見出し画像

桜は咲いたか

まだ寒いあの日
私たちの進む道は離れ離れになった

私立の合格発表は全員は合格して
笑顔の裏に公立校の試験を見据えて少しの緊張感があった

そして公立校の合格発表
同じ高校を受験した九人がそれぞれ
自転車で高校に向かっていた
ドキドキとワクワク
様々な思いを胸にペダルを漕ぐ

少し億劫そうにペダルを踏む陽子は
色白の肌に眉を寄せていた

掲示板の前の人だかり
男子のグループと、女子のグループ、それぞれ抱き合って喜んでいた
私たちもと受験票を握りしめ番号を探す
二〇五一・・・二〇五一・・・・・・
「あった!」
歓喜の声をあげる私の横で陽子が俯いた
私よりも頭の良い陽子が、そんなことがあるはずない
陽子が握りしめている受験票を目の端で盗み見て
私も陽子の番号を探す
二〇五六・・・二〇五・・・六・・・・・・
二〇五五と二〇五七の間には、六はなかった何度も何度も確認したけれど、陽子の番号はなかったのだ

「ちょっと待ってて」
俯く陽子に声をかけて
離れた場所で、母のスマホにメッセージを録音する
「受かったよ!」
それだけ残すと私は陽子のところへと戻った

八人が受かって、陽子だけが落ちた
様子を見に来た他の子達を先に返し、私は陽子と中学へと向かった
陽子が大好きな、担任の内山先生に報告しなくちゃならない
受かった嬉しさと、陽子と高校に通えない寂しさを胸に
重い重いペダルを漕いだ

まだ日の高い明るい教室で先生は机に向かい書類を眺めていた
私は入り口で動けなくなってしまった
だって、落ちた陽子と、受かった私
どっちが先に言うべきなのかわからなくて
足が動いてくれなかった

ゆっくり足を進めた陽子が先生の前で止まる
「落ちちゃった」
ポツリとこぼした陽子の目を先生は見つめた
「そうか、よく頑張ったな」
立ち上がりそう言った内山先生に抱き着いて陽子は泣いた

お互い気を使って言葉のない帰り道
陽子は私に気を使って、泣けなかったのだ
立ち尽くした私は、見てはいけない気がして
自分の上履きをじっと見下ろすことしかできなかった

「先に昇降口で待ってるね!」
どのくらいそうしていただろう
陽子の明るい口調にはっとした
顔をあげると、内山先生が手招きしていた

おずおずと足を進めた私は先生に
「合格、しました」と、小さな声で言うのが精いっぱい
「よく頑張ったな」先生は陽子と同じ言葉を言ってくれた
視界がにじむ
でも、涙を溢すまいと上を向いて必死に瞬きした
「陽子に悪いから、喜べなかったんだろ?」
苦笑しながら先生は頭をぽんぽんとしてくれた
すっと流れていく雫たちを私はもう止めることができなかった

桜の下
三年前は桜の下で写真を撮ってたら声をかけられて陽子と仲良くなったんだっけ?
懐かしいなぁ
ちょっとセンチメンタルな気分になりながら三年前とは違う制服で
三年前と同じように母にピースサインを向ける

ピロン

スマホの通知は陽子からだった
「入学おめでとう!学校が違っても、私たちはずっと友達だかんね!週末のみんなで行く映画の約束忘れないでよ!」
添付された陽子らしい笑顔でピースをした自撮り写真

私はクスリと笑って、同じようにピースをした自撮りを送った

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?