見出し画像

悲しみの花を抱いて

「かなし」
悲し。哀し。愛し。

人生の中で「悲しい」という感情が生まれるような出来事は少ない方がいい、少ないことが幸せだと単純に考えていた。
この本に出会うまでは。

裏表紙に書かれた「人生には悲しみを通じてしか開かない扉がある。」という文章に、私は半ば反抗心を抱くような形でこの本を手に取った。
でも、その反抗心は知らぬ間に消えていた。
読み進める中で心に浮かんでくるのは「悲しい」という感情の隣にひっそりと存在している「愛しい」という感情だった。

筆者は言う。

「愛する気持ちを胸に宿したとき、私たちが手にしているのは悲しみの種子である。その種には日々、情愛という水が注がれ、ついに美しい花が咲く。
 悲しみの花は、けっして枯れない。それを潤すのは私たちの心を流れる涙だからだ。生きるとは、自らの心のなかに一輪の悲しみの花を育てることなのかもしれない。」

悲しみを抱く瞬間は苦しく、つらい。もうこんな悲しみは二度と感じたくないと思う。それは自分がいかに誰かを、何かを強く大切に想っていたのかを痛いほど感じるからなのかもしれない。
悲しみを感じれば感じるほど、自分の中にある大切なものに気づけるのかもしれない。

生きている限り、悲しみという感情を失うことはないのだろう。
でも、それを恐れたくはない。
自分の中にたしかに存在している愛おしむ気持ちを、何度も何度も噛みしめながら生きていこう。
私の心のなかに咲く、一輪の悲しみの花を枯らすことのないように。

画像1


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?