コナンレビュー

05月05日-名探偵コナン第900話「密室の謎解きショウ」-どんでん返しからの小五郎のピンチ

「ツッコミと法律で楽しむコナン・アニメレビュー」第1弾。コナンのミステリー要素やアクション要素も楽しみつつ、ちょっと変わった観点からストーリーを考察します。アニメは見逃し配信もありますので、是非ご覧ください。

1.放送概要

放送日時:05月05日(土)18:00~18:30

原作:なし(アニメ・オリジナル)

登場したレギュラー人物:コナン・小五郎

あらすじ:番組ホームページより引用

廃研究所に小五郎、コナン、不動産屋社長の東、秘書の河西、事務員の末子が集まる。東は殺害予告をされ、犯人を見つけて欲しいと小五郎に依頼。廃研究所には東に恨みを持つ会社員の山南、自動車修理工の北尾、ウエイトレスの加奈も呼び出されていた。小五郎は調査内容を東に報告し、東を襲った犯人を特定する。だが、コナンは推理に間違いがあるため、小五郎に向けて麻酔銃を発射。コナンは眠りの小五郎として事件の真相に迫るが…

見逃し配信:GYAO

2.事件のおさらい

今回は、アニメ冒頭からいきなり小五郎の推理パートが始まります。タイトルの「密室」は小五郎の推理ショーの現場である廃研究所の状態を指していたのですね。でも、なぜわざわざこんな場所で推理を? それは後でわかります。

依頼人は不動産会社社長の東。何者かに殺害予告をされたといい、小五郎に相談していました。あらかじめ犯人の可能性がある3人をリストアップし、小五郎が調査。その3人は全員、東に恨みを持っていました。

しかし、相談の翌日に事態が一変。東が駐車場で目出し帽の人物に刃物で切り付けられたというのです。東は業務上の違法行為の摘発を恐れ、警察に通報はしませんでした。

小五郎とコナンは現場近くのコンビニの監視カメラを調べ、東の秘書である河西が目出し帽を持っている映像を見つけます。

【小五郎の推理】

犯人:河西(東の秘書)

動機:河西は、娘の一流企業就職が決まったばかりだった。一方、河西は社長である東に命令され、違法な業務行為を重ねていた。それが露見して娘の就職内定が取り消されることを恐れ、東を葬ろうとした。

証拠・手がかり:監視カメラの映像

小五郎の推理はここまで。推理が不十分だと考えたコナンが麻酔銃を発射!

【コナンの推理】

真犯人:山南

犯行内容:河西を脅して東を襲うよう命令した(東らが小五郎に調査依頼をした後)。脅しの材料は重ねてきた悪事(違法行為)の告発。違法行為が明るみになれば娘の就職内定もパーになると脅した。

証拠・手がかり:河西と同じボールペンを山南が所持。河西を脅した際に拾ったと推測。

ここまでコナンが推理を話した時点で河西が自白。山南もそれを見て激高し、言い逃れができなくなりました。

3.どんでん返し

真犯人の山南がおもむろに上着を脱ぎ、体にくくりつけた爆弾を開陳! 「最後の手段だ」と宣言。

と、ここで容疑者や依頼人東を含めた一同がどっと笑います。なんと、ここまでの一連の事件や依頼はドッキリだったというのです。「でたらめな依頼についての推理をしてもらい、最後に犯人が自爆しようとしたら名探偵がどんな反応をするかみようとした」とのこと。東や容疑者らは全員劇団員で、テレビ局従業員の弔加奈が仕掛け人だったというのです。小五郎は眠っているので当然反応しません。コナンも呆れ笑い。しかし、ここまででまだ30分の放送時間の半分までしか過ぎておらず、まだ何かある、との予感を視聴者に抱かせます。

4.真・真犯人の登場

突然、仕掛け人の弔加奈が銃を取り出し、小五郎に向けます。「探偵を処刑する」と。その場は密室状態である上に、山南の体にくくりつけられた爆弾が本物であることが分かり、パニックに。

しかも、コナンのキック力増強シューズはメンテナンス中で使えず。小五郎最大のピンチが訪れます。

コナンはかなり焦りながらも、時間を稼ぎながら反撃の機会を伺い、最終的に弔加奈を制圧します。

ここからはいよいよ、ストーリーのツッコミポイントをみていきます。

5.ツッコミ①-仮に全部ドッキリだったとしても犯罪スレスレ

今回、結局は弔加奈という女によって本物の事件となりましたが、もし純然たるドッキリだったとしたら何も問題はなかったのでしょうか。答えはノーです。

(1)法的問題

今回、東らは殺害予告を受けたと小五郎に相談しています。これが本当であれば脅迫罪にあたる犯罪になります。さらに、駐車場で東が切り付けられたのは殺人未遂罪。もし、これらの事実を小五郎が警察に通報していたら、それは嘘の通報になってしまいます。存在しない犯罪事実を警察に通報することは、軽犯罪法違反(虚偽申告等罪)または偽計業務妨害罪(刑法233条)にあたる可能性があります。小五郎自身は、虚偽であることを知らなかったため、もし通報していても罪に問われることはありません。しかし、このドッキリ企画を行った劇団員らやテレビ局従業員は、これらの罪に問われる可能性があったのです(共犯)。

現実世界のテレビのドッキリ企画でも、犯罪系のドッキリの場合には、ターゲットが110番通報してしまうと軽犯罪法違反になるため、その前にネタばらしするようになっています(参考)。

(2)ドッキリ企画の倫理的ジレンマ

ドッキリ企画の一番のジレンマは、仕掛けられる側のターゲットにドッキリの事前同意をとれないことです。事前に伝えることで成り立たなくなってしまう、というジレンマは、医療の世界における偽薬を用いた臨床試験・治療の倫理的ジレンマ(プラセボ・ジレンマ)とも類似しています(参考)。芸能人をターゲットにしたものであれば、突然ドッキリを仕掛けられることも仕事の範疇、と考えられなくもないでしょう。しかし、小五郎のような一般人(有名人ですが...)は違います。そもそもテレビ局側に対して、撮影を含めたいっさいの同意をしていません。さらに今回は探偵業務の一環として、虚偽の犯罪の調査にあたっているのです。はっきり言ってドッキリを仕掛ける側の背信性はかなり高いのではないでしょうか。真・真犯人の弔加奈は問題外としても、ドッキリ企画に協力していた他の劇団員らの倫理観は問われるべきでしょう。

6.ツッコミ②-父親の違法行為がバレたら内定取消し?

今回、河西が山南に脅された材料として、娘の就職内定がありました。父親である河西の違法行為が明るみになることで、娘の内定が取り消されることを恐れたというのです。小五郎も、「もし違法行為がバレたら娘さんの就職は当然パー」と言っています。これは本当でしょうか。答えはノーです。

企業の内定通知は、法的には「始期付解約権留保付の雇用契約」にあたります。簡単に言えば、雇用契約の承諾ということです(参考)。もし内定が取り消されるとなると、本人の不利益は非常に大きなものになります。そのため法律では、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない内定取消しは無効としているのです(労働契約法第16条)。

では、今回のように親の違法行為が明るみになった場合、その娘の内定を取消すことは認められるのでしょうか。

多くの企業では、内定通知に沿えて内定が取消しになる条件を本人に伝えています。代表的な取消し条件は以下のようなものです。

・予定どおり卒業できなかったなど、契約の前提が満たされない場合
・履歴書等の提出書類に重要な経歴詐称が発覚した場合

・内定者の健康状態が悪化し、働くことが困難になった場合

逆に言えば、これらと同等の理由でなければ内定取消しは認められないということです。そして、ご覧の通り上記の取消し条件は全て内定者本人に関するものなのです。本人の就職内定なのですから、本人の事情のみに左右されるべきなのは当然といえば当然です。結論として、親の違法行為が発覚したからと言って娘の内定が取り消されるなどということは認められず、そのような脅しに屈してしまう必然性も本来なかったのです。

今回は元々の事件自体がドッキリだったので、この辺の厳密性はパスできるのかもしれませんね。

7.ツッコミ③-爆弾男はなぜ犯人から遠ざかろうとするのか

男にくくりつけられた爆弾が本物であると発覚したあとも、なぜか劇団員らはみんなで団子になって行動し、しかも銃を持った犯人から遠ざかろうとします。しかし、被害を最小限にするためにはもっと最善の行動があったのではないでしょうか。

・爆弾男のみ部屋の隅に移動し、他の者は離れる

・爆弾男が犯人の背後に移動し、起爆できなくする

確かに犯人は銃を持っていますので、命令されればそれに従うほかありません。しかし、コナンがせっかく時間稼ぎに奮闘していたのですから、大人たちも何らかのアクションをみせてほしかったですね。


8.まとめ

今回は30分アニメの中で二度もどんでん返しがあり、ある意味異色の回でした。推理の手がかりも少なく、コナンの推理自体も、ディテールはかなり推測に頼ったものとなっています。

ストーリーのメインはむしろ小五郎のピンチとコナンの奮闘でした。

来週は、ミステリー色濃いめのストーリーに期待します!!

次回:第901話「妃弁護士SOS(前編)」
Next Conan's Hint「トマトジュース」

05月12日-名探偵コナン第901話「妃弁護士SOS(前編)」-頭もフィジカルも冴える英理

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?