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ご指名

地下鉄の車両の、真ん中あたりの席に腰掛けたとき、私をめがけてやってくるおじさんがいた。
「すみません、この電車、初台に行きますか?」と彼は言った。
「初台に行くなら、反対側の電車ですね」と私はこたえた。

まるで、それが私の役目であるかのように、自然に展開したこの会話。しかしながら、振り返ってみると、なぜ私だったのか?ということが気になる。

その車両には、私が座っている側に3人くらい、向かい側に4人くらいの乗客がいた。
ドアに近い席の人に聞けばよさそうなものの、初台に行きたかったその彼は、真ん中の席に座っていた私をストレートにめがけてきたのだった。

思えば、私は見知らぬ人によく話しかけられる。道を聞かれたり、乗り換えを聞かれたり。

ときには、あなたが履いているスカートはどこで売ってるの?とか、あなた、そのバッグどこで買ったの?ということでも声をかけらたこともある。
そんなに目につくようなアイテムでもなければ、レアなものでもない。ましてやブランドものでもない、ふつーの服装をしているときにである。

もっと嘘のような話になると、ワゴンにつまれたセールのおりたたみ傘を選んでいたときに、「あなたこれ、さしてみてくれない?」と見知らぬご婦人に言われてさしてみたところ、「あら!あなたそのピンク似合うわよ。それにしたら?私は紫にするわね」といって去られたこともある。

noteには、度々書いているが、私は幼き頃の弟に子分扱いされ、現在は保育園児の姪に子分扱いされ、犬にはナメられ続けてきた人生であるから、「この人にはどうやっても勝てそうだ」と人々に思わせるオーラが出ているのではないだろうか。  

あのおじさんにとって、あの車両の中では私がダントツ「負ける気がしない」人に見えたのであろう。

圧がある人を目指しているわけでもないから、警戒されないことは別にいいのだけれども、困ったことは、私が重度の方向音痴ということである。

方向音痴じゃない人にはわかってもらえないかもしれないが、方向音痴というのは電車の乗り換えにおいても発揮されてしまうのである。
電車で一度たどり着けた駅でも、順調に帰れるとはかぎらない。

初台行きかを聞かれた日、私は初めていく場所に向かっていた。しかも、初めて降り立つ駅でもあるというデンジャラスな条件つきだ。
駅から徒歩9分というその場所に行くために、私は目的の時間の1時間前に駅につくように、初台とは反対方向の電車に乗ったのだった。

駅の最寄りの出口を出てみるとそこは、交差点だった。さて、4方向のうち、どちらへ進めばいいか、それが問題だ。Googleマップを見ながら、一か八かでなんとなくそれっぽい方向に歩きだす。

が、ハズレ!!

しかし、一度歩き出しさえすれば、向かうべき方向が判明するので、交差点というのは比較的、難易度低めなのである。助かった。

今回は、行き先までのルートが直角の繰り返しだったのでわりとスムーズで、現地にたどりついたのは予定の時間の50分前くらいだった。
さすがに早い。

見たところ、近所にお茶どころがあまりない。Googleで調べると歩いて10分くらいのところにはあるようだったが、せっかく辿り着いたその場所から10分も離れるなんてことをすれば、迷って時間までに戻れないなんてことにもなりうる。

そんなリスクは犯せないと判断した私は、来た道を戻り、もうほとんど駅に着くかという位置のセブンイレブンでコーヒーを飲みながら時間を潰したのだった。イートインスペースがあるセブンイレブンで助かった。

このように重度な方向音痴の私だから、これまで私が道案内をした人々が、正しく目的地にたどり着けた保証はない。道に迷える人々は、どうか、もっと確かな方向感覚を持ち合わせた人に声をかけてほしい。

私から怖くない人オーラが出てるのはわかったから、誰か、方向音痴オーラの出し方教えてください!


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