くりおね

詩人。

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記事一覧

訥々と語り葡萄の花を指す 廣瀬直人

初夏、少し変わった花をつける。目立たないので見過ごしがちであるが、秋になると葡萄になるので、よく見ている人はああこれが葡萄の花なのかと気づく。葡萄の花は、雌しべ…

くりおね
12時間前
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今年よき嫁のゐにける山桜桃 森澄雄

山桜桃は、さくらんぼに似ているが、柄がなく葉に隠れるように実をつける。味はさくらんぼより瑞々しく甘い。皮が薄く傷みやすいので、市場には出回らない。栽培は簡単で、…

くりおね
1日前

滝の前しづかにをりて力充つ 宮下翠舟

湧き出る水が溢れ川を成し、いくつかの川が合流して大河となり、ひたすら海へと向かう。その道中に、大きな落差のある断崖絶壁に遭遇すれば、水しぶきを上げて急転直下、真…

くりおね
2日前

友讃へあふ新緑の若者ら 福田甲子雄

枯れたように見える枝から芽が顔を覗かせたかと思うと一気爆発的に葉を噴く。その葉は、樹によって微妙に違う色合いを成し、やわらかく瑞々しさにあふれる。微塵も不安を抱…

くりおね
3日前

ゼラニウム「アンネの日記」読む窓に 柳澤杏子

スイスは国全体が観光地としての意識が高く、大自然の美観を損ねないように各家庭の隅々にまで配慮が行き届いている。窓辺には寒さに強いゼラニュームが色とりどりに植えら…

くりおね
4日前

献身やあやめをざつと見渡して 飯島晴子

花の根元の網目模様が特徴的なあやめは、水辺ではなく山野に花を咲かせ、地下茎により繁殖し、ひと塊となって壮観な眺めとなる。高貴な紫が人目をさらい、よく見ると猛獣の…

くりおね
5日前

新緑に吹きもまれゐる日ざしかな   深見けん二

冬の間落葉して枝ばかりが剥きだしになっていた木々が、今やすっかり姿を変え、枝の姿は見えず万葉に覆われている。この劇的変化も、日々気づかない程度に少しずつ変化して…

くりおね
6日前

ヨーグルト好きの家族や朝の薔薇   向井富美子

ヨーグルトは腸内環境を整え免疫力を高める。ヨーグルト好きな家族は、みな健康である。熟睡した後のすっきりとした朝を迎え、ひとりふたりと家族が台所に集まってくる。食…

くりおね
7日前

傘ひとつほたる袋に屈みをり 平田君代

提灯のようにふっくらした花を咲かせる。和名の由来は昔、子どもたちがこの花の中にホタルを閉じ込め、家に持ち帰ったからとされている。日が暮れるころ、川の流れる辺りに…

くりおね
8日前
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母の日や若き日の母胸に棲む     江淵とし子

母に感謝しない日はない。毎日母を思い、生きていてほしいと思う。苦労しながら育ててくれた母の姿が目に浮かぶ。涙なくして思い浮かべられない。朝早くから夜遅くまで人の…

くりおね
9日前

ばら愛すごとわが生涯愛すかな    阿部みどり女

愛を告白するときにダイヤか薔薇か、どちらにするか悩ましい。一粒のダイヤに匹敵するほど価値のある薔薇である。高価であるダイヤに比べ、薔薇には棘がある。薔薇を丸ごと…

くりおね
10日前

段畑に人ゐて茅花流しかな 大谷たか子

茅萱は世界最強の雑草で、ところかまわずどこにでも生え、たちまちのうちに群生する。春先細い鞘に花穂を包み、初夏になると銀色の美しい穂を靡かせる。庭や路側帯にはびこ…

くりおね
11日前

電光ニュース左に流れ街薄暑 原ふみ江

上着を脱いだときのブラウスやカッターシャツの白さが眩しい。ちらほら半袖さえ見かける。強い日射しが気になりだす前の、1年中で一番過ごしやすい季節。重い上着を脱いだ…

くりおね
12日前

草刈りて強き匂ひす花蜜柑 右城暮石

5月に入り、草の勢いが驚異的である。ゴールデンウィーク前には膝丈だったのに、最終日には腰が隠れるほどになってしまった。それを草刈り機で一気に片づけた。この草が畑…

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13日前

一合がほどの徳利蜂の巣よ 山崎房子

ゴールデンウィークに遊びに来ていた親戚の子が、指さす「あれはなに?」一合の徳利を逆さにしたようなものが軒下にぶら下がっている。茶色の迷彩模様が怪しげである。調べ…

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2週間前

一気に夏来れり健やかなる者に 大野林火

まさしく名実ともに日本列島は夏である。天気予報は、夏の陽ざしを眩しそうに受け止め、各地の帰省ラッシュの交通渋滞とともに、夏の到来に戸惑う観光地の様子を映し出して…

くりおね
2週間前

訥々と語り葡萄の花を指す 廣瀬直人

初夏、少し変わった花をつける。目立たないので見過ごしがちであるが、秋になると葡萄になるので、よく見ている人はああこれが葡萄の花なのかと気づく。葡萄の花は、雌しべ雄しべを守るように包み、花びらが開くとすぐに落ちてしまう。中央に雌しべ、まわりに5本の雄しべが線香花火のようにぱちぱち飛び散る。受粉した雌しべの子房が一粒の葡萄になり、集まって一房となって垂れ下がる。剛毅木訥、仁に近し。立派な人柄が滲み出る

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今年よき嫁のゐにける山桜桃 森澄雄

山桜桃は、さくらんぼに似ているが、柄がなく葉に隠れるように実をつける。味はさくらんぼより瑞々しく甘い。皮が薄く傷みやすいので、市場には出回らない。栽培は簡単で、病気に罹らず、葉の裏の毛のせいか虫もよりつかない。日陰でも良く育つ落葉低木で、表裏なく毎年びっしり実をつける。葉の陰に赤々とした実をみつけたときに、ふと見えないところでも誠実に仕事をこなす息子の嫁の姿と重なった。ありがたい嫁としみじみ思う。

滝の前しづかにをりて力充つ 宮下翠舟

湧き出る水が溢れ川を成し、いくつかの川が合流して大河となり、ひたすら海へと向かう。その道中に、大きな落差のある断崖絶壁に遭遇すれば、水しぶきを上げて急転直下、真っ逆さまに落下する。滝を前にして何を思うか。それぞれの人生観、俳句観が浮き彫りにされる。滝に魅力を見いだすのは日本人ならではであろう。日本には川が多い。細やかな感性を育み、瑞々しい生命力を触発する。湧きあがるエネルギーの源泉を再確認する。

友讃へあふ新緑の若者ら 福田甲子雄

枯れたように見える枝から芽が顔を覗かせたかと思うと一気爆発的に葉を噴く。その葉は、樹によって微妙に違う色合いを成し、やわらかく瑞々しさにあふれる。微塵も不安を抱えることなく、この世を謳歌してしているように見える。この世に再び春を迎え、真夏に向かう喜びにうち震えているようだ。新緑のもとに集う若者たちが、肩を抱き合いともに健闘を讃え合う爽やかな光景が眩しい。日本の未来を担う若者たちにおおいに期待する。

ゼラニウム「アンネの日記」読む窓に 柳澤杏子

スイスは国全体が観光地としての意識が高く、大自然の美観を損ねないように各家庭の隅々にまで配慮が行き届いている。窓辺には寒さに強いゼラニュームが色とりどりに植えられ、雪渓の白や空の青によく映える。日本では窓辺に花を飾る家はほとんど見かけない。日本の家屋になじまないし、日本庭園のイメージが定着しているからだ。「アンネの日記」は、ナチスドイツの迫害を受けながらも必死に生きた少女の儚い生涯を綴った日記であ

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献身やあやめをざつと見渡して 飯島晴子

花の根元の網目模様が特徴的なあやめは、水辺ではなく山野に花を咲かせ、地下茎により繁殖し、ひと塊となって壮観な眺めとなる。高貴な紫が人目をさらい、よく見ると猛獣の虎の肌に似ていて引き込まれる。直立する葉や花の姿が毅然としていて、迷いを吹き飛ばしてくれそうな爽やかさが魅力である。自らの利益を考えず、自分の身を捧げようと気持ちを新たにする。思いに沈むこともあろう。それを払拭してくれるあやめである。

新緑に吹きもまれゐる日ざしかな   深見けん二

冬の間落葉して枝ばかりが剥きだしになっていた木々が、今やすっかり姿を変え、枝の姿は見えず万葉に覆われている。この劇的変化も、日々気づかない程度に少しずつ変化しているため、何ら不思議とは思えない。この微妙な変化に気づく繊細な神経が人生を豊かにしてくれる。すべては繋がっており、その表面的な現象は刻々変化し膨張し成長している。爽やかな風にざわめき揺れる葉に、光が揉まれていると捉えた視点が斬新である。

ヨーグルト好きの家族や朝の薔薇   向井富美子

ヨーグルトは腸内環境を整え免疫力を高める。ヨーグルト好きな家族は、みな健康である。熟睡した後のすっきりとした朝を迎え、ひとりふたりと家族が台所に集まってくる。食卓の中央には、ガラスコップに薔薇が挿してある。光を集めた水が煌き、薔薇の気品に朝が引きしまる。爽やかな五月、食卓にはそれぞれの好みのメニューが並べられ、賑やかに会話が弾む。今日も一日元気に過ごせますように。その願いが薔薇に込められている。

傘ひとつほたる袋に屈みをり 平田君代

提灯のようにふっくらした花を咲かせる。和名の由来は昔、子どもたちがこの花の中にホタルを閉じ込め、家に持ち帰ったからとされている。日が暮れるころ、川の流れる辺りに子どもたちが遊ぶ。幻想的な風情のある光景が広がる。その昔を懐かしみ、蛍袋の中を覗けば童心に返る。雨に濡れる蛍袋を間近に見ようと膝を折り屈んで見ている人がいて、傘をさす人を見るもうひとりの作者がいる。蛍袋で繋がるしっとりとしたニ重構造を成す。

母の日や若き日の母胸に棲む     江淵とし子

母に感謝しない日はない。毎日母を思い、生きていてほしいと思う。苦労しながら育ててくれた母の姿が目に浮かぶ。涙なくして思い浮かべられない。朝早くから夜遅くまで人の倍働く母のうしろ姿を見て育った。ふつうでは考えられないことをやってのける。よく耐え忍び成し遂げたものである。くじけそうになったとき、母の姿を思い浮かべると力が湧いてくる。母の生きざまを追いかけている。今ある自分は母のおかげである。

ばら愛すごとわが生涯愛すかな    阿部みどり女

愛を告白するときにダイヤか薔薇か、どちらにするか悩ましい。一粒のダイヤに匹敵するほど価値のある薔薇である。高価であるダイヤに比べ、薔薇には棘がある。薔薇を丸ごと愛するものは、棘さえもひとつの魅力として受け入れてしまう。人生は、楽しく幸せなことばかりではない。悲しいことも辛いこともある。それらを含め、丸ごと引き受ける我が人生が、こよなく愛すべき人生であると思えてくるのである。棘の存在が魅力を増す。

段畑に人ゐて茅花流しかな 大谷たか子

茅萱は世界最強の雑草で、ところかまわずどこにでも生え、たちまちのうちに群生する。春先細い鞘に花穂を包み、初夏になると銀色の美しい穂を靡かせる。庭や路側帯にはびこると駆除するのが厄介である。ところが、降雨などによる土手の崩れを防ぐ段々畑には有難い存在である。定期的に刈り入れを行い、管理されている。黒々と耕された畑をとり囲むように茅花の白い穂が風に揺れる。夏野菜の苗が植えられ、夏の盛りを待ち受ける。

電光ニュース左に流れ街薄暑 原ふみ江

上着を脱いだときのブラウスやカッターシャツの白さが眩しい。ちらほら半袖さえ見かける。強い日射しが気になりだす前の、1年中で一番過ごしやすい季節。重い上着を脱いだ解放感が爽やかである。その一瞬の自由の扉を開けた輝きを捉えた。日々新しいニュースを流す電光掲示板。目の動きは、左に流れる文字を捉え、右へ流れる。心の余裕が、ふだん目にとまらなかったニュースに反応した。スマートな街の景色を映し出している。

草刈りて強き匂ひす花蜜柑 右城暮石

5月に入り、草の勢いが驚異的である。ゴールデンウィーク前には膝丈だったのに、最終日には腰が隠れるほどになってしまった。それを草刈り機で一気に片づけた。この草が畑の肥料となり、ふかふかの団粒構造の土を作ってくれる。自然農法である。豊かな土の養分が、ゆっくりじわりじわりと効いて、固太りの健やかな野菜を育てる。明らかに味が違う。畑にはあらゆる果樹が植えられている。辺りに満開の蜜柑の花の匂いが立ちこめる。

一合がほどの徳利蜂の巣よ 山崎房子

ゴールデンウィークに遊びに来ていた親戚の子が、指さす「あれはなに?」一合の徳利を逆さにしたようなものが軒下にぶら下がっている。茶色の迷彩模様が怪しげである。調べてみると、スズメバチの初期の巣であった。さっそく退治する。夜を待ち、家中の窓を閉め切り、網掛け帽子に全身を防護服で身を纏い、蜂専用のジェット噴射のスプレーを発射した。みるみる蜂の巣が液体にまみれて黒くなり、あっけなく朽ちた。南無阿弥陀仏。

一気に夏来れり健やかなる者に 大野林火

まさしく名実ともに日本列島は夏である。天気予報は、夏の陽ざしを眩しそうに受け止め、各地の帰省ラッシュの交通渋滞とともに、夏の到来に戸惑う観光地の様子を映し出していた。はや熱中症の警報が出された。おそるべき地球沸騰化を予兆する。エネルギッシュな夏を乗り切るには覚悟が要る。病弱な人は、気後れしてしまう。海に山にあふれる熱気を健康なる者は胸いっぱいに受け止め、己の生命力を爆発させ、両手に夏を抱きしめる。