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努力とチップとルーレット

デビューしてからこっち、ずっと、
「この世界ってほんとに運と縁とタイミングだよなぁ…!」
と思っている。

若いころはそんなことはなく、
「ともかく自分が努力して、高い実力をつければいいんだろ…!」
と、思っていたんだけれども。
いまでは、「実力の占める割合って多くて3割で、残り7割は運とか縁とかタイミングとか、自分にはわりとどうしようもないものだよなー」と思っていて。
ルーレットだよな、と。

学生時代に挑戦してきたものの多くは、ルーレットとは思わなかった。
特に受験とかって、「◯◯点以上を取ったら合格、未満なら不合格」という、受験生の実力以外の要素は絡んでこない世界なわけじゃないか。「◯◯点以上の人の中から、あとはサイコロで決めますね」とはならない。
スポーツも多くがそうだろう。自分やチームが努力をして実力をつけていければ、ちゃんと上に上がっていける。
もちろん、才能や環境のちがいによって、実力の付き方の係数に違いはある。
けれど、基本的には、正しく努力して実力さえつけば、応じて評価される…という世界だ。

だから学校では、『努力が大切』『努力は裏切らない』と教えられる。
それは正しい。
……正しいんだけれど、それはあくまで、若人たちのためにしっかりとルールが整備された、限定的な箱庭での話ではあって。
じつは人生の大概のことって、自分のそうした手の届く範囲から外れたところにあるものの影響の方が、ずっとデカかったりするんじゃねえか…? ということに、大人になっていくとだんだん気づいていく。
そうしてあらためて見てみると、人間の一生というやつは、生まれた家庭だとか地域だとか国だとか時代だとか、そうしたいろんなでっかい外的要因の影響がでっかくて。
その中で個人の努力なんていうものは、ほんの一端にしか影響していないのだと知る。
世の中に公正さを期待していた人はご愁傷さま。これはテストではなく、ルーレットでした。
『努力は裏切る』し、『結局は運じゃん』とか。

だから努力なんて無駄だとか、そういうことを言いたいのではなくて。
努力をするとか実力をつけるっていう行為は、
「ルーレットをするときに、賭けるチップを増やすこと」
なんだろうなぁ…と思うようになった。

たくさん努力して、たくさんチップを張ったつもりで、それでもハズレたときに虚しくなって、自分がやってきたことはなんだったんだろう…とか、思い悩むことってあると思う。
テキトーにやってきたアイツの方がうまくいって…とか羨んだり。
それに支払ってきた時間や労力が大きいほどに、そういうマイナスの気持ちも、大きくなっていって。
だから努力なんてしない方がいいとか、世の中の不公平さを恨むようになっていったりとかして。

でも、それは、テストだと思っているからそう思うだけなんじゃないか。
ルーレットだということがわかっていれば、それってあたりまえのことなわけじゃないか。
「どんだけ張るチップを増やしたところで、ハズレるときはハズレるし、1枚しか張っていなかったとしても、当たるときは当たる」
当然じゃん?
その上で、
「でも、張るチップを増やすことはべつに悪いことではないでしょ? 当たる確率は確実に大きくなるでしょ?」
「むしろやれることはそれしかないでしょ?」
「チップを増やしてきたこと自体は紛れもなく正しい努力なんだから、それでいいんだよ」
と、受け入れられるというか。

僕は、「自分にコントロール可能な3割までの部分を、自分のできる範囲で精一杯がんばる」「残り7割は運とか縁とかタイミングとか、自分にはわりとどうしようもないものなのであきらめる」と思って仕事をするようになった。
ルーレットの球がどこに落ちるかを考えたって仕方ない。それは自分ではコントロールできない部分だから。
でも、張るチップの枚数を増やすことは、自分の努力と意思でコントロールできるはず。

そういう視点で見てみると…。
1枚しかチップを持っていないのに、闇雲に張り続けたり、賭ける場所を迷って立ち止まっている人には、まずはチップを増やす方が先じゃないか…? と思うし。
「前は赤がきたから次は黒だ!」とか「ディーラーが髪を触ったから次は◯番にくる!」みたいに、球の行方ばかり気にする人にも、やっぱり同様に思う。それって単なるジンクスで、思い込みなんじゃねえ? と。(でも思い込みは大事だ)
まあ、最終的に当たれば正義ではあるので、他人の戦略に口を挟んだりはしないけども。ギャンブル思考もべつに嫌いじゃないし。
でも、すくなくとも子供には、まずはチップを増やすのがいいんじゃないかな…とは伝えたいかなぁ。あなた自身の力でもって、どうにかできる部分だから。

僕の仕事でいえば…。
本が売れるときって、自分だけじゃなくて、いろんな人がチップを張ってくれたんだな…と思うことが多い。
もちろん、作家は最大限多くのチップを張れるように(おもしろいものを書けるように)頑張るのだけど、一人ぶんだとたかが知れている感じもあって、その限界が3割だな、と。
でもそこに、編集者やイラストレーター、デザイナー、営業さんや書店員さん……と、いろんな人にチップを張ってもらえたな、という感触がしたときは、やっぱり売れる可能性は高くなる気がしている。
もちろん、最終的にはルーレットなので、それでも売れないときは売れないんだけど……なるべく張ってもらえるようにしたいなぁ…とはよく思っている。


まじめな話をしてしまったので、お詫びに爆破をしておきます。

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