わたしと名古屋の夏

わたしは愛知県出身で、去年の春から札幌で一人暮らしをしている。名古屋の夏は、本当に暑い。国内のほかの地域と比べても、その蒸し暑さはトップクラスだ。35度を超えない年はわたしの記憶にないし、統計をみれば観測を開始した1890年からずっと、8月の平均最高気温は32度前後。去年の夏には40度を超えたらしい。

名古屋の夏は、試練だ。ジリジリとした日差しに肌は焦げ、汗は滝のよう。青々と生い茂る木々に、幾度となく反芻する蝉の声。でも、負けず嫌いで変に根性がある自分は、そうやって自然の厳しさに抵抗しようとしている時が一番生きてる心地がして好きだ。

名古屋の夏の思い出。

夏に家族でかき氷を食べに行く恒例行事。扇風機しか無い昔ながらの風格をしたかき氷屋さんで、あちいあちいと言いながら頬張るフワフワのかき氷。

土用の丑の日には、上等なお店でひつまぶしを食べる。去年行ったお店は予約が取れないほどの人気店だけど外観は昭和の日本家屋で、風流だったなあ。

もう少し幼い頃、公園でブランコを漕ぎながら友達と見上げた木々。木漏れ日。

35度を超える夏、まるで温泉の中を歩いているよう。青々と生い茂る森を横目に歩くアスファルト、足裏にジリジリと熱が伝わってくる。お前のほうが熱いよね、夏は大変だね。

蝉の声はすごく好き。精一杯生きて欲しい。彼らのわずかな命の痕跡はちゃんとわたしの頭の中に焼き付けられているから、安心して鳴いてくれよ。

こんな夏が好きだった。雑多な感情が点在する、そんな夏。

札幌の夏は、上品すぎる。もっと不器用で生の実感を伴った、扇風機しかない畳の部屋でスイカを食べるような、あの庶民的な夏が恋しい。

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