の如くハアハアと吐き出す息が響く。気管から一気に押し出す俺の吐気、リズムを保ち白く燃える。古ぼけた街灯の下でそう感じる。

 進行方向から同じくランニングする者が

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『ご近所野鳥の会が作るおいしいクッキー』

『ご近所野鳥の会が作るおいしいクッキー』

 激しい雷雨が洗い上げた空をフロントガラス越しに見た航は、目を輝かせた。

 (未完 35文字)

【詩】『七月七日』

【詩】『七月七日』

 

七夕に 雨降り続ける 宵の街

さらさらと 笹は押される 喧噪に

短冊は小声 いとをかし

わたしの内緒は 誰に請おう

五色を眺め 息を吐く

 

カササギの 黒き翼に支えられ

君に逢おう それが今

眼下に沈む 灰白の都市は

黒雲と同じ 憂いを持てど

藍玉と同じ 未来も放つ

ここは楽園 星界の原野

手を振る君の 笑顔が迎える

小鳥の為に 裸足の君へ

雪ぐ露を

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『五月十五日 金曜日 曇りのち雨』

『五月十五日 金曜日 曇りのち雨』

 ふっふっふっ。

 俺は、超悪い狸だ。

 世界征服をもくろんでいる。今日も破壊工作に勤しんだ。

 学校で悪魔せんせいに宿題をみてもらった。人間文字の勉強だ。

 せんせいに勉強の理由を尋ねたら

『人間がダメージを受けるには、破壊力満点な罵りをスタイリッシュに叫ばなければいけません。それには正しい言葉の勉強は不可欠です。それに、人間を倒した後に作成する世界征服宣言書を綺麗な字で書くと……周り

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『五月八日 金曜日 ずっと晴れ』

『五月八日 金曜日 ずっと晴れ』

 今日はとっても気持ちのよいお天気だった。

 たんぽぽや白詰草が咲く草原に、ずーっと寝転がっていた。

 シュークリームを枕に、ごろごろお昼寝をした。

 それだけ。

 そのまま、移り変わる満天の夜空も見つめた。

 クリームソーダみたいにキラキラとはじける星屑が、好きなタイミングで瞬いている。

 草の香りも好き。夜の湿った冷たい空気も好き。

 すてき すてき そういうの 大好き。

 が

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『夜想詩』

『夜想詩』

 

 君が瀬に 寄り添いたくて 夜の路

 ののはな 眠り 風そよぐ

 声なき声よ 届いておくれ

 がんばらないでと 伝えておくれ

 聞こえますか 私の祈りが

 きっと必ず その掌へ

 ただ それだけを 願います

 いつか また 逢えますように
#詩

【詩】平成27年4月15日(水) 22時36分 星空

【詩】平成27年4月15日(水) 22時36分 星空

 

 理論物理学者はハンバーグを焼きながら宇宙飛行士への詩を数式で呟く。

 「恋に近い」

 彼はそう口ずさみ、花束を抱きしめたいと心から願った様だ。

 ぼくはそれをキッチンの入り口で見つめ、しっぽをふった。

 ハンバーグの匂いも、彼の笑顔の香りも好きなんだ。花の香りがするんだよ。

 ほんとうに、大好き。

『桜のダンス~present from you~』

『桜のダンス~present from you~』

 

「おじいちゃんからは『仲良くしたい時は桜の下で食事会をする』と、教わったんだ」

 とある平地に佇むは異形の三匹。季節は春、天候は雨。

 降り落ちる雫に濡れる暗い中、三匹の目の前には一本の大きな桜。花は見頃の八部咲きを迎えようとしていた。

「どうやら、儂等だけの様じゃな」参加者のひとり、漆黒の兎ヴァッファが言う。武士である彼は泰然として、神秘的な桜を見つめる。

「人間は雨だと、巣に引っ

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【読み切り】こいのうた 2

【読み切り】こいのうた 2

「あ、あのっ」

 桜が静かに舞い散る月夜の庭園にて、百瀬は清月へ固い表情を向ける。

 その無垢な瞳に涙が浮かびそうなので、清月は次の言動を穏やかに待つことにした。

「ごめんなさい」

 花山吹の襲に、白い花を黒髪に飾る少女は俯く。

「実は。あの返歌は、わたくしのものではありません……。今宵はとても嬉しい。ですが、才子と謳われる清月様に……わたくしの様な者がふさわしいなど、思えなくて……」

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【読み切り】こいのうた 1

【読み切り】こいのうた 1

 うららかな春の陽射しを楽しみながら、十二単姿の若い女性等が庭に集い、小鳥の様にさざめき合っている。

「まあ、清月の君からLINEで歌が……!」

「百瀬、それは!恋のお誘いよ!」

「えええええ。どうしましょう……」端末を抱きしめ狼狽える最年少の百瀬。まだ歌詠みが下手なのだ。

 先輩達へ困り果てた赤ら顔を見せる彼女へ、面倒見の良い菊央が胸をドンと叩いて名のりをあげた。

「返歌は私に任せなさ

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【読み切り】ふたりの会話

【読み切り】ふたりの会話

「あさってはエイプリルフールだな」

「よぉし♪じゃあ、あさっては嘘をたくさんつくよ♪」

「へぇ。どんな?」

「鈴原なんか、だいっきらい!だ!とか」

「今なら俺に、何て言うの?」

「え!?やだな、冗談だよぉ」

「ふ~ん。ねぇ、何を冗談にしたの?」

「!!……っ」

「そうか、言えないの?」

「何よ~、じゃあ鈴原なら私に、何て言うの!?」

「好きだよ」

「ええ

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『乱文的な詩の形態を試みる幼字のブランコ』

『乱文的な詩の形態を試みる幼字のブランコ』

 

 「大人にもバカや弱虫がいる アイツの事さ」

 そんなふうに 項垂れた童の話を真剣に聴いて

 世界の構図を示してくれる子が 居てくれたら よかったな

 真実は 説教の波間 事実のひかりに かくれんぼ

 みえているものが みえていなかった

 先週の事だ

 目の前に座す十歳へ わたしは三十年かけて学んだことを話した

 これで借りは 返せただろうか

 かみさまは いつも いつもだ

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