古本に つもるほこりを はらう主人

最近、「趣味は何ですか?」と言われてことばに詰まることが多いのですが、ときどき「古本です」と答えるわたし。先日も、とある古本屋さんに、いってきました。

そこは、ずっと前から気になってたお店だったので、じつにわくわく。
(本屋に行く、というだけに「わくわく」するのですから、まぁ趣味って言うてもいいのかな。。。)

さて。そんな本屋さんにおじゃましまして。

この古本屋さんは美術系の貴重な書籍から古典を非常に多く扱っておられる専門性の高い書店。今回のお店は幸い古本屋さんにしては広め。10畳くらいの部屋が3つほどに分かれては、どの部屋も本で埋まってるので、私はもくもくと、店主には何も期待することなく、無心で本に向き合っておりました。こういう書店の店主は結構気難しいか、不愛想か、人慣れしておられないのがほとんど。ま、話すこともないやろう、とおもっていた私。

ところがこの店主。
静かな店内で、ごそごそ片付けをしたりしておられるだけかとおもいきや。気づいたら一緒にお店に入っていた息子に「本が好きなの?」と話しかけては、小さな本をプレゼントしてくれてる!

いや~、珍しい人だと思って、お礼を言ったところ、私にもさりげなく「”こんな本がお好き”、とかがあられて来ていただいたんですか?」なんてお話ししてくれるわけです。

おお!意外!!
たったひとこと。こんな質問の投げ方、声色、タイミング、そんなところに自然の胸襟がひらいていきます。

おかげさまで、本の好み、嗜好からはじまり、本の歴史とこれから、なんてことまで、「本」の話に花をさかせることができました。

さらにその話も一息ついて、改めて本を物色してた頃。またまた息子と話してくれています。遠くからそっと耳をそばだててると・・・

「・・・本ってのはね、ここのこの部分を、小口、天、見開き、・・・って名前がついてるんだよ・・・」

「・・・索引っていうのがとても大切で、それは・・・」

本のつくり、構成、内容についての見方、などなど実にわかりやすく語ってくれています。息子もじぃっと聞きいっている様子。

親子で、いろんなことを教えて頂き、さらにとても気持ちのよい接客をしていただき、気持ちよくなって(もちろんすてきな)書を購入して帰りました。

なんて気持ちよく買い物できたんだろう。
こんなお買い物経験は実に久しぶりでした。

なので気持ちよくお店の外に出た頃、そのわけを考えてみてました。

改めて感じたのは、こちらの店主は、決して顧客(である私ら親子)の浅学を馬鹿にしておられないこと。私も古本好きとは言え、木版画の制作プロセスなんて知らないし、和綴じ本の今の流通状況なんて何もしらないわけです。でも、そんな私の無学を鼻で笑うなんてことは決してせず、わからないけど知りたいであろうことを丁寧にいろいろとお話しくださいました。

ある専門への知識が深ければ深いほど、その対象への理解が浅い人を馬鹿にしたり、下に見たりしがちになったりします(私も注意せねば)。
専門性が高い領域や、技術レベルが高い方にはよくありますし、企業の看板にブランド力あらあれる方々にもちょいちょい。
それらはきっと誇りと自信のあらわれなんだろうけれど、そういう態度って、お互いに気持ちよくないものです。


そしてそんな態度に出られると、購買行動も起こりにくくなると思うんですよね(実際今回も、こんなに話をしなかったら購入した本に気づくこともほしいと思うこともなかったです)。せっかくすばらしい商品があったり、サービスがあっても、それを提供する機会が減ったり、うける喜びが遠ざかるようでは、こだわりも誇りも逆効果だと思うんですね。


きっとこの本屋さんは長いこと愛されることと思っています。


ずっと息長い商売をしてゆくうえで、人に愛されること、きもちいい対話ができること、(人との関係において)上にも下にもならぬこと、が実に大切なのだなと、改めて思わされたんです。

何事にも、誇りを持って謙虚にいきたいもの。
それが専門性を真に活かす秘訣、と感じた古本屋さんでした。

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