コナンレビュー

05月12日-名探偵コナン第901話「妃弁護士SOS(前編)」-頭もフィジカルも冴える英理

「ツッコミと法律で楽しむコナン・アニメレビュー」第2弾。今回はコナンの推理の厳密性やスピード感について、僭越ながらツッコミを入れます。また、英理が少しでも長く犯人から隠れる戦略を提示します。

1.放送概要

放送日時:2018年05月12日(土)18:00~18:30

原作:あり(名探偵コナン93巻)

登場したレギュラー人物:コナン・小五郎・蘭・妃英理・高木刑事

見逃し配信:https://www.ytv.co.jp/mydo/conan/

あらすじ:番組ホームページより引用

蘭のスマホに妃英理からメッセージアプリで連絡がくる。内容は「悪い奴らに捕まっている」というものだった。このアプリには英理が2人いて、もう1人からは「ウソウソ!冗談よ!」というメッセージが届く。蘭たちはどちらが本物か混乱する。2時間前、英理は男3人組に拉致されて廃ビルに連れていかれる。英理は男の1人からスマホを奪って逃げ、ロッカーの中から蘭に助けを求めたのだ。コナンたちは英理を探し出そうとするが…

さらに詳しいあらすじ:公式サイト参照

2.中年ツンデレカップル- 小五郎×英理にニヤニヤ

現在は別居中の小五郎と英理。ただしお互いへの愛情は何だかんだで続いているようで、英理の登場回では2人の絆がうかがわれるシーンもしばしば。今回も蘭に誘われたとはいえ、4人で映画を観に行こうと約束。小五郎のツンツンモードと英理の照れっぷりにニヤけさせられました。

が、しかし蘭のガラケーに英理からのSOSメッセージが。事件の幕開けです。

3.事件概要

犯人グループ:顔を隠した3人の男

被害者:英理・栗山緑(英理の秘書)

犯行内容:(1)スタンガンによる被害者2人への暴行(傷害罪,刑法204条)(2)英理をスーツケースに押し込める(逮捕・監禁罪,刑法220条)

(3)英理のスマホを奪う(強盗罪,236条もしくは窃盗罪,235条)

その他、住居等侵入罪(130条)の成立可能性もあります。

4.ツッコミ①- 英理からのSOSが真実であることは瞬時に判断可能

今回コナンは、英理からのメッセージの読点が全て「,(カンマ)」となっていることに気付きます。カンマは横書きの法律文書の読点として特徴的に使われます。英理は弁護士であるため、その文章の癖が普通の文章を書く際にも出ている、とコナンは言います。こうした推理の結論として、コナンは①SOSメッセージを送っているのは英理自身である ②英理がさらわれているというのは事実である、という2つの判断をしているようです。

しかし、この推理は厳密には誤りではないかと私は思います。英理がSOSメッセージにカンマをつけているのは、癖などではなく意図的なものでしょう。緊急時のメッセージに読点を打つこと自体が不自然ですし、普段法律文書はPCで作成しているはずで、スマホ、それも他人の端末を利用しているときにそうした文字入力の癖が出るとは考えづらいからです。その後の英理の独白のシーンをみても、やはり意図的にカンマを用いていたことが伺われます。こうした推理の誤差は、上記の①、②の判断には影響しませんが、後述する最善策を取るにあたっては重要な判断要素となるものでした。

実は今回、英理の最初のメッセージとその後の犯人による「ウソウソ!冗談よ!」とのメッセージが送られてきた時点で、上記の①と②の判断は両方ほぼ可能だったのです。

時系列で見ていきましょう。

まず、蘭のガラケーに英理の名前でメッセージアプリの友達申請が送られてきます。2人は既に友達登録済みだったため、蘭は訝しみますが、コナンは「秘書の栗山さんがふざけてるのかも」と言います。ここでのコナンの推測もちょっと変ですよね。普通同様のシチュエーションなら、「スマホの機種変更をして、アプリを登録し直したのかな」と思う人が多いのではないでしょうか。仮に秘書の栗山がふざけて英理を騙っていたとして、その後のSOSメッセージはどう説明できるでしょう。イタズラでそのようなことをする理由はありません。この時点で事態の犯罪性の確信がかなり高くなります。そして決定的なのは、もともとグループチャットに参加していた(もう一人の)英理が「ウソウソ!冗談よ!」とのメッセージを送信してきたことです。新しいほうの英理アカウントと元々の英理アカウントはアイコンが異なるため、少なくとも2つの端末からメッセージが送られてきていることが確定します。そして、元々グループチャットに参加していた英理のアカウントは本人のものであるため、誰かが英理のスマホを奪っているのでない限り、「ウソウソ!」のメッセージも本人からのものとなります。しかしその場合、英理本人には第三者が自分の名前を騙って蘭と話している状況が見えていますから、「ウソウソ」のような冗談めかしたメッセージではなく、もっと切迫や困惑のみられる内容の連絡が個人間チャットのほうで送られてくるはずなのです。

ここまでを総括すれば、あり得る可能性は次の2つのみです。

(1)英理が2台目のスマホを購入し、2つの端末から蘭にイタズラを仕掛けている

(2)英理のスマホが何者かに奪われており、英理は他人のスマホを使用してSOSを訴えている

そして、次の理由により(1)の可能性も消滅します。

英理は最初のメッセージで「警察に連絡してくれる?」と言っています。前回のレビューでも触れましたが、虚偽の犯罪について通報することは軽犯罪法違反(虚偽申告等罪)または偽計業務妨害罪(刑法233条)にあたる可能性があります(他人に通報させた場合は、当然通報させた側が罪となる)。英理は弁護士です。こうした法的リスクのあるイタズラをわざわざ仕掛けるはずがないのです。

以上の判断により、英理が何者かにさらわれているという事実に一瞬で辿り着くことができるのです。

5.ツッコミ②英理の安全のための最善策は他にある

今回、コナンたちはあえて犯人と英理の両者が入っているグループチャットでのやりとりを続けています。蘭は英理と犯人のアカウントの区別がついていないフリをし、同時に英理に対してはこの区別がついていることを暗に伝えています(カンマの使用)。そしてコナンは続けて、「東都タワーや都庁の庁舎とかが見えない?」とメッセージを送ります。犯人らにカマをかけて居場所のヒントを得ようという意図でした。これに対し犯人らが「都庁のビルは見えるが東都タワーは見えない」と返答したことにより、コナンらはその逆を取って「東都タワーの見える場所」が現場であると判断します。

ここまでをみると、コナンらの作戦がかなり奏功しているように思えます。しかし、この作戦は実際かなり失敗スレスレをいっていたのではないでしょうか。そもそも、小五郎の言うように個人チャットを使って英理本人しか知りえない情報の確認をすれば、アカウントの判別は可能でした。そしてそのような簡単なことに犯人側が気付いてもおかしくはありません。犯人側からの視点として、英理本人とコナンらは既に個人チャットで別にやりとりをしており、グループチャットでは混乱を装って自分たちを罠にかけようとしている、というような推測も十分できるのです。もしこうした推測がはたらいてしまえば、上記の居場所を聞く質問に対しては裏の裏をかいて本当のことを答え、コナンたちを欺き返すことも可能性としてはありえました。犯人側でどの程度の推測が働いているかをコナンらは知ることができない以上、東都タワーを軸とした現場探索はどこまでいっても不確かなものとなるのです。

【英理が見つかるまでの時間を稼ぐ最善策】

英理が犯人に見つかってしまう寸前で前編は終わりを迎えます。廃ビルという限られた空間の中で、英理が見つかるまでの時間を少しでも長くする方法にはどんなものがあるでしょうか。そしてコナンらはそれをどうサポートすることができたでしょうか。

こうしたクローズドな空間での隠れ戦術として1つ考えられるのは、探す側が一度探した場所にうまく隠れこみ、時間を稼ぐことです。ロッカーやタンス、段ボールの山といった環境の中で、犯人側が念入りに探索を行った場所に死角を作りうまいタイミングで隠れこめば、犯人がそこを再び探すまでかなりの時間が稼げるでしょう。しかし、これを行うためには現在の隠れ場所からジャストのタイミングで一度出なければなりません。また、犯人が数人で散発的な探索を行う場合、一度探した場所がすぐまた探られる危険性もあります。

そこで、もっと確実に時間を稼ぐ方法があります。それは、犯人も見ているグループチャットをあえて利用して、誤った居場所を犯人に伝える方法です。まず、コナンらが英理に居場所を尋ねる質問をします(これは放送と同じ)。それに対し、英理がコナンらに居場所を伝えようとしているフリをして、誤った情報を流すのです。

たとえば、

「建物は何階建てかわからないけれど,連れてこられた階にずっといる」

「窓から夕陽が差し込んでいる」

「部屋には段ボールと書類があるから、何かの事務所かな?」

といったウソの発信をするのです。もちろん英理が現在隠れている部屋とは異なる部屋や場所の状況をうまく表す必要があります。そうすることによって、犯人らは英理の居場所情報を得られたと思い込み、まっさきに状況の合致する部屋へと探しに行くでしょう。こうした心理的なトラップに犯人らが気付かない限り、彼らは見当違いの場所を探し続けることになるのです。

ただしこのトラップは慎重に行わなければバレます。グループチャットでの英理の居場所情報が、コナンらに場所を伝えるための切実なものであると犯人らに思い込ませる必要があります。そのためにも、コナンたちの側でうまい問いかけを先に投げてあげる必要があります。

「場所がわからなくても、周りの状況を教えて!」

「太陽の位置で方角がわからない?」

など文脈を作ってあげれば、英理も自然に答えることができ、怪しまれる危険性が減ります。こうした連携プレーを成立させるためにも、やはり小五郎の言うように個人チャットでのやりとりを別に行うべきでした。

6.まとめ

いろいろとツッコミを入れましたが、あれだけの情報からだいたいの居場所を割り出してしまうコナンの冷静さと頭の良さはさすがですよね。また、小五郎が本気で英理を心配していることが節々から伝わってきて、ほっこりさせられました。

今回、法律面でのレビューが少なくなってしまいました。犯人がスタンガンを当てて英理を気絶させた後、取り落としたスマホを奪ったのは強盗なのか、それとも窃盗(もしくは占有離脱物横領)なのか。犯人の当初の計画にもよるのでしょうが、考えがいのある法的論点ですよね(今回は割愛します)。

次回は後編! コナンも蘭もおっちゃんも頑張れ!!

次回:第902話「妃弁護士SOS(後編)」http://www.ytv.co.jp/conan/trailer/
Next Conan's Hint「蟹とメカジキ」

次回(第902話)のレビューはこちら↓


前回(第900話)のレビューはこちら ↓

05月05日-名探偵コナン第900話「密室の謎解きショウ」-どんでん返しからの小五郎のピンチ

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