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尾鷲牛乳のさくらソフトが本当においしい春

 尾鷲ソフトのさくら味、それはわたしにとって南紀の春をあらわす言葉、頭に浮かべばたちまちうららかなそよ風がやさしく髪を撫ぜ、口にすればその足を自然と海沿いの国道へと向かわせる、そんな季語である。家の外に出てなんだか空気の匂いが春めいてきたなと感じると同時にそういえばそろそろあれが出ているころなんじゃないか?と思えるほど、その存在は潜在意識のなかに組み込まれた柔らかい期待に満ちたものなのだ。このよろこびがある限り、わたしはきっと春にはしなない。

 ここのソフトクリームはミルク味と期間限定の味、それら2つのミックスと、常に3種類の用意がされてある。この期間限定が季節ごとにぶどうになったりチョコレートになったり紫芋になったりいちごになったりして、それはそれはいつ足を運んでも税込300円からすごくしあわせになれるのだが、わたしはミルク味を除けばダントツで春限定のさくら味が好きだ。とにかく優しいあじわいが舌のうえに舞い散り落ちてくるはなびらを想起させる。しっかりさくらのいい香りと味があるのに、まろやかで主張がまったく激しくないのでクセがない。

 さくら味、それ自体は実はあんまり好きでもない。この時期はどこのスーパーやコンビニに行ったってさくら味の食品コーナーがあったりするが、むしろ市販のさくら味はなんだか味ィ!!!!!という感じが前面に出てて昔はかなり苦手なほうだった。さくら餅の美味しさが分かるようになったのはわりとここ最近のことであるし、なぜ分かるようになったかというと食べたときに「なんか尾鷲ソフトっぽい味」と思えるようになったからである。わたしにとってのあらゆる「さくら味」は「尾鷲ソフトのさくら味」なので、これに近くないとあんまり好きだと思えないんだと思う。

 とりあえず食べたことがない人にはぜひ食べてくれと言うしかないのだが、そもそも尾鷲ソフトを食べたことがないという人がいたら、とりあえず最初はミルクを食べてくれと思う(いやここまでさくらの話をしてさくらじゃないのかよ)。全部の味の土台を知るということはさくら味に辿り着くまでに必要なことだ。ミックスでもいい。とにかくミルクをまず食べること。コクが素晴らしいから。

 追記
さくら味でいうと那智のねぼけ堂にあったと思う(とても曖昧)春にだけ売り出される飴もすごく美味しくて好きだったなと思い出した。今も売っているんだろうか。

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