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過去を変える現在(いま)

先日、人生の大先輩の足を施術しておりました。

地元の方とはちょっと雰囲気が違う。
誰もみていないからといって服装を緩める事はなく、シワのないカッターシャツにきちんとプレスされたスラックス。
この日は少し寒くなったので光沢のあるストライプが入ったスーツでした。

若い頃は、散々仕事に明け暮れ 海外へも行き来が多く、家族との関わりも濃いわけではなかったそうです。70歳半ばで奥さんとは別居し「まるで田舎」でもなく、「街」でもないこの場所に自分にとっての最善の家を建て一人住まい。
娘二人とは時々会う
・・という環境。
毎日決まった時間にモーニングに行き
散歩をし、クラシックを聴きながら
今日の料理を作り、
週に2日の休肝日以外は駅前の静かな飲み屋さんへ。

若い時、親に反対されて美術学校への進学を諦めたので今は趣味で油絵を描き、欲しいという人にはプレゼントするそうです。
なので昼間は手がその気になったらキャンパスに向かう。

なんとも素敵なセカンドライフを送る
80歳の紳士です。
体はある程度かっぷくがいいけど
清潔感をきちんと持っていらっしゃる。

椅子に座って
「さて」と足をとる。
(また始まるなぁ・・お手柔らかに頼むよ)という感じのアイコンタクト。
つい私は(それなりにやりますよ)
という笑顔になる。
施術が始まったとたん顔が痛みで歪む
そこへ畳み込むように話しかける。

「描いて見えますか?」(^-^)
「・・ここんとこねぇ・・なんだろね・・?筆を持つ気がしないというかね。(しばしの間・・・・)昔はピカソとかああいった絵にそんなに憧れなかったけど、なんかねぇ、自分の絵もなんかねぇ」

(スランプってやつだ)

「あれですね、脱皮の前?って感じですかね(^-^)?」
「う~ん・・なんだろねぇ・・」
「じゃあ、ここんとこは昼間どうしてるんですか?」
「音楽かけて料理してるよ。クラシックをね・・」

昔のお仕事は聞く限り家庭での時間がほとんどない様子。
「奥さんは不満を言わなかったんですか?」
「あの人はあの人で自由に海外に遊びに行ってそこが気に入れば延長して遊んどったけん、良かったんじゃないかな?好きにしとったけん」

(あるあるの未確認ですね?)

「娘さんたちは?」
「・・そこはぁ~聞いた事がないなぁ。・・ほんとだねえ、今度週末二人で来るから聞いてみるかなぁ。どう思ってたんかなぁ・・・・」

(そこも未確認なんだ)

「ぜひ聞いてみて下さい。案外予想外の話しが出るかもしれませんよ。笑。そしたらまたキャンパスに向かいたくなるかもですよ」(^-^)

この間も痛みでしかめる顔を伺いながら施術は続く。

「クラシックの他に聞くのはないんですか?」
「ちあきなおみとか聞いてたかな?
レコードありますよ」
「えっ・・レコード? プレーヤーがあるんですか?」
「あるよ。レコードもCDもかなりありますよ。」
「へぇ~。いいですねぇ~。今、若い子でもレコードの音がいいって、わざわざプレーヤー買うらしいですね?」
「いい音だよ」

私の妄想癖はもうずーっと発動中。

余分な物が置かれてないシックな家に
流れるクラシック。
エプロンして料理を作る「紳士」

「レコードでちあきなおみかぁ・・・。ちあきなおみと言えば私だと知ってるのは「喝采」ですかね・・もう一曲、題名わからないけど
あったなぁ」
「「ひれん」っていう歌がね、いい。あれはいい歌ですよ」
「「悲恋」・・へぇー知らないですねぇ。後で検索してみます(^-^)」
「・・良いですよ・・あの歌は」

(なんか有りげな・・・・?)

その後もニュースなどの世間話をしながら最後は日頃の「足に向かう時間」をお家で持って頂くべく指導をし、終わりました。
「年やけん、ここで痛い思いするだけで十分だよ」
と毎回返される。
生活の仕方は至って健康的で
適度な運動を筋肉維持の為にサボらないとこをみてると80歳でこのきちんとした若さはそういう考え方からきているものだと感じる。

そして休憩時間、次回の為にちあきなおみの「悲恋」を検索。
ところが出てきたのは

「秘恋」

ああ、こっちの「秘恋」なんだ。

もしかしたら、そんな体験があったのだろうか?
共感の意味でこの歌が心に響いたのだろうか?
と思ってしまった。
秘めた思いだったのか
秘めきれなかったのか
どんなドラマかわからないけれど
80年の人生だものなあ

今は一人で掃除洗濯食事。
見苦しくならないようにきちんと生活し、思いのままに行動し。
たまには都会の方に出掛け、昔の仲間と宴をし、お金の心配はまったくなく
過ごしてみえる。
うらやましい後半戦と思う。

今度の週末はねだられている車を何にするかと言う事と
働きづめで家にいなかった父親を
どう見ていたのか?

「聞いてみよかな・・」

と思った瞬間を共有させて頂きました。

ちょっと過去の扉を開けて
今の自分を改めて眺める。
そんな時間を過ごすのもまた素敵だと思う。

親子の何かが少しでも変わること
あるかなぁ?
「現在(今)」が
「過去」を変えるかもしれません。

少し前の時代の家族のコミニュケーション不足も、色を変えるかもしれません。

次の施術の時には
また筆が動いているといいですけどね。

この1時間は私にとっても有意義な
勉強時間でした。

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