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2月の読了

今月は3冊。どれも印象に残りすぎていて感想かなり長めです。
気になるものからどうぞ。

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サイレント・ブレス 看取りのカルテ

身内がホスピスで最期を迎えたことをきっかけに手に取った本。

病気だとわかってから1ヶ月あまり、本当に本当にあっという間だった。
高度救急病院で働く私にも相談はあったものの、最後は自分で何もしないと決め、ホスピスへ入っていた彼女。「なんでうちの病院に頼ってくれなかったのか」「もっと上手に説明できれば、来てくれたかもしれないのか」そういう気持ちを抱えたままひきずっていたけど、この本で少し気持ちの整理をつけることができたように思う。

主人公は大学病院から訪問クリニックへと“左遷”された女性医師の倫子。
これまでの「できることは全部やる」医療とは180度違う世界にうろたえながらも、年代も疾患も様々な患者との関わりを通して、医療の限界と、死は負けではないこと、意思を聞き尊重することの大切さを知っていく。
最後の章、倫子自身の父との話は涙なしでは読めなかった。

医療の描写が本当に繊細で具体的で、すごいなあ監修に医者が入っているのかなと思っていたら、作者の南杏子さん自身が現役医師とのことで超納得。

「妙ちゃん、お願いだからこのままでね。先生、あとは苦しくないように。どうか上手に死なせてくださいね」
芙美江は死を覚悟している。これ以上、患者に治療をすすめるのは、ある意味、医療という名の暴力だと感じた。

最後の章、倫子自身の父との話は涙なしでは読めなかった。
誰もが想像したくない、でもどうやっても避けられない親の最期。

アーモンド

2020年の本屋大賞翻訳小説部門1位の作品。
シンプルで、でも何か大きな影を孕んでいそうなこの装丁は書店で気になっていた方もいるのでは。

この小説でいう「アーモンド」とは、ナッツのことではなく脳の扁桃体のこと。(扁桃体はアーモンドのような姿形をしているらしい)
扁桃体は人間の感情を司っていて、ここがうまく働いていないため感情を理解できないというある男の子の話。

言葉の奥に込められた感情は無数にあって、私たちはそれを上手に察知しながら、もしくは相手がそれを汲んでくれることを期待しながら会話しているということを改めて気付かされた。

例えば、全然食べたくもないチョコパイを見て、「僕も食べたいなあ」と言うこと。そしてニコッと笑って、「僕も一つもらえる?」と言うこと。誰かが僕をバシッと叩いて通り過ぎたり、約束を破ったとき、「どうしてそんなことするの?」と問いただすこと。そして両手をぐっと握りしめて涙を流すこと。
そういうことが、僕には一番難しかった。できればそんなことはしないでいたかったけど、母さんは、湖みたいにおとなしすぎても変な子だと烙印を押されるかもしれない、と言った。だから、そういうこともたまにはしなければならないのだと。

「血がだらだら流れてるのに我慢できるって?お前まじでロボットかよ。・・・そうか、そういうことなんだな。そうやって、自分の痛さにもちゃんと向き合わない奴だから、ばあちゃんと母さんが目の前であんな目に遭ってるのに、ぼやっと突っ立ってたんだよ。きっと痛いだろうとか、何とか止めなきゃって思いもしなかったんだ。腹も立てないでさ。どんなに大変なことが起こってるのか、わからないからなんだ。」
「うん。お医者さんもそう言ってたよ。それは生まれつきだって。」
(中略)
「生まれつき?その言葉、俺は一番ムカつくんだよ」
ゴニが言った。

主人公と対照的で、感情の爆弾のような同級生のゴニ。でもゴニに出会い関わっていくことで彼の心が少しずつ少しずつほどけていく様がとてもよかった。正反対の二人だからこそ、お互いは出会うべきだったんだなと思う。

サラバ!

Audibleにて。
発売したての頃に確か一度読んだ。だけど全く新鮮な印象で、感じたことのない感情や考察がブワーっと出てきた。「こんな衝撃的な文章なんで覚えていないんだろう」とか、さらっとした一文にいろんな思いが詰まっているのがわかったりとか、とにかくずっと新鮮だった。

伏線回収ものやミステリーは結末を知った後でもう一度読む面白さがあるけども、これについては8年間で色んな人生経験・知見を積んだ後で読んだから、今回感じた面白さ、引っ掛かり、考察があるのだと思った。

主人公歩(あゆむ)の、あまりに濃すぎる人生。
キャラが強すぎる姉、観察眼に長けた大人びた幼少時代、容姿に恵まれた故の人間関係、それまでの価値観がぶっ壊されるイランやエジプトでの生活、貧しい友人、すぐ近くにあったマイノリティな信仰、その他諸々。
書ききれないような「多様性」をいつも全身に浴びながらも、歩はそれらを拒絶せず、飲み込まれもせず、ただ、それはそれだと受け入れながら彼はどこへもなびかず生きていく。
それは読者としても格好良いなと思う。歩が選んで身を置いた環境ではないとはいえ、幼い頃からこうやって広い世界を知っていれば将来の視野は果てしなく広いだろうと羨ましくなる。
だけど生きながら会得したその「受け身」が、彼の人生を少しずつずらしていってしまう。

かなり長篇だけど、自信を持っておすすめしたい1冊。
Audibleの朗読は松坂桃李さんでした。それもすごく良かったな。

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