国立国際医療研究センター_2_

「大阪万博2025で見いだすべき世界II -Society5.0で世界はつながるか?-」

次にSociety5.0についてですが「ともに創造する未来」というテーマに示されているように、価値の共創が1つのキーワードになっています。アラブ地域に象徴されるような石油資源社会から、データが中心の社会に移行しつつあり、金融分野をはじめ、データでビジネスが大きく変化していることは、ここで何度もお伝えしています。今まで、データは所有財であるという感覚が強かったのですが、今後の社会の中では、共有財、公共財という側面でデータを考える必要があります。例として1名の患者さんのデータを1万人に加えることで、1人は実態に基づいたより高い価値の医療を受けることができる一方で、1万人もそれが10万、100万と増える中で全体としての価値を更に高めることができます。万博で築くレガシーの1つとして、データを共有した新しい世界、という点も非常に重要です。データを企業(GAFAモデル)や国家(中国モデル)が独占するのではなく、共有分散させながら、新しい価値観を作っていくような取り組みが2019年のG20から「大阪トラック」として始まりました。これからは日本が世界とともに、どのような将来構想を描くかが重要です。2019年のG20から万博が開かれる2025年まで、データ管理のルールづくりに関するイニシアチブを日本が取ることができます。省庁間で上手く連携し、その間に開催される国際会議などとつなげながら、万博までの流れを作ることができれば、世界をリードする新しいシステム作りやルールメイキングにつなげていけるのではないかと考えています。

万博会場における体験については、世界各国が一堂に会することを活用し、万博の場で新しいルールを作るだけでなく、来るたびに異なる体験ができる仕組みを整えることができればよいのではないかと考えています。万博に対する来場者の関心はそれぞれ異なるため、様々な層に訴求することができる仕掛けづくりが重要です。参加国同士をコーディネートし、価値の共創を促すことによって、来場するたびに会場内が変化していくような仕組みを作ることができれば、何度も行く意味はあります。開催までは日本と各国のコミュニケーションが中心にならざるを得ないですが、開催した後は各国間でシナジーを作り出すような仕掛けが作れればなお面白いと思います。この時、参加国間のコーディネートをどのように進めるのかが重要になります。これまでの万博では資金に限界がある途上国を中心にホスト国がサポートすることが多く、先進国にはそれほど関与しませんでした。ただやはり、規模の大きな国々とも共創を行うことも魅力につながります。シリコンバレーでは見ることができないGAFA、中国が知らない中国を体験できる万博にすることができれば、それは一見の価値があるでしょう。開催国として各国と積極的にコミュニケーションをして、展示をつくることは有用だと思います。

例えば中国は、他の国では不可能な、あらゆるプライバシー情報を取得し、信用スコアという価値軸を作り上げています。中国では、社会信用がデータを用いたスコアとして算出される社会になっています。このスコアが子供の進学先にも影響するなど、貨幣の影響力に比肩し始めています。いままで「お金より大切なものはある」といっても、なかなかそれを客観的に共有することが難しく、貨幣中心に経済が回らざるをえなかったのですが、ここに新しい評価基軸が生まれつつあります。これはポスト資本主義の可能性の1つですが、一元的な価値軸のみでの運用は、管理社会の追究というリスクにもつながります。この時、その価値軸に日本の持つ多様な価値軸を組み合わせていくことができれば、新しい可能性が拓けるかもしれません。

またSociety 5.0が掲げているのは、人間が中心となる社会です。人間中心主義は古代ギリシア期やルネサンス期など、様々な時代において掲げられてきた考え方です。ルネサンス期においては形而上的概念が上位にくる文化から人間中心の文化へというシフトであった一方で、Society 5.0では経済合理性優先の社会から人間中心の社会へ、というようにシフトするパラダイムの違いはありますが、共通する点も非常に多くあります。この共通点に注目して、ルネサンス期の芸術作品の魅力を再発見することも1つのアプローチかと思います。例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』の最大の魅力は、あの微笑です。人が人であるかぎりは世界と特に人とのコミュニケーションが必要で、その際に必要となるのは、他者に対する肯定的な感情でしょう。他者への肯定的な感情は、コミュニケーションの基本要素でもあり、社会が成立するための重要な方程式であるともいえます。人々が中心となる新たな社会においては、“微笑みで人々を結ぶ”ということの、重要性はますます高まります。それはフランスの知らない『モナ・リザ』の新たな魅力を引き出すことかもしれませんし、現代の最先端テクノロジーを用いたアプローチでフランスが誇る『博愛』に新たな形を与えることかもしれません。 人間中心の新たな社会を掲げる2025年に大阪万博においては“微笑みで人々を結ぶという”アプローチに新たな形を与えることができれば素晴らしいと考えています。

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