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知らない人の荷物が届いた。

ある日帰宅すると、ドアの前に小さな段ボールが置いてあった。置き配というやつである。何も頼んでいないはずだが?と宛名を確認すると、住所は確かにこのアパートで部屋番号も私の部屋。

しかし名前は全く知らない人。

さて困った。とりあえず、置きっぱなしには出来ないので荷物を抱えて中へ入り、パソコンを起動し、ネットに繋ぐ。同時に、この部屋の管理会社に電話してみた。
「すみません、知らない人の荷物がウチに届いているんですが…もしかしたら前の住人か、他の部屋の人のかもしれないですけれど、お名前とか全く知らないので…」

管理会社の人は丁寧に応対してくれたが、恐らくプライバシーの問題で、その名前に心当たりがあるか否かについては一切答えてくれなかった。また、荷物の紛失に繋がる恐れがあるため、管理会社の方に持ち込んだり引き取ることもできないという。
「送り主様(ニヤリマークで有名な)にお問合せいただくのがよろしいかと思います」
というので、そちらの番号をネットで調べてみる。ちなみに荷物の送り状には伝票番号と、注文主の情報(名前と携帯番号)が書いてあったが、直接電話するのは怖いので、もちろんかけない。

送り主のカスタマーサービスページに辿り着く。電話番号を探す前にチャット機能が出てきたので、『別の人の荷物が置き配されていました』と簡単にメッセージを打ってみた。
返事はすぐ来た。
『了解しました。お使いの端末とOSを教えていただけますか?』
お、おーえす?とは、なんぞや?
別の窓を開いてネット検索するが「ОSとはオペレーティングシステム」という回答では、アナログ人間意味不明である。
『すみません、機械に疎く意味がわからないのですが何をお答えすれば良いですか?』と馬鹿正直に弁明すると、
『了解しました。何かエラーが表示されていれば、そちらを教えていただけますか?』

いやだから、違うんだってば。

『すみません、私のパソコンの不調ではなく、誤配されている荷物を引き取りに来ていただきたいだけです。お電話での問い合わせはできますか?』
とさらに馬鹿丁寧に送ると、こんな怖い返事が来た。

『次のページで初回わずか500円でご利用いただける定額会員への加入手続きをお済ませください。その間にパソコンの専門家を手配します』

すぐにチャットを打ち切った。
後日わかったことだけれど、この時私がアクセスしたのは目的の某有名企業の公式サイトではなく、それに関連した問い合わせに答えられるとうたっている無関係な質問サイトだった。日本人女性のオペレーターの名前と顔写真がチャットには出ていたが、とんちんかんな返答からしてAIか、外国人だろう。
怖いいいいいい。



気を取り直して、今度こそ某企業の電話番号を調べる。念のため、その番号をさらにネット検索にかけ、本物かどうか確かめた。のほほんとは生きづらい世の中になったものよ…。
今度こそ本物の人間の声が出てほっとした。事情を話し、荷物に記載された伝票番号を告げると「少々お待ちくださいませ」と保留になった。

長い、長い保留だった。

けれど私はまったくイライラしなかった。先ほどの意味不明な展開と違い、場面がありありと想像できたからだ。
(たぶん、彼女は上司に対応の相談に行ったな…。そして上司は今、席を外していて姿が見えず、保留にしたままの電話を気にしつつ係長(←勝手な私の配役)を探して、ナースサンダルをペタペタ言わせて会社の廊下を小走りしているに違いない…。)

何事も経験とはこんな場面でもそうである。自分も、仕事場の問い合わせでお客様を待たせてしまった経験が多々ある。平和な時にはずっと居るのに困った時には席に居ない。それが上司だ。
女性が電話口に戻って来た。

「大変お待たせ致しました。たしかに、そちらのお荷物のお取り扱い記録が確認できました。ただ、おそらく運送会社様の方で送り間違いをされたようです。○○運送会社様です。恐れ入りますが、そちらにお問合せいただいてもよろしいでしょうか」

というわけで、三度ネット検索。しかしその運送会社の営業所は、直通電話がないらしい。手元の伝票にはドライバーの電話番号等は一切記載されておらず、唯一の問い合わせ先であるサービスセンターに掛けると音声案内で「スマートフォンで操作に従いお荷物情報を送って下さい」とメッセージ。

私スマホじゃないいいいいい。

「もー嫌っ!」ここで私の辛抱も切れた。なぜに無関係な人の荷物にここまで時間と手間をかけねばならぬのか。そしてふと、運送会社の最寄の営業所の住所を調べた。答えてくれる電話が無いなら、いっそ直接持ち込んでしまおう!

チャリの前かごに見知らぬ人の荷物を入れ、営業所へ向かう。「すみませ~ん」と中に入ってゆくと、窓口には生身の人間がちゃんといた。それもふたりも。
ここまでの経緯をかいつまんで説明すると、
「大変失礼いたしました。わざわざお持ちいただきありがとうございます」と感謝され、件の段ボールをあっさりと引き取ってくれた。
やれやれ。

前かごが空になったチャリをこいで、来た道をUターン。どっと疲れた自分を労うために、スタバへ寄ってアパートに帰った。





今週もお読みいただきありがとうございました。世の中、便利になると複雑さも増しますが、やっぱり電話って最強だなあと思いました。直接顔見て話す、はさらにですが…。
企業の偉い人、消費者の窓口であるカスタマーサービスに従事される方をどうぞ労い大事にしてあげてください…。

◆次回予告◆
新作4コマ漫画

それではまた、次の月曜に。


*これは私が「モノを失くした側」のお話↓


*宇佐江みつこの日常は平穏、時々、ミステリー。↓










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