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先生、これだけは、話せませんでした

この出来事の、私の感情に焦点を当てたお話。

教授にとっては、私は「不思議な子」に見えるらしい。私が彼と会う時、私はひどく怯えているように見えるのだという。

「緊張しているの?」

「はい?」

「なんか、すごく怖がっているように見える」

「そうですか…?」

「大学の先生の事、怖いかい?」

「えぇ…えっと…緊張はします」

「初めて会った時は、あんなに元気だったのになあ、次会った時にはすごく縮こまってたからな。大丈夫だよ、別に殴りかかってきたりはしないんだから….あ、お茶でも出そうか」

「あっ、えっと、はい、ありがとうございます」

「どっちが素なの?」

「え?」

「すごく元気な時の君と、今、縮こまってる君と」

「…えっと…多分….い…ま…です」

「そうか」

自分でも自覚はある。

明らかに声が震える。小さい声しか出せなくなる。背が縮こまる。それで、背の高い彼を見上げている。

そりゃ怯えているようにしか見えない….し、実際ものすごく怯えている。


…教授にとっては、私は「不思議な子」に見えるらしい。

「解離性障害です」と言ったときも。

「僕はもう50年も生きているから、いろんな人を見てきているの。だから、今の君の話を聞いて、大きく負担になることはないから、安心して….でも、君が心に問題を抱えているとは…あ、問題って言い方はよくないか…?」

「いえ、私も自分自身で I have a problem としか言いようがないと思っていますし」

「うん、そうか….いや、そう言うのを抱えているようには見えなかったから…真面目な学生さんだなって思ってたぐらいだったしね」

「それ、よく言われます」

「君の耳のことといい(※私は聴力は問題ないが聴き取りに困難がある、補助器具を使用しているためそのことを教授は知っている)、病気のことといい…君は結構センシティブなのかな」

「そうかもしれません」


たぶん、彼は不可解に思っているのだろう。「腑に落ちたって感じしますか」と聞いたら「いや、腑に落ちてはいない」とはっきり言われてしまったし…。

だって、私は、彼に一番大事なことを伝えていなかったから。

私について彼が知っているのは「聞き取りが困難」「ADHD」「解離性障害」「高校まで心に問題があることに理解を得るのが難しかった」、主にこの4点だ。

「原因は、まあ、わかっているんですが」

とだけ言って、それ以上は言わなかった。言いたかったけど。自分でストッパーをかけた。

教授から不可解に見える私の行動も、私にとってはそんなに不可解じゃない。

だって、私は、大人から暴力を受けていたから。私は、彼にそれを伝えていないから。

他者に手渡すには、あまりにもリスクが高すぎる情報だから、言えない。言わない。

でも、私の「不可解」は、これなしでは説明がつかない。



先生、私は、過去に、暴力を受けました。それは形を変えて、今でも。

初めて会った時に元気に見えたのは、あの場がワークショップで、他の友人や教員もいたからです。だから、元気な人間を演じました。演じることができました。

2回目以降にひどく怯えていたのは、あなたと私が1対1でコミュニケーションを取る場面だったからです。1対1は苦手なんです。怒られた時、逃げ場がないから。ましてや、先生の居室のような、狭い場所では、追い詰められたら部屋の隅に縮こまって震えるしかできることがないから。だから、怖いんです。

あなたがそんなことをする人ではないとわかっていても。

あなたが怖い人間だとは思いません。とても優しくて、多分とても苦労している方なんだと思います。だって、「解離性障害」という病気に対して「詳しくはないけど少しなら知っている」と返せる人、そんなにいません。「僕は君のことを完全に理解してあげられないけど」「僕の存在は毒にも薬にもならないけど」と言う言葉が出てくる年長者に会ったことがなかったんです。

だからこそ、あなたが怖い。

穏やかで優しい人間との付き合い方を知りません。その人がキレるポイントがわかっていないと、不安でしょうがないのです。

だから、あなたの前で怯えてしまう。ごめんなさい。心配かけて。


…腑に落ちましたか?


先生、私は、過去に、暴力を受けました。

聞き取りが困難なのは、そのせいだと思っています。ADHDなのか愛着障害なのか判別がついていません。

とても心を病んでいるように見えないのは、泣いたり怒ったりしたらもっと酷い目に遭うことを学んだからです。だから、いつも笑顔で元気なんです。あなたは「辛い時には辛い顔をしなさい」と言ってくださいました。ごめんなさい、私にはできない。辛いのに、笑顔しか作れないのです。

あなたはきっと冗談で「大学の先生は別に殴りかかってきたりはしないんだから」と言ったのでしょう。…あまり冗談には聞こえなかったです。殴りかかってくる大人、普通にいるから。

あなたに相談した時に、私が一番憂慮していたのは、「短い間記憶が飛ぶ」「一人二役で会話する」「薬の副作用で蛇行しながら歩く」でもなくて、「突発的に自傷/自殺してしまう」ことでした。流石に、言いません。これからも、言うつもりはありません。


私はこの過去と現在をあなたに話したくはない。

あなたは優しい人です、きっと。「今の君の話を聞いて、大きく負担になったり『うわぁぁ』となったりすることはないから、安心して」と言う言葉が出たからには、実際に大きな負担がかかったことがあるんじゃないかな、と思いました。

あなたの話を聞いていて、とても苦労してきたのではないかと感じてしまうのです。50年生きてきたからといって、そこまで障害や病気に拒否反応を示さず、こちらを気遣ってくれる人は見たことないから。

だからこそ。

私は、あなたに負担をかけたくありません。尊敬するあなたがしんどい思いをするのは、とても辛い。「先生に嫌われたくない」と言う感情より先に、そっちが頭に浮かびました。



そうはいっても、近いうちに、話したくてしょうがなくなってしまうのだろう。

我慢できるだろうか。

この話をしたら、流石に、よろしくないんじゃないかとは思う。

でも、私の甘えたい願望が暴走するかもしれない。そうしたら、どうすれば良いのだろうか。

…。

でも、先生、ありがとうございます。攻撃してこない大人の人が気にかけてくれるって、嬉しいから。

いつか、恩返し、できるでしょうか。


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