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カレイドスコープ ───4/5


 カレイドスコープは今、雪(ゆき)ひとりの手にある。そのことがまだ、胸の中に落ち切っていない。
 幼い時分というのは、なぜエアポケットのように意識のない時間があるのだろう。おかしな夢を見ているときのように、振り向くともう場面が変わっているのだ。

 いつの間にか、光(ひかる)は悪くなっていた。
 気づいたとき、雪はもう光のベッドに近づけず、病室の窓越しにしか会わせてもらえない状態だった。
 透明な管を何本も繋がれ、そこに眠っている兄は、もはや兄には見えなかった。体は赤ん坊のように小さくなり、顔は蝋人形のようにのっぺりとして、生気を失っていた。

 まるで、うっかり回してしまったカレイドスコープのようだった。あわてて逆に回しても、もう元の図像は戻らない。

 白衣のようなものを着た母が、ひとりで病室の中へ入って行き、兄に何か話しかけている。しばらくして母が出て来たあと、雪も父に肩を抱かれて、病室の中へ入った。
 「光」
 父が呼びかけると、兄は顔をわずかに傾けた。
 「雪が来たよ」
 父が、雪を前に出して見せるようにすると、兄は少しうなずいたように見えた。そして、乾いた唇をぎこちなく開いた。何か話しているようだった。
 「わかった。わかった」
 光の腕をさすりながら、父はうなずいていたが、雪にはまるでテレビを見ているように遠く、現実味がなかった。
 まったく呑み込めなかった、その短いひとときが、最後の時間になったのだった。



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