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2023 best books

日記に書き溜めていた感想たちをそのまま抜粋します。2024年もいっぱい読むぞ。

①みどりの月  角田光代
申し訳ないことに、この本は私の中でダントツの寝落ち本である。なぜって、通しで二十ページも読めたためしがないからだ。しかし、誤解はいけません。決してつまらないものではない。
みどりの月、かかとの下の空、と2作品が収録されているこの本は、とにかく怠い。温い。ほこりっぽい。現実的。ありありと、人生の怠惰な部分や、なまあたたかいのや、ぼんやりと湿っているのが描かれていて、とろりとまぶたが重くなってくる。救いようのない日々。攪拌されていけばいいのに、ドロッと熱をもってそこに居続ける「生活」。あーあ、こういうとこがやなんだよ、めんどいんだよ、というのが目を逸らすことなくしっかりと書かれている。そのぬるさにどうしようもなく、ねむくなってしまうのだ。そうはいっても、一貫しているものがあり、文章としてきっちりとまとまりを持って有るというのは、すごいことだと思う。ありのままの人生を、見つめたいときに、おすすめです。

②ゆっくりさよならをとなえる  川上弘美
初、川上さんのエッセイを読む。ひとつひとつがとても短く、かんたんに書かれているのだが、心臓のまんなかに淡い、しかし確固たる杭を打ち付けられたような気持ちになる。1999-2002年間に新聞に掲載されたものらしいが、脳内にありありと、その時代のにおいや景色や雰囲気が浮かんで来るのだからすごい。なつかしいとさえ思う。
特に、私は川上さんのひらがなと読点の使い方が美しいと思う。ひらがなは、題名からしてわかるだろう。まろみのある、舌ざわりのいい言葉をだしてくれる。読点は、たとえば「それから、電車に乗って、家まで帰った」だとか「実家に、行った」だとか。多用しすぎるわけでもなく、するんと入ってくる文章だが、改めて考えると私だったらそこに読点入れないだろうな…と思うから面白い。独創的で、大好き。

③スティル・ライフ  池上夏樹
私はこの話についていけない。描かれている茫漠とした神秘を理解するに及ばない。あまりにも表象としすぎている。しかし、なにか大切なもの、野生として、生き物として感知しなければならないであろうものが織り交ぜられているのだけは感じる。時間。あまりにも長い時間が、自分の中で渦巻いている。
それは決して輪郭を生まない。けれどたしかにここにあり、私の世界であり、日々なのである。わからないのに、掴めないのに、大事な一冊になっていた。この人にしか描けない世界と、文章。その虜になっている、自分がいる。

④くるまの娘  宇佐美りん
私にはこの人の書こうとしていることがわかる気がする。訴えているものが見える気がする。でもそれはあまりにも鋭利で重たい。のみこむとのまれた後が怖くなる。読み返したくはない、想像したくはない。あまりにもつらい。苦しくて苦しくて、それでも続いていく。この世が地獄なんだ、と思う人がどんなにいることか。救いのない中で、何が変わり、報われるというのか。苦痛や歪みや悲しみを真っ向から見つめる、宇佐美さんの文章に、ぐさりと刺されて、動けない。

⑤薬指の標本  小川洋子
身体の一部が消えてゆくこと、そしていずれはすべてが無と化して人間は死ぬ、ということを鮮やかな恋とともに描いている。
もう一つの物語「六角形の小部屋」もそうだけど、切なくてどこかなにか大事なものを気づかせるような気がする。無と有の絶妙なかんじ、雨の日の透明感と影の感じ、空気の重み、の表現が、すき。

⑥ラフ  あだち充
胸がギュッとなってしまった。本当に、文字通りに。
ラフ、全7巻よみました。いやあ重かった。すばらしかった。仲西と大和、二ノ宮の三角関係といい小柳ちゃんといい、3年間の高校生活に詰め込まれた、青春という漠然としたものを全身で感じた。少年コミックスのくせに、少女マンガでもあり、しかし甘すぎず、スケベすぎるわけでもない。とにかく切ない。どうして、ここまで胸がくるしいのだろう。手の届きそうな、すぐ側にいるのにかすめていくものたち。陽光やまぶしい水面、ならんで歩いた並木道。すべてが眩しくて、美しくて、鮮烈で、目を細めていることしかできない。

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