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カレイドスコープ ───2/5


 ベッドに寝かされていても、雪(ゆき)から見た光(ひかる)は変わらず輝いていた。兄が病気になり、自分は元気でいるというのに、いつもどおり兄のほうが面白く過ごしているように思えるほど、光の様子は堂々として曇りがなかったからだ。

 光は、常の快活さを失わず、病気を恐れも悲観もしていないように見えた。勉強を怠らず、読書をよくし、時折スケッチブックに絵を描き、長い一日を過ごしていた。
 ひとりになるとすることが見当たらず、かといって何か始めればすぐ飽きてしまう幼い雪には、そんな兄の様子はいかにも大人びて見えた。
 雪は、外へ遊びに行くより光のベッドのそばにいたがり、母に引き離されるまでは日がな一日、絵本や色鉛筆を散らかしながら兄の真似をして過ごした。

 その後しばらくすると、光は病院へ移ることになった。
 病室には、着替えや身の回りのもののほかは、わずかな本くらいしか置ける場所がなく、地球儀やら模型やらが並んでいた子供部屋が、さすがの兄も恋しかったようだった。
 光の誕生日が近い冬だった。ほどなくして、父がその病室に持って来たのが、カレイドスコープだったのだ。

 まだ、家族の間に希望があり、明るい空気が保たれている頃だった。
 布張りの箱からそれが現れたとき、光と雪の目は輝いた。病室の青白い蛍光灯の下で、真新しいカレイドスコープは宝物のようにまばゆかった。
 光への誕生日プレゼントではあったが、兄は弟にも貸して見せてくれた。結晶のように規則的な配列で連なっていく、色鮮やかなモザイク模様。何度回しても、何度でも答えてくれる。
 兄弟は、この美しい魔法に夢中になった。



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