はじまりのギフト〜人生のギフトを探す旅・8



ピンポーン


玄関のチャイムが鳴った。


基本、私以外は誰もいない家なので
訪ねてくる人なんていないのに


そう、不思議に思いながら
玄関のドアを開けると


にっこり笑顔の見慣れた「あの人」が
立っていた。


私はびっくりして
言葉を失い、きょとんとなった。


家に先生が来るといえば、


「女番長」であった姉が
学校に来ていないからと、探しにきた先生や


朝、学校に来るように説得しに来ていた先生しか
思い浮かばず・・・


そう、先生が家に来るというのは
私にとって、


なにかと、困ったことがあって平常時ではない。


そんな認識だったので


遅刻は時々はするけど、
間に合うように
「フツー」に学校に行っている私の担任が


家庭訪問でもないのに
玄関先に立っているということが
理解できなかった。


「こんばんは。ごめんね。夜遅くに。
仕事帰りに寄ったら、こんな時間になっちゃったんだ。」


と、笑顔で先生が話しかける。


私自身は、何か私がいけないことでも
したのかしら?と・・・


思いながら、適当に笑顔を作る。


「あのさ、今日は聞きたいことがあってね。
なぜ、君は学校の制服以外のシャツを着てくるのかなぁ?と
思ってね。」




と、言われた。


あっ。


私はその時すべてを理解した。



学校指定以外の制服を着ていくことは
家に学校の先生が家庭訪問にくるほど
いけないことだったんだ。


私の「フツー」では、
「ま、ないから仕方ないや。」


くらいの感覚で、していたことが
学校の先生が家に来るほど
悪いことだったんだ・・・



慌てて、言った。


「あ、すみません。私、まだ洗い替えの制服を
持っていなかったから、姉の中学校の時の
制服をときどき着ていて・・・


すぐに親に言って買います。(ごめんなさい)」



しどろもどろに、言い訳をする私に
先生は、


「あーーーー、な〜んだ。
洗い替えがなかったんだねーー。
あっはっは。」



と、太陽みたいに笑って


「じゃあ、これは先生からのプレゼントだ」



と、後ろに隠していたものを
私に差し出した。



それは、学校指定の丸襟のシャツだった。



「サイズがわからなくってさー。
ちょっと大きめかもしれないけど。」


と、にっこり笑って言った。


私は、慌てて
「お金は明日、持っていきます。」
と言ったが、



「大丈夫!先生からのプレゼント。
明日、校門で待っているから、
そのシャツを着て遅刻せずにおいでね。
じゃあ、おやすみ!」


と、先生は春の嵐のように帰って行った。


アパートの階段をピョン、ピョン、ピョンと
降りていく先生は
笑顔で手を振って消えていった。



玄関に一人残された私は


サンタクロースも一度も来たことがない
家に生まれて


親からもサプライズプレゼントなんて
もらったことがなくて


初めて
家族以外の人から


「サプライズ」というプレゼントを
もらった。


手元に残った学校指定の丸襟のシャツを抱きしめた。



人の「想い」が詰まっていて、
あたたかかった。



私もこんな人になりたい。



きっと


私が先生を目指したきっかけは
「あの人」がくれた


この日のこの出来事で


関わる子どもをこんなにも幸せな気持ちにできる
職業だと思ったからなんだ。




次の日から
「あの人」は毎朝、
校門に立ってくれるようになった。



毎朝、校門に立って
遅刻ギリギリ遅れそうな私が走ってくるのを
見つけると、



大きく手を振って


「急げー!。走れー!」


「遅刻するぞー!走れー!」


と大きな声で満面の笑みで迎えてくれた。


今思うと、


きっと満たされた家庭の
「普通」の中学生なら



あんなに大きな声で名前を呼ばれたり
叫ばれたりしたら恥ずかしいしかないだろうな。


「うぜー」と思ったかもしれない(笑)



でも、その当時の私には
毎朝そこで
変わらずに待っていてくれる人がいることは


この上なく幸せなことで、贅沢なことだった。



その期待に応えて毎朝、
遅刻しないように


走って、走って、がんばって登校していた自分は
この上なく健気で


なんだか、思い出したら
泣けてきちゃったよ。












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