【ショートショート】闇は吸う

漆黒の闇の中
どちらを向いても黒い
助けを呼ぶ声はとけて消える
どこに行こうか
どこへ行けるのか
さっぱりわからなかった

どうすれば
どうすれば、ここを出られる?

開かずの間の中にいるようだ
自分も外にいる誰かも開けられない
密室ともいえる場所は
あまりに黒すぎて広いのか狭いのかもわからない

どうやって入ったのか
いつから入ったのか
とんと覚えていなかった

待っていれば誰かが助けてくれるのか
その誰かが誰ひとり思い浮かばなかった

自分はひとりきりなのか
いつからひとりきりなのか
どうしてひとりきりなのか

次々に浮かぶ疑問を闇が吸っていく
その内、考えることもなくなりそうだった

「名前……」

気づいて自分の名前を口ずさむ
自分のものではないような奇妙な気分だった
そもそもこれは本当に自分の名前なのだろうか
別の誰かの名前ではないだろうか
そもそも名前とは何だったろう
頭をふって考えるのをやめた
考えれば考えるほど何かを失っていきそうだ

視界はきかなくても触覚はある
顔や頭、髪、肩、胸から腹へと手で触っていくと
左の脇腹に固い妙なものがあるのに気がついた
固い棒のようなものを片手で握る
記憶はなくとも体は覚えていたのだろう
これが何なのかわからないまま
慣れた動作で思い切り引っ張った

闇の中で銀色の光がきらめく
闇夜に浮かぶ銀月のような光だった
何も考えずに光をいくつもいくつも闇の中に引いた

すいっすいっと光が流れて闇夜に裂け目ができた
そこに棒の先にくっついた銀色の光を差し込んだ
思い切り横に裂け目を広げる
裂け目からは朝日の光が差し込んだ
自分の体が入りそうだったので急いで飛び込む

朝日の中に飛び込んだとたん
自分の手にあるものは刀だと気づく
さらに自分の名前もどこの誰かも思い出し
安堵のため息をついた


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