おっさんずラブ #6 雑感

 頭が混乱しているので、自分を自分で諫めるためにも、取り急ぎ。土曜23時15分から放送されている「おっさんずラブ」の第6話についての雑感をまとめる。
 端的に言おうか。私は今、言うなればジェットコースターに乗って降りてきたような感覚に苛まれている。こんなに長い1時間も、こんなに短い1時間も、初めて体験した。
 前回の記事にも書いた通り、私は春田創一が大好きだ。それは恋愛的「好き」ではなく、人間的「好き」であるが、とにかく、母親のような慈愛を持って見守っている。モンペである。
 その私から、今回の第6話の感想を伝えるとしたら、「それはあまりにも辛い選択である」ということ。

 職場カミングアウトがどれだけハードルが高いことか。セクシャルマイノリティの人間にとって、「世間というやつはいつだって煩い」から。でも、春田にとって、あのカミングアウトは決意表明だ。やり方は間違っているかもしれないが、それでも、牧と生きていく覚悟を決めた春田なりの誠意だった。幸いにして、職場の皆さんには好意的に受け入れられる。このドラマのもう一つの魅力は、同性愛だからという理由で人を傷付ける人間がいないことにあると思う。そこが「リアリティがない」と評される一端かもしれないが、男女の恋愛ドラマだって、女性目線男性目線からの理想の恋愛を模索して作られているのだから、良いじゃないか、セクシャルマイノリティの人間が理想に生きられる世界があったって。
 話が逸れた。春田の決意表明空しく、まさかの牧本人から否定されてしまう。私は、この時の牧を見て「ああ、なるほどなぁ」と変に納得してしまった。今までも漠然と感じていたが、確信した。
 牧と春田。二人で人生を共に歩んでいく決意をしていなかったのは、牧の方だった。牧には、春田と歩くだけの覚悟も、決意もない。
 誤解を恐れずに言うが、「形だけの恋人」だったのは、むしろ牧の方だったのだ。
 これは、これまでの人生で、牧が如何に苦しい思いをしてきたのかが分かる描写でもある。同性愛者ということで、常に「許されざる恋」に生きるしかなかった牧は、どこかで、関係には必ず終わりが存在することを知っている。永遠に続く関係に、諦めを抱いていると言っていい。
 牧は、「春田さんのために身を引かなきゃ」と考えているんだと思う。第6話の展開は、確かに、牧には辛すぎる場面も沢山あった。春田の母親とのシーンは、特に、彼の心臓を抉ったに違いない。私も見ていて泣いてしまった。母親の反応が「当たり前」で「普通」だからこそ、尚更に。
 それでも、春田をそういう関係に導いたのは牧だ。完全ノンケであり、当たり前に異性が好きだった春田を、この場所に導いたのは牧だ。それは彼の謙信と健気さが引き寄せた奇跡であり、運命だった。
 それなのに、その選択をしてしまうのか。勝手に春田の幸せを決めつけて、身を引いてしまうのか。引きずり込んだその場所に、春田をおいていってしまうのか。
 春田を信じていないのは、牧だった。
 何度も言うが、仕方がない。牧の気持ちも痛いほどによく分かる。彼がその道を選ぶためにどれほど苦しんだのかも、どれほど春田を愛しているのかもよく分かる。それでも――――自己完結の先に、幸せなんてあるはずがない。

 SNSを拝見すると、春田母に対してのヘイトを持っている人がいるが、それはちょっとどうだろう。33歳になってもうだつが上がらず、家事もろくに出来ない息子。しかも、たった一人の息子だ。
 春田家には、父親がいない。亡くなったのか、離婚しているのかは分からないが、あれだけ手のかかる息子を、母は女手一つで育て上げたのだ。そんな息子が、可愛くないわけがない。そんな息子が、可愛いお嫁さんを貰って、孫が出来て、父親になるのを見たくないはずがない。
 そもそも、春田は、5年前には彼女がいたわけで、まさか母も、今は同性と付き合っているなんて思わないだろう。あれはデリカシー云々の話ではない。当たり前で、普通の会話なのだ。
 まぁ、私も頭を抱えて「あじゃぱー」という謎の奇声を口にする程度には、やめてやってくれよぉと嘆いたけれど。

 牧は色々な人と生きる春田の、あまりにも真っ直ぐで、健全な姿を見て、身を引こうと決意する。「春田さんのこと、好きじゃないです」と、思ってもいないことを口にして。
 その時の、春田の言葉を聞いた? もう彼は、君のことが大好きなんだよ。嫌いで苦手な家事を手伝うと泣きながら言って、お父さんにも認められるようにするって言って、泣いて縋ってくれているんだよ。
 春田の幸せを一番に考えて行動しているのなら、どうして、その涙と想いに応えようとしてくれないのか。どうして、その手を振り払ってしまうのか。だって、春田を変えたのは、君じゃないか。

 ああ、ダメだ、思い出して涙が出てきた。最後のあのやり取りは、本当に悲しすぎる。どちらもの気持ちが理解出来るが故に、苦しすぎる。
 春田は、ノンケであったが故に、そしてちずから、「人を好きになるのに性別は関係ない」と言われたが故に、どこまでも真摯に、自分の恋心と向き合っている。
 自分の価値観の外側から突如侵入してきた、牧凌太という存在に、真っ直ぐに恋をしている。
 傷付き果て、どこまでも後ろ向きで、永遠を信じていない牧が、春田の想いを見ぬふりして、全てを終わらせようとしてしまったこと。私はまだ、それが受け止めきれずに、呻いている。
 実は、5話終了後から、なんとなくそうなるんじゃないかとは思っていたが、予想以上にガツンと心臓を抉られた。

 牧凌太君、君は、今までいっぱい傷付いてきた。他の人と違う自分に、劣等感を抱いて、苦しんできた。それでも――――そんな君を、真正面から見てくれるからこそ、春田創一という人が好きになったんじゃないのかい?
 自分の幸せが、相手の幸せにつながるということを、どうか、知って欲しい。君が笑うとね、春田もまた、笑うんですよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?