ユースティオ・デ・ヴォール

ユースティオ・デ・ヴォール

マガジン

  • ぼくとわたしのいるこの世界

    ぼくは、あと四日でこの世を去るらしい。その未来を、彼女は知らない───。                                                                      十年前、わたしの恋人が突然、この世を去った。あの日、わたしの世界はガラリと変わった───。                                                        《わたし》が恋人の死を乗り越えるために動き出す時、十年前に死んだ《ぼく》の世界と、十年後を生きる《わたし》の世界が、一つに重なり合う。                                                               ───これは、一組の男女が時を越えて心を通じ合わせる、環世界を巡るラブストーリーである。

記事一覧

●わたし● 1

◆  目が覚めて、ベッドから起き上がり寝室を出た。  隣のリビングに場所を移して、ダイニングチェアに腰を下ろすと、ちょうど正面に見える出窓の向こうで、外の桜が春…

◯ぼく◯ 1

環世界は、〔…中略〕たとえそれがわれわれの肉眼ではなくわれわれの心の目を開いてくれるだけだとしても、その中を散策することは、おおいに報われることなのである。  …

●わたし● 1



 目が覚めて、ベッドから起き上がり寝室を出た。

 隣のリビングに場所を移して、ダイニングチェアに腰を下ろすと、ちょうど正面に見える出窓の向こうで、外の桜が春風に吹かれてキレイに咲いていた。

 その咲姿を見て初めて、冬の終焉と春の到来を実感する。

 わたしに季節の移ろいを気付かせてくれるのは、今や窓から見えるこの景色だけだった。

 別に卑屈になっているのではない。それが現実なのだ。明か

もっとみる

◯ぼく◯ 1

環世界は、〔…中略〕たとえそれがわれわれの肉眼ではなくわれわれの心の目を開いてくれるだけだとしても、その中を散策することは、おおいに報われることなのである。

 【ユクスキュル 〈生物から見た世界〉より】



 みんな、楽しそうに笑っている。

 太陽の光が窓から射し込み、笑うみんなをぽかぽかと暖めている。

 みんな、なにをそんなに笑っているのだろう。

 ぼくも彼らの会話に入りたいけど、ぼ

もっとみる