ばら撒きじゃない!玉木雄一郎の政策の根幹にある「イエレン論文」をわかりやすく解説

国民民主党推しのUtokaです。
今回は、玉木さんの政策の根幹にあるとされるイエレン論文について、わかりやすさ重視で解説したいと思います。

一般的には「ハイプレッシャー・エコノミー」として知られる経済政策ですが、これが一体何のためにあるのか。そして、ただのバラマキやトリクルダウンとは何が違うのか。こういったことを、わかりやすくお話していきます。


なんのための政策?ヒステリシスという異常事態を脱却するため

まず最初に、イエレンが示す「ハイプレッシャー・エコノミー」が、いったい何のための政策なのか?という点を抑える必要があります。

「ハイプレッシャー・エコノミー」は、「ヒステリシス」を払拭するための政策です。

ヒステリシス(負の履歴効果)とは何か

ヒステリシスというのは、わかりやすく言うと「風邪が長引いて、なかなか治らない」ような状態です。

僕ら人間も、ケガや病気をすると、回復までに長い時間が掛かりますよね。そのケガや病気が治ったとしても、治療中ずっと寝ていて体力が落ちてしまったり…と、影響は後々まで引き摺りますよね。

それと同じで、経済も、一度おおきなショックを受けると、そのダメージが後々まで残ってしまいます。それが「ヒステリシス」です。

ヒステリシスとは、どういう経済状態なのか

具体的にどういう状態なのか。

少し難しく言うと:労働力の喪失、企業の倒産、技術の進歩の遅れ…などにより、経済がフル稼働した場合の生産可能な最大量に損傷を受けてしまう状態です。

わかりやすく言うと:みんなで超がんばったとしても、経済が伸びず、企業も家計もみんな苦しい状態です。超がんばっても、超がんばって生み出せる「新しい価値」が小さくなってしまう。そういう状況です。

ヒステリシスという異常事態

さて、ここで重要なのは、ヒステリシスは異常事態である、ということです。

僕ら日本は、もう30年もの長きにわたって、ヒステリシスの状態にあります。僕なんか、物心ついた頃から経済ずっとヒステリシス。なので、これ普通、当たり前、という感覚になってしまうんですが、そうじゃないんですね。

景気が良くなっていかないのも、給料が上がらないのも、今年より来年のほうが豊かになるのが当たり前には思えないのも、全部、異常事態です。

というのも、人類は放っといても発展しちゃう生き物だからです。なので普通は、だいたい年2%ぐらい、放っといても経済は成長していきます。給料が上がらない経済を30年も続けるほうが、普通は難しいんです。

でも、ヒステリシスの状況にあると、そうならない。
ヒステリシスを払拭しないと、放っといても成長しないし、それどころか、どんどん衰退してしまうんです。

ハイプレッシャー・エコノミーは、ヒステリシスを払拭するための政策

では、このヒステリシスからどう脱却するのか。どうやって払拭するのか。その答えが、イエレンさんの導いた「ハイプレッシャー・エコノミー」(高圧経済)です。

ハイプレッシャー・エコノミーは、ただの「ばらまき」ではない

では、ヒステリシスをどうやって払拭するのか。
基本的な考え方として、「価値を生み出す力」を思いっきり高めます。そのために、経済を一時的に過熱した状態に持っていきます。

重要なのは、「価値を生み出す力」を高める『現代版供給重視経済学』

ヒステリシスは、「経済がフル稼働した場合の生産可能な最大量に損傷を受けてしまう状態」です。逆に言えば、「経済がフル稼働した場合の生産可能な最大量」を思いっきり引き上げることが、ヒステリシスの払拭につながります。

もう少し直感的に言うと、「価値を生み出す力」を高めることがカギになります。現代版供給重視経済学という考え方で、これもイエレンさんが提唱したものです。

トリクルダウンじゃない!現代版供給重視経済学とは

「供給重視経済学」には、大きく分けると、二つの種類があります。一つは1980年代にレーガン政権が指針としたもので、いわゆる「トリクルダウン」と呼ばれるものです。アベノミクスの際にもよく言われた言葉ですね。

しかし、イエレンさんの現代版供給重視経済学(MSSE)は、このトリクルダウンを旨とする伝統版供給重視経済学とは異なります。

伝統版は、減税と規制緩和を軸に民間主導で経済が成長すれば投資家など富裕層の利益はおのずと中低所得層に行き渡る(トリクルダウンする)とした。他方、MSSEではデジタル化やスタートアップ企業の育成、労働者の技能増進など付加価値生産性の向上に向けた取り組みで政府が一定の役割を担い、同時に所得格差是正を行う。

経済を見る眼 なぜ現代サプライサイド経済学が必要か
RIETI 独立行政法人経済産業研究所
フォカルティフェロー 佐藤 主光
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/sato-motohiro/23.html

MSSE:現代版供給重視経済学では、デジタル化やスタートアップの育成、労働者のスキルアップ…などなど、いろいろな策でもって、「価値を生み出す力」を高めていく取り組みが重要になります。つまり、トリクルダウンでもなければ、ただのバラマキでもないんですね。

「価値を生み出す力を高める取り組み」であれば、ここに挙げた以外にも、さまざまな政策が重層的に織り込まれていきます。

ハイプレッシャー・エコノミーの具体策の例

それではもう少し、ハイプレッシャー・エコノミーの具体策の例を見ていきましょう。「価値を生み出す力」を高め、ヒステリシスを払拭するために、どんな取り組みを行っていくのか。主な具体例をいくつか挙げてみましょう。あくまで具体例なので、これ以外にもいろいろな策があり得ます。

1.労働政策:就職、転職、キャリアアップをしやすくする
働く人たちが、もっとお給料の良い仕事に、自分の希望で就けるように後押ししていきます。

2.産業政策:企業がもっと新しいことにチャレンジしやすくする
企業が新しいことに挑戦して、魅力的な商品やサービスをたくさん生み出せるように、後押ししていきます。

3.財政政策:減税や公共投資で、世の中のお金の巡りを良くする
減税をして、自由に使えるお金を増やします。また、政府もお金を使って、仕事を作ったり人を雇ったりして、世の中にお金を巡らせていきます。

4.教育とスキルアップ:一人一人の「価値を生み出す力」を高める
教育を充実させ、みんなのスキルアップを後押しします。こうすることで、一人一人の「価値を生み出す力」をさらに高めていきます。

5.研究開発支援:「新しいものを生み出す力」を高める
研究開発は新しいものを生み出し、今までにないサービスや製品を生み出す、価値の源泉になります。こうしたものを次々と生み出すために、研究開発の支援に力を入れます。

ポイント1:「ちょっとやりすぎるぐらいやる」こと

ハイプレッシャー・エコノミーは、個別に具体策だけ見れば、特に今までと変わり映えが無いように見えるかもしれません。目新しさを感じる要素は今のところ見当たりませんよね。

しかしポイントは、ここに挙げたような政策を、「ちょっとやりすぎじゃないの?ってぐらいやる」ことです。

ヒステリシスは、本来なら放っといても成長するはずの経済が、なかなか成長していかない異常事態です。この異常事態を払拭するためには、「ちょっとやりすぎじゃないの?ってぐらいやる」ことが必要、というわけですね。

ポイント2:財政政策だけでなく、あらゆる政策を組み合わせる

もう一つのポイントは、「あらゆる政策を組み合わせる」ということです。

「積極財政」と玉木さんも言うことが多いんですが、積極財政(国がお金を積極的に使うこと)は、ハイプレッシャー・エコノミーの一要素でしかありません。

「国がどんどんお金を使えば巡り巡ってみんな豊かになる」というのは、どちらかといえば、伝統版供給重視経済学の考え方に近いでしょう。しかし、イエレンさんのハイプレッシャー・エコノミーはそうではなく、これと異なる「現代版供給重視経済学」です。

つまり、バラマキやトリクルダウンではなく、労働政策や産業政策、科学技術政策など、あらゆる政策を駆使して「価値を生み出す力」を高めることが、ハイプレッシャー・エコノミーの本質です。

注意点:経済政策は、状況に応じて「変わる」もの

ここで注意して頂きたいのは、経済政策は、状況に応じて変化するものだ、ということです。「ハイプレッシャー・エコノミーをいつまでも続けるわけにはいかないだろう」という指摘を受けたこともあるのですが、ずっと続けるなんて誰も言っていません。

たとえば皆さん、風邪を引いてお医者さんに行ったとします。

医師:「お薬出しておきますね。」
あなた:「なんだと!?風邪が治ったらどうするんだ!?」

って怒ったりしませんよね。
そして風邪が治った時に、

医師:「もう大丈夫ですね。お薬はおしまいです。」
あなた:「なんだと!?前と言っていることが違うぞ!お前はブレるのか!?」

ってなりませんよね。

経済政策もこれと同じで、状況に応じて政策やスタンスを柔軟に変えていく必要があります。

ブレなければバランスを取れない

もう一つ、たとえ話を出しましょう。
みなさん小学生のころ、掃除の時間に、ほうきを手のひらの上に立ててバランスを取る遊びって、したことありませんか?手のひらを前後左右に柔軟に動かさないと、ほうきを立て続けることってできませんよね。

ほうきが右側に倒れてきたら、右に手を動かす。反対側に倒れてきたら、反対側に手を動かす。ほうきの傾きに応じて、時として真逆の動きをしないといけません。

経済政策は、これと同じです。状況に応じて真逆のことをしなきゃいけない。そうしないとバランスを維持できません。

たとえば、「名目賃金上昇率4%」を、「ほうきが立っている」状態に例えましょう。ほうきを手のひらに立て続けるには、前後左右に“ブレ続け”なければいけない。それと同じで、「名目賃金上昇率4%」を維持するためには、政策は柔軟に“ブレ続け”なければいけません。

よく、政治家に対して「ブレるな」という批判をする人がいますが、その批判が適切なのは、あくまで根幹のイデオロギーの部分だけです。政策については、状況に応じて変わる=ブレるのが当然で、ブレない=いついかなる時も変わらないほうが国民を苦しめます。

ハイプレッシャー・エコノミーも、あくまで「ヒステリシス」を払拭するための政策。ですから、ヒステリシスが払拭された際は、政策を柔軟に変更しなければいけません。

また、ハイプレッシャー・エコノミーの中身(具体策)自体も、状況に応じて柔軟に変えていく必要があります。

そこの見極めと、タイトな政策判断も重要になります。

銀の弾丸ではない:ハイプレッシャー・エコノミーの副作用と問題点

デメリットのない経済政策はありません。当然、ハイプレッシャー・エコノミーにもデメリットや副作用があります。この政策方針を提唱したイエレンさん自身も、いくつかの懸念事項を自ら挙げています。

以下は、2016年のイエレン論文を学習させたChatGPTによるものです。

金融の不安定性: 高圧経済政策は、金融政策の緩和を通じて経済活動を刺激します。しかし、金利が長期間にわたって低いと、投資家がリスクの高い投資に手を出す可能性があり、これが金融の不安定性を引き起こす可能性があります。

インフレーションの上昇: 高圧経済政策は、経済の需要を刺激し、労働市場を引き締めることを目指します。しかし、経済がフル稼働すると、物価が上昇し、インフレーションが上昇する可能性があります。これが制御不能になると、経済全体に悪影響を及ぼす可能性があります。

イエレンの高圧経済と国民民主党の経済政策についてChatGPTさんとお話してみたらスゴかった件
https://note.com/utoka/n/n6673f73ba1df

実際に、リーマンショックのヒステリシスからの脱却を目指し、現代版供給重視経済学に基づいて高圧経済を導入したバイデン政権下のアメリカでは、経済が一時的に過熱しすぎて、金融の不安定化やインフレーションの上昇を引き起こしました。この時、日本の知識人たちや経済通は少し慌てた様子を見せていましたが、アメリカの財政当局がさほど慌てて見えなかったのは、2016年の時点で既にこうなることがわかっていたからではないかと思います。

「起こるとわかっているリスク」に対処するほうがラクだし安全

先ほども少し紹介しましたが、普通の経済状況では、経済は勝手に成長していくものです。ですので、「経済の過熱しすぎによる悪影響」に対処する術は、伝統的に手段が確立しています。

従って、ヒステリシスという異常事態から脱却するメリットと、経済が一時的に過熱しすぎるリスクとを天秤にかけたとき、「経済の一時的な過熱」というリスクを呑んででも、ヒステリシスからの脱却を選択するほうが良い、という判断は、妥当なものだと思います。「最初から起こるとわかっているリスク」に対処するほうが、よほどラクだし安全なのは、当たり前の話です。

現にアメリカは、一時的な景気過熱で少し混乱を見たものの、一年も経たずに落ち着きを取り戻しているように見えます。

【私見】ガソリン代値下げと成長減税の重要性:今の日本にハイプレッシャー・エコノミーを導入するにあたって

さて、こうしてハイプレッシャー・エコノミーを俯瞰し、今の日本に導入することを考えると、気になるのはコストプッシュ・インフレです。

コストプッシュ型とはいえインフレはインフレ。この状況でハイプレッシャー・エコノミーを導入すると、イエレンさん自身が織り込んだ通りにインフレが加速し、コストプッシュ型と合わさって最悪のスタグフレーション(物価は上がるのに給料が上がらない状態)が来てしまう恐れがあるかと思います。

ですので、まずは「コスト」を下げる。
とくに海外から入ってくるもののコストを下げる。
そのために国としてできることは、ガソリン代値下げと成長減税でしょう。

あらゆる製品のコスト構造に含まれる配送費=ガソリン代の値下げは、コストプッシュ・インフレの処方箋として、消費税減税と同等級の威力が期待できます。ガソリン代値下げだけでなく、幅広い減税政策でコスト増を抑え込むことが必要かと思います。

そもそも今のコストプッシュ・インフレは、米中のコロナ禍からの回復に伴い、この二つの経済大国が経済の順調な成長軌道に先行して戻ったことが原因の一つとも言われています。したがって本質的な対処法は、日本も速やかに経済を成長させてキャッチアップすることです。

そのための処方箋がハイプレッシャー・エコノミーなのですが、それを今すぐにやると前述のとおりスタグフレーションのリスクが無視できません。ですので、まずは減税でコストを下げて、コストプッシュ・インフレを緩和し、可能な限りリスクを最小化した上でハイプレッシャー・エコノミーに舵を切る。そういう舵取りが必要になるかと思います。

そういった意味で、今はまさに正念場だと思います。

まとめに代えて

最後にまとめに代えて、もう少し気持ちを書いておきます。

今、将来に漠然とした不安を持っているのは、僕たち30代40代の世代だけではないでしょう。若い人も、中堅世代も、ご高齢の皆さんも、みんなそれぞれ、自分なりの立場で、漠然とした不安の中で生きているのではないかと思います。

この漠然とした不安の正体こそが、ヒステリシスではないでしょうか。

去年より今年のほうが豊かになれたと実感できない。
今年より来年のほうが豊かになれると考えられない。
世の中そういうものだと受け入れてしまっている。

しかし、これは異常事態です。
去年より今年、今年より来年のほうが、豊かになれるのが「普通」なんです。

その普通を取り戻す。
日本を普通の国にする。

そうしてみんなに、経済的にも精神的にも余裕ができてこそ、はじめてAll for All、みんなが「みんなのため」に役割を果たせる社会環境が、到来するのではないでしょうか。

この30年を振り返れば、助けを求める人ばかりが増え、だれかを助ける余裕を持った人はどんどん減っていきました。こちらに支援を、いやいや、こちらに支援を。そうした社会保障の椅子取りゲームの中で、介護や保育、医療の現場で働く人たちや、様々な人々に、一方的にシワ寄せが行ってしまっている。

しかしこれも、考えてみれば当たり前なんです。ヒステリシスという状況で、社会全体の「豊かさ」が次々と損なわれていく中では、だれもが自分の生活を守るので精一杯。自治体も行政サービスの維持に四苦八苦。そうなるのは当然です。

だからこそ、真にAll for Allの社会を構築し、前原誠司の時代を作り上げるためには、イエレンを的確に捉えた玉木雄一郎の政策が必要なんだと、僕は思います。

玉木雄一郎がヒステリシスを払拭し、前原誠司がAll for Allの社会を作る。
今、代表選でこの二人が割れていますが、政策本位で考えれば、玉木さんと前原さんは補完関係です。どちらが欠けても、日本を元気にすることも、安心して暮らせる社会を取り戻すこともできません。

玉木さんと前原さん、この最強コンビが、もう一度、「当たり前に未来が良くなる日本」を取り戻してくれることを期待しています。

以上です。

参考: