脱兎のごとく

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「脱兎のごとく」という慣用句を耳に、あるいは目にして、多くの人は「逃げる」と続く文章を連想するかと思います。

語源は、孫子の「兵法」にある文章です。
是故始如處女、敵人開戸、後如脱兎、敵不及拒
「はじめは処女のように物静かにしなやかに振る舞って敵の油断を誘い、そうして敵が門戸を開いたところで、後には駆け出す兎のように、鋭く攻撃する。こうすれば敵はとても防ぎきれるものではない」

ここでの「脱兎」では、いかなる存在も迎え撃つこともできないほどの敏捷性を持ち、あたりを薙ぎ払うようなエネルギーの塊が疾風のように駆け抜ける、非常に生命力に溢れたたくましい姿がイメージされます。
そこには肉食動物にびくびく怯え、絶えず逃げ惑っている弱々しい臆病者といった先入観が入り込む余地はありません。
誰よりも生命を渇望し、生き抜くことのために全力を尽くすことに特化したエネルギー体を、孫子は「脱兎」に象徴してみせたのでしょう。

今の世界は、ものを作れば豊かになる、ものを売れば利益が出る、ものを買えば幸せになるといった単純なステージではなくなりつつあります。
家族、学校、地域、企業、国、経済、思想などなど、何か同一の目的のために、群れが共同幻想を抱いて活動することが、個々人の幸福と直結することはなくなってきました。

ブロックチェーン、IoT、AI、ビッグデータといった流行り言葉は、中央集権的な群れのあり方が崩壊した後に、個々人への分散のあり方を何とか最適化しようとするテクノロジーをそれぞれ部分的に表層しているかのようです。
世界中の個々人を繋げると信じられてきたインターネットも、SNSのように分散型の発信データの急増によって、かえって人々の分断を促進しています。
炎上、誹謗、中傷、氾濫するハラスメント、「共感」という名前の暴力。

このような世界で、生きにくいと感じている人々も着実に増えていると思われます。
少なくとも、生きにくいと「感じることが禁じられてきた」中央集権型の社会構造が崩壊して、ようやく自覚できる、発信できることが少しずつでも可能になってきたように思われます。
幸い、分散型の世界では、選択肢も多様になり、無理に誰かの理想や期待に合わせて自分を圧殺せずとも、何らか個々人の生き方を模索できるようになってきました。

かつて留学、転職、休職、フリーランス、ベンチャーへの就職などが「負け組」であり、「逃げ」であると思われたこともありました。
狐には狐の生き方が、うさぎにはうさぎの生き方があります
世界を果敢に攻略するためのテクノロジーという名の「門戸」が豊富に用意されてきた今、後は脱兎のごとく、生き抜くために攻めるのみです。

攻めるためにこそ、逃げと思われても躊躇しない柔軟な考え方が必要なこともあります。

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脱兎のごとく

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