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真珠のように、夜露のように

 箱根、山中湖、軽井沢と山々を旅した昨年12月、遠来の客も迎えていたせいか、心持ちに小さな変化が芽生えたような気がしている。日が経つにつれ、変化は少しずつ広がり、深くなってきているのを感じる。ほんの少しだけど。

 本当は無理をしなくても、明るい文章を書けるようになりたいのだ。絶望ばかりでなく希望も。焦ることでもないのだろうが、「ぼくたちは決して乗り越えられやしないんだよ。だから、祝うんだ」という言葉が耳に残る。

 娘のような同僚に教えてもらったSFの超短編を読んだ。
 勝山海百合『あれは真珠というものかしら
どことなくアルカイックな雰囲気と色あせたカラフルさに心をぎゅっとつかまれた。二度と互いに会えないだろう彼らの、ふわふわとしたたわいない会話。残酷な科学的ファクトにあらがえない生きる者たちの柔らかな情緒。こんなふうに真珠のように尊くて、夜露のようにはかない、つかのまの優しい時間はもしかしたら、私たちの人生だってそうなのかもしれない。最後にはこれが最後だなんて気づかずに過ごしてしまう。もう会えないなんて、そのときには気づかないのだ。いつだって、後悔だけが残る。

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