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お返し

「首が前に出てて、なんか亀みたいだね。」

そう言うなり、その子は突然笑い出した。
中学生の頃の話。
私は人より首がやや長く、姿勢を意識していないとすぐに首猫背になってしまう。
それは何気ない雑談を同級生としていた時。
その前の話の流れは忘れたが、その話相手の彼女が唐突、無邪気に言い放ったのだった。
気にしていたことを指摘され一瞬呆然とした後、私は心の中に冷たい何かがすっと形作られていくのを感じた。
そして私は笑顔で言った。

「そう?じゃあ〇〇ちゃんはさ、色白でふっくらしているから、なんとなくブタさんぽいよね!」

その瞬間彼女は固まり、数秒後、表情を歪めて怒り出した。

「なんでそんなこと言うの?ひどい!」

「どうして?だって〇〇ちゃんが私のことを先に動物に例えてきたから、私もお返ししたのに。」

笑顔を崩さず私は言い返した。

でもそうね、全く同じものをお返しした訳ではない。
さっき心の中に作られた冷たいナイフを仕込んだからね。
その分だけちょっと重さが出ちゃったかな。
痛かった?冷たかった?
もちろんあなたがあんなことを言わなければ、生まれなかったものだけど。

そして現在。
大人になった私。
きちんと手入れされ、しわがほぼ見当たらない長めの首は、人から時々褒められる。

「え~ありがとうございます!でも気を付けていないとすぐ前に出ちゃうから、大変なんですよ。」
ありがとう、私も気に入っているの。

あの彼女とはそれ以来話していない。


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