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クイズ文のふりをした感想文

読解問題も小論文も苦手だった。国語の成績が悪いと「文章を『何となく』読んでいてはダメ」という言葉を頻繁に耳にする。たいてい「現代文はセンスではない、本文に書いてあることを答えるだけ。因果関係や二項対立、言い換えに注意して解いていこう。」という教えが続く。そう言われましても、そんなこと、頭では分かっている。でもうまくいかなかった。焦って肩に力が入り、なおさら内容が入ってこないわで、できなかった。

では、落ち着いて本文を読み、記述するためにはどうすればよかったのか。それには、掲載文章のジャンルを把握することがまず必要だ。そのジャンルの文章の特徴と構造を踏まえ、俯瞰的に読み進めることが、よく読むこと、ひいては、よく書くことにつながる。飯間浩明著『非論理的な人のための論理的な文章の書き方入門』 を読み、この考えに至った。

本書の「はじめに」を読んだだけで、目から鱗が落ちた。飯間先生は、大学生に文章の書き方を教える講義を重ねるうちに、「文章の基本」は「ごく単純な要素でできている」と考えるようになられたそうだ。以下のように指摘する。

「文章には「事実・感想」からなる形式と、「問題・結論・理由」からなる形式とがあるというのが、私の考えです。私は、前者を「日記文」、後者を「クイズ文」と名づけました。 日記文は、事実をありのままに書く文章です。一方、クイズ文は、ものごとを筋道立てて考える文章です。レポートや論文、企画書、提案書などといった、だれもが書くのに苦労する種類の文章は、だいたい後者の形式に当てはまります。」( p.4,飯間,2008)

つまり、世の文章は、「主観(感想)を含み、言いたいことを複数盛りこんである」日記文と、「主観を排し、一つの考えを確実に伝えようとする」クイズ文の2つに分類できるといえるのだ。( p.77,飯間,2008)

筆者は、伝わる文章にするためには、クイズ文のスタイルに則って書くべきだと、クイズ文形式で訴える。

「自分の考えたことを文章にして、読者に間違いなく伝えるには、どうすればいいか?」「そのためには、クイズ文という、『問題・結論・理由』という形式に従った文章を書けばいい。なぜなら、この形式は、読者と一つの問題意識を共有し、かつ、読者を一つの結論に導くためのものだからだ」(p.5,飯間,2008)

冒頭から圧巻。文章の要素分解がお見事。普遍的で汎用性があり簡潔。『非論理的な人のための論理的な文章の書き方入門』に基づいて、文章の基本を把握すると、それぞれのジャンルに対して多くの意味付けが可能だ。これは、書き方のスキルアップだけでなく、読解の手助けにもなる。例えば、新聞のコラムや雑誌のエッセイを読んでいる時、それが日記文に該当していると認識できれば、「著者の一番言いたいことって一体何???」と血眼になって探すことをやめられる。事実・物事と、それへの著者の感想や気持ち、見解を味わうことに専念できる。また、目の前にある文章が、論文や企画書、ビジネス書、学術的な批評文で、クイズ文型だったら、筆者の主張や文章のメッセージ性に着眼し、文章の構造を捉えればよい。このように、文章の基本要素とジャンルを把握することは、読み手としての成長に一役買ってくれる、重要な糸口になるといえる。

確かに、義務教育時の国語の教科書も、高校課程の現代文の教科書も、目次と各ページの見出しには、掲載されている作品のタイトル・作者、そして、ジャンルが載っている。だが当時の私は、教科書の本文のみを注視し、「評論」「随想」「小説」「詩歌」といった文章のカテゴリは、単なる用語として捉えるだけに留まっていた。文章の分類が、実際の文章のなかでどういう働きを持つのか、なんて、つゆ知らずだった。本書で指摘されていることは、言われてみれば当たり前のことかもしれないが、それらの重要性に気が付かせてくれた。

こうしたコペルニクス的転回のような感動は、同著者による『伝わる文章の書き方教室』と、山田由佳氏との共著『重要度順「伝わる文章」を書く技術 だれでも・今すぐ実践できるコツ60』でも味わえる。両書とも、言いたいことの伝わる、洗練された文章の書き方習得に向けて、文章の論理構造、一文一文の語彙力、表現力の磨き方のコツを学べる本だ。『伝わる文章の書き方教室』では、ブログからレポートまで様々な文章を扱っているのに対し、『重要度順「伝わる文章」を書く技術 だれでも・今すぐ実践できるコツ60』は、ビジネスメール対応など、実用文に特化した内容となっている。「読み手に何の情報を伝えるか」「この文章によって読み手にどんな行動を起こしてもらいたいのか」(p.13,飯間・山田,2015)という実用文の特徴を掴める。

文章は単語の集まりだ。単語が連なり、文になる。文がまとまって段落となり、段落が集まって、一つの文章の作品になる。どの文章にも、段落にも、一文にも、語句にも、それぞれ役割を見出せる。だからこそ、伝わる文章読解・文章執筆には、因果関係などの一句一句の細やかな関係性から、「日記文」「クイズ文」のような大きな形式まで、幅広い俯瞰的な思考が不可欠だ。ミクロな視点とマクロな視点の両軸が、何となく読むこと、を防ぐ鍵だと思う。

出典元・参考文献

飯間先生の本を中高生の時に知っていたら、読書や現代文、古文にもっと楽しく取り組めていたはず!

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