2日目*一夜たって現実と向き合う

ぐっすり眠っていると、名前を呼ばれた。
うっすら目を開けると、若いけれどもベテラン風の看護師さんがこちらを見ていた。
「お名前言えますか?」
私が名乗ると、「起こしちゃってごめんなさい。眠れましたか?」と尋ねられた。
「あ、はい、とてもよく眠れました。」と、救急で運ばれた患者とは思えないような返事をした。まあ、救急で運ばれた患者さんが何て答えるのか聞いたことないのだけれども。
「良かったです。私は今日担当します、山下です。手足しびれたりとか、頭痛かったりとか、ないですか?」
実を言うとその日は生理2日目で、お腹が痛かった。私は、「生理痛だと思うんですけど、ちょっとお腹が痛いです」と伝えた。
「お薬飲みますか?」
と、山下さんは聞いてくれたが私は、うーん?と考え、「いや、まだいいです。」と答えた。
「また何かあったら教えてくださいね。」
と言い残し、山下さんは部屋を出た。

「失礼します」

山下さんが出て行ってすぐに、白衣を着た白髪のDr.と、看護師さん、あとは何者かわからない人、合わせて4人ぐらいが部屋に入ってきた。

「よく眠れましたか」
「え、あ、はあ、まあ。」私は何が起きているのかわからず、山下さんにされたのと同じ問いかけだったのに先程とはうってかわって歯切れの悪い返事をした。
「そうですか、それは良かった。何かあったら言ってくださいね」とだけ言って御一行様は部屋を出た。
えーっと、、誰?何しにきたの?というのが私の率直な感想で、病院嫌いな私はそれだけで病院怖い、という気持ちが増してしまった。

今日は検査がある。
脚の付け根からカテーテル入れるって言ってたな、怖いな。痛いのかな。麻酔するからその時はちょっと痛いけど、それからは大丈夫って聞いたけど麻酔ちゃんと効くのかな?怖いな。

検査を頑張ったって、試験は受けられない。
集中治療室にいるのでスマホを持ち込めず、色んな機械が私をベッドに固定しているので1人でトイレに行くこともできない。

悲しい。

彼に会いたい。友だちに会いたい。外に出たい。自由になりたい。
いつまでこんな生活が続くんだろう、ひとりぼっちって寂しいんだな、悲しい。なんでこんなことになっちゃったんだろう。悲しい。
なんで私なんだろう。
勉強、結構頑張ってたよね?周りの人のことも、自分なりに大切にしてるつもりだった。
何がいけなかったんだろう。
寝不足じゃなかったもん。食べ物の好き嫌いが多いから?運動不足だったから?
なんで?こんなに元気なのになんで自由に動いちゃいけないの?トイレ絶対1人で行けるのに。
私、死ぬのかな?私の病気って死ぬの?生きてたとして、この先大丈夫なのかな?仕事できるの?脳を使う仕事、続けられる?
ああ、でも、ここでどんなに苦しんでいても、どんなに色々なことを我慢していても、どんなに頑張っても、もう試験は受けられない。試験は、受けられないんだ。

寂しさや悔しさ、とにかく色んな気持ちが混ざって、その気持ちが行ったり来たりして、とうとう抱えきれなくなって、私は朝から泣いた。布団にくるまって、声が外に漏れないように必死に抑えながら、思いきり泣いた。
時間があるのに、安静にするしか出来ることがないので、嫌でも現実と向き合うしかなかったのだ。
そして、試験を受けられないこと、自由がないこと、先が見えないこと、絶望に近い気持ちを抱くのには十分だった。

泣いたって、何かを悔やんだって、絶望したって、どうにもならないことはよくわかっていた。
誰かが、何かが悪いわけでもない。

しかしその時の私は、まるで悲劇のヒロインを演じるかのように自分や現状を嘆き、責めた。一方で罪悪感や得体の知れない不安に飲み込まれ、その複雑な世界の中で、ただただ泣き続けた。



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