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-003- 満月

お気に入りの本が何冊もある。
季節や、情緒や、時間や、天気によって、
読みたいものも、お気に入りも、ちょっとずつ変わる。
ただ、どんな時でも大事な本が何冊かあって、
それは私にとってお守りみたいなもの。


『キッチン』『満月-キッチン2』/吉本ばななさん

ここにいていいよ、と言ってくれている気がする本。
私のどんなに暗い色をした感情も、
ハンカチ一枚では足りないほど溢れだす涙も、
そのままでいいよ、そんなこともあるよ、と抱きしめてくれる。
どんな負の感情も否定はしないけれど、
なんでも明るさや美談に変えようとは決してしない。
人生なんだから、そういうこともある。
そういうことがあるのがまた、人生なのだと。

深くて重い悩みとか、
どうしようもなく感じる絶望とか、
きっと自分にしかわからないであろう苦しみとか、
なぜか抜け出せない渦巻とか、
そういうのって人に話してどうにかこうにかなるものではなくて。
明確な答えなんてなくて、
きっと自分の中の何かがちょこっとだけ変わらないといけない。
でも、吐き出したい。
救いの手が欲しい。
まるごと許されたい。
そんなぐちゃぐちゃどろどろした何かを、そんな私を、
いいんだよってそのまままるごと受けとめてくれる。
それが『キッチン』という物語なのだ。
自分が話して吐き出すことで消化するのではなく、
この物語の登場人物に思いを馳せたり、
吉本ばななさんが紡ぐ言葉たちを吸収することで、
いろんな感情や考えを重ね合わせて、
痛みを和らげてゆく。
『キッチン』って、
そうやって誰かの一日を一緒に作ってくれていると思うのだ。

「無人島に持っていくなら?」っていう質問。
いつも答えに迷うけれど、
いくつか持っていけるのなら、
そのうちの一つは『キッチン』かなぁ。
そんなお守りみたいな本があるって、ありがたいことなのです。
無人島で寂しくなったら、
『キッチン』の世界に出かけるのさ。

お気に入りの台詞とか、
登場人物の素敵なところとかも、
またここに綴りたいなぁと思っているところ。

次の満月は3週間程先のようです。たのしみ。-umi-

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