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ワークショップのはじめに「日常の経験を思い出す」と、学びが深まる

ワークショップでは、目的を説明して自己紹介をする「イントロ」の活動があります。これはよく知られていることです。

そのあとから対話を始めたり、アイデア出しを始めたりして、メインの活動をはじめることが多いのですが、実はその前にやっておくべき活動があるのです。あまりよく知られていないようで、ぼく自身も最近やっと意味がわかったので、メモ的に共有しておきます。

イントロの後、そしてメインワークの前にやっておくべき活動が「経験の内省」です。

まずはじめに日常を思い出すこと

いきなりむずかしいワードが出ましたが、平たく言い換えると「経験の内省」とは「日常の経験を思い出すこと」です。

具体的にはそのワークショップのテーマについて、日常生活で経験したことを思い出し、共有する活動をします。

たとえば、スープを作るワークショップをするとしましょう。

「スープって、いつもどうやってつくってる?」とか「スープで失敗した経験はある?」など、いくつかの問いを立てて参加者に話し合ってもらいます。

そうすると、スープにまつわるさまざまな経験が事例として共有されます。

「適当に野菜を切ってお湯に入れている」
「そうすると旨味が広がらずに、シャバシャバなスープになっちゃう」
「あ〜わかる」
「味噌汁も、なんか味が薄い気がして顆粒だしいっぱい入れちゃうんだよね」
「わかる〜」
「でも美味しいスープって全然旨味が違うじゃない?ああいうの作りたいよね」
「ね〜」

というような感じです。

「あのお店で食べたような、美味しいスープを家庭でもつくりたい」「でも、どうにも味が薄まってしまってうまくいかない」こんなような経験談が共有されるのです。

思い出すことで確認される「動機」「葛藤」「予測」

このように「経験の内省」によって、「動機」と「葛藤」が明らかになります。

「スープをいつもどうつくっているか?」「スープで失敗した経験は何か?」これらの問いに応えながら会話をすることで、「そもそもなぜスープ作りを学びたいと思ったのか」を再確認することができます。「過去に出会った美味しいスープを家でも作りたい」という動機の再確認です。

同時に「なぜスープ作りにつまづいているのか」がすこし明らかになります。「家でつくったスープだと味が薄くなってしまうのだがどうしたらいいのか」という葛藤が明らかになります。

さらにそこから導き出されるのは予測です。「自分が何につまづいているのか」を知ることは「どうすればつまづかずに済むか」を予測することにつながります。

つまり、「経験の内省」のワークを、手を動かすメインワークの前に入れることで、学ぼうと思った動機が明らかになるとともに、日々の実践のなかでの葛藤が明らかになります。こうすることで、なぜこのワークショップに参加しているのか、このワークショップを通して何を乗り越えたいのか、予測を立てることができます。

ファシリテーターにとってのメリット

参加者は、「なんとなく良さそう」という動機でワークショップに申し込んでいる人が多いです。「なぜこのワークショップに参加したいと思ったのか」「ワークショップ後にどんな自分になっていたいか」について、メインのワークに入る前にすこしでも言語化しておくことで、一気に学ぶことへの意欲が高まります。

このワークは、ワークショップを運営するファシリテーターにとってもメリットがあります。そこに集まった人々の傾向や、何を学びたいと欲しているのかを把握することができるのです。

大きなワークの流れを変えずとも、参加者への語りかけや、具体例の提示の仕方をアレンジするヒントになります。

スープ作りとワークショップのアナロジー

スープを作るとき、初めから強火で野菜を煮るのではなく、まずはオイルを温め、ニンニクの香りをつけてから、野菜を炒め、火が通ったら水を加えるというような、細かな手順によってグッと美味しくなることを知りました。

ワークショップにおいても、参加者の経験を温め、「何を乗り越えたいか」という予測を香らせてから、「主菜」となるメインの活動を投入するのがよいようです。

メイン活動の時間を気にしてイントロを早めに済ませたくなるかもしれませんが、参加者がそのワークショップのテーマについて思い出して話してみるフェーズを入れてみると、深いコクのある学びにつながるかもしれません。

今日のnoteは、有賀薫さんの『スープレッスン』をあらためて読み直していたところから着想しました。

 https://www.amazon.co.jp/dp/4833422956/ref=cm_sw_r_cp_tai_9c4tDbM1RWBXK

「経験の内省」はコルブという人の「経験学習」のモデルを参照しています。コルブの経験学習が紹介されている本はこちらの『ワークショップデザイン論』です。

https://www.amazon.co.jp/dp/4766420381/ref=cm_sw_r_cp_tai_3d4tDb594HD74


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