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おとーた!っぽい!

「おとーた!っぽい!っぽい!」

顔を真っ赤にさせた息子が唾を飛ばさんばかりに叫んでる。息子が指さす先には赤いゴミ箱が置いてあった。息子が寝る時も抱きしめて離さない、赤い車と同じ絵が描いてある。

俺は困惑して妻を見た。妻も息子が何を言いたいのか分からないようだ。天井に視線を向けてあれかな、これかなと考えている。その目の動きは振り子時計の振り子のように右に左にさまよう。

朝はとても忙しい。その朝の忙しい時間に靴下を探していた。雨続きで洗濯物の優先順位が一気に変わる。どうやら俺の靴下は優先順位が下だったらしい。タンスの中からも乾燥機の中からも、はけそうな靴下は見つからなかった。困った俺が妻に靴下はどこかと聞くと、息子が得意げにゴミ箱を指さして叫んだのだ。

「おとーた!っぽい!っぽい!」

最初はさっぱり分からなかったが、妻が無言でゴミ箱に近づき顔をしかめて俺の靴下を取り出した。ゴミ箱の中には昨日食べたお菓子の袋やバナナの皮が入っている。

「どうする?はく?」

自分が手にしているわけでもないのに、靴下にまとわりついたゴミの臭いがここまで届きそうで顔をしかめた。素足を見てからため息をつく。

「…ドラッグストアかコンビニで買ってく」

「これ、洗っておくわね」

靴下が見つかってこれで一件落着だと思った俺は、怖い顔をして息子を見た。

「お父さんの靴下、ぽいしちゃったのか!」

めっという風ににらむと泣きそうな顔で、もう一度同じ言葉を続ける。

「おとーた!っぽい!っぽい!」

顔をくしゃくしゃにした息子をさすがにおかしいと思った俺と妻は、もう一度顔を見合わせる。妻がまたあれこれ考えているようだが、俺にはさっぱりわからなかった。息子が俺のゴミ箱に靴下を入れたということしか分からない。

「ぽい!っぽい」

とうとう泣き始めた息子のそばで妻が手を叩いた。

「そうよ!あなた、自分の靴下、ゴミ箱に捨てたじゃない」

何を言っているんだと俺は妻を睨む。それからつい2~3日前のことを思い出して指を鳴らした。

「穴のあいた靴下か!」

「この子ったら覚えていたのよ。あなたの靴下はゴミ箱に入れるんだって、思っちゃったんじゃないかしら」

ぺたんと床に座り込んで、ぽいを繰り返す息子の表情がほっとしている。もうすこしで、意味もなくゴミ箱に捨てたのだと俺に怒られるところだったのだ。息子を抱き上げてよくよく言い聞かせる。

「穴のあいた靴下は捨てていい。だけど、穴のあいていない靴下は捨てjちゃいけないんだ」

わかるかと言ってもぽかんとしている。抱っこしてもらって嬉しかったのかきゃっきゃと笑った。よしよしと息子をあやしてから下におろすと、鞄を持って慌てて玄関へ向かう。靴下をはかないまま靴をはいた。このままじゃ遅刻してしまう。

靴下が見つからなかったら次はゴミ箱の中も探そう。

その数日後、今度は息子のおもちゃ箱の中から俺の靴下が見つかる。靴下の中には息子の好きなおもちゃの車が詰め込まれていた。サンタクロースが靴下にプレゼントを入れるシーンをテレビで見て真似したらしい。

勘弁してくれ。


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