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嵐のあと。

今夏は夕刻になると頻繁に雷がなっており、こだぬきずもその頃は雷に慣れっこになっていた。

長かった夏がようやく秋に向かうにつれて、雷は遠のいた。

やっと秋になったかと思っていた11月。再び気温が高くなり、日中は夏に戻ったように暑い。

そして一昨日、午後から降り出した雨は深夜に近づくにつれ強くなり、稲光の閃光が連続する。間髪入れず、耳をつんざき、地面を叩き割ったかと思うほどの大きな雷鳴が轟いた。

その直後、たぬきちの住む地域一帯が停電した。風呂から上がって、しばらく1階でスマホを見ていたたぬきちは、いそいそと勝手口を開け、久しぶりに光を失った闇夜を見てみようと思った。

想像では、雨で月も出ていないので、さぞ真っ暗だと思っていたのに、向かいの家も周りの道路も暗いながらもよく見える。どこから光が来ているのかと探すと、高速道路は配電の設備が別なようで高架の上の照明灯だけが1つポッと白い光を発していた。

あんなもんだけでこんなに明るいものかと思ったが、後で夫に聞くところによると、停電していたのは2丁分だけとかで、時間にしてものの1分程だったそうだ。なるほど他の地域の光が厚い雲に反射、もしくは雨粒による乱反射して届いていた為に漆黒とはならなかったのかと勝手に解釈した。

冷蔵庫はどうしようかと考え出してすぐ部屋の照明が戻った。外を見たり色々考えたりしていたので、もう少し長い間停電していたように思ったが、関西電力によると1分だったそうだ。凄いですね。ありがたいですね。ものの1分で復旧しました。

さすがにこだぬきずも寝てはいられないだろうと寝床を覗くと、布団を被っていて姿が見えない。寝ているのかなと、自分の寝床に入ると、娘こだぬきがパッと掛け布団をはね上げ、たぬきちの寝床に飛び込んで来た。

1番のお気に入りの子ブタの人形を抱きかかえ娘こだぬきはシクシクと泣いていた。

確かにこの規模の雷は怖い。まるで地球のどこかが割れたんじゃないかという轟音だった。

すると息子こだぬきも布団からひょこっと顔を出し、「窓の外真っ白に光ったで」と一言。そして娘は「兄こだぬきは怖くないんか?怖かったらこっち来たら?」といつの間にか落ち着いたようでそう言った。

相変わらず窓を叩きつける強い雨が続くも、稲光だけで雷鳴は徐々に遠のくのがわかる。しばらくしてこだぬきずも睡魔に勝てず眠りについた。

夏の夕刻に毎日のように雷は鳴っていたが、あの時は上空で「ちょっとビビらしたろか」と言うように、ゴロゴロ、ゴロゴロとやっていた程度で、今回のような地割れでもしたかと天からまさに雷を振り下ろしたというのとは全く違った。こだぬきずの心にもしっかり記憶されたことと思う。

その翌日はすっかり秋晴れ。少し気温も下がった様子。学校から帰って来た娘こだぬきが、学校で雷の話をしたことを教えてくれ、たぬきちにタブレットを差し出した。絵を描きたいからロックを解除してくれと言う。

真剣に何かを描いている。しばらくして様子を見ると、カーテンの開かれた窓の先に白く光る閃光を描いていた。

(へー立派なもんだ。心に強く印象が残ったからそれを描こうっていう発想。芸術家やん)

親バカ失礼しました。

出来上がった絵を見てさらに驚いた。娘が大事にしている子ブタ人形4匹(実際に4個持ってます)が描かれていた。女の子と設定している2匹は娘の側にいるが、男の子と設定している2匹は、好奇心旺盛で雷を見に行っている所を想像して描いていた。

「こだぬきちゃんにはそう見えたんや」娘が言う。

怖かった記憶に、ユニークなアイディアを添えて、面白い出来事に転換していた。

人間の想像力ってすごい。怖かった出来事を怖いものとして記憶することもできるし、もっと面白い出来事として転換することもできる。

想像する力。絵を描くという行為の力。創作って癒しなんだねぇ。そんな風に考えた嵐のあと。

トップ絵娘こだぬきが描いた雷の夜です。

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